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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第五章 しるし

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第73話 復帰戦

 ナコイ港の倉庫街にただならぬ気配が漂っていた。


「この中にいるってのか?」

「はい。そうっす」


 不良集団〝六多頭倶楽部(ロッターズ・クラブ)〟の元ヘッド、今は港で人足をしている(はと)()貴太(きた)(ろう)が此度の依頼人だ。

 道で知り合ったシグヴァルドに案内され、烈士組合を訪れたのは二十分ほど前の出来事であった。


「倉庫に潜む亡霊退治、お(あつら)え向きの復帰戦ですね」


 ライナーが抱えるのは修理中の愛器に代わるギターである。貸し主の(けん)()(じょう)を携えての参戦だ。


「すいません。わがまま言って付いて来てしまって」

「マジで足引っ張んなよ、ケンジ」


 カミーユは機嫌の悪さを隠そうともしない。原因ははっきりしている。


「俺はカミーユが心配で来たんだけどな……」

「あっちのクズ野郎のことならもう気にしてないし。あたしも一応プロなんで。仕事に私情私怨持ち込んだりしないから」

「(思いっきり『クズ野郎』言ってるんだけど……)それもあるけど、しばらくシルフィード呼び出せないんだろ? 俺のために無茶させたせいで」


 事実、献慈の命をつなぎ留め続けたシルフィードの疲弊は相当で、復帰までには少なくともあと数日は要するだろう。


「アンタが責任感じる必要ないから。あの子だって納得してる……ホラ、よそ見してないで。烈士のお仕事体験するんでしょ?」


 そうこうしている間に倉庫の錠前は外され、貴太郎とシグヴァルドの手で重々しく鉄扉が開かれる。


「ここはオレとお兄ちゃんで見張っといてやるからよ。好きに暴れて来な」


 シグヴァルドたちを入り口に残し、三人は前進を開始した。


「打ち合わせどおり行きましょう――慎重かつ迅速に」


 ライナーの紡ぎ出す〈聖者の光鎧アーマー・オブ・セイント〉が守りを固める。ギターが魔導具ではない分、奏手の消耗は激しい。

 カミーユも同様、シルフィード不在による霊力低下は無視できない。

 そうなれば、短期決戦の要となるのは献慈の立ち回りだ。


(まず敵を見つけないことには……)

「いたよ!」


 倉庫の中ほどに達した所でカミーユが声を上げる。


 資材の陰に蠢くのは、死体の姿を真似て実体化する亡霊・アヤカシだ。海難事故の現場での遭遇例が多い魔物だが、稀に積み荷などに紛れて港に入り込むことがある。


「同時に仕掛けよう」

「りょーかい」


 献慈は杖を、カミーユはダガーを構え、挟撃をかけようとした間際。


「ギョウォワアァァ――ッ!!」


 ブラックメタルのボーカルばりの金切り声が耳を劈く。怯む献慈へ突進をかけて来たのは、鬼人族の亡骸を模した巨体であった。

 崩れた資材で味方は分断されている。


「クッ……このまま俺が引きつける!」


 大振りな攻撃を見極め、敵の脇腹へと杖を叩き込む。


(何だ!? この手応え……)


 風呂水をかき回すような感触に献慈は得心する。外観だけを真似た敵の肉体は半ば霊体も同然で、物質としての密度は希薄な状態にあったのだ。

 一方でカミーユも黙ってはいない。


(いら)えよ――〈琥珀の大鴉(アンバー・レイヴン)〉!」


 祭印(サイン)に呼応し現れたのは、黄褐色に透き通る鳥型の精霊だった。大鴉はカミーユの両肩をつまみ上げ、障害物の上を滑空し敵を背後から急襲する。


「待たせたな!」


 頭上から〈琥珀の大鴉(アンバー・レイヴン)〉が高らかな啼鳴が浴びせかける。その波動は撞木(しゅもく)が釣り鐘を打ち鳴らすがごとく、アヤカシの体を小刻みに震動させていた。


(共振している……?)


 振り向く隙は与えない。飛び降りざまにカミーユがダガーを一閃させると、アヤカシの背中から黒い飛沫が噴き上がった。


「とりあえず半熟ってとこ?」

「上出来!」


 敵の喉元へ突きを見舞う。巨体がぐらりと揺れ、予想に違わぬ抵抗感が献慈の手の内へ返ってくる。アヤカシの肉体は〈定着化(フィクセイション)〉に類する作用で凝縮させられていたのだ。


 追撃の好機。ライナーが満を持しての〈戦歌(クリークソング)〉を開放する。


「ケンジ君、とどめを!」

(このまま決めてやる――)


 献慈は〈ペインキル〉から抽出した清浄な光を杖先に灯らせ、木箱を踏み台に跳躍、渾身の打ち下ろしをアヤカシの脳天へ叩き込んだ。


「――〈黎明断(れいめいだん)〉ッ!!」

「ディイャアァァ――ッ!!」


 霊物両面からの攻勢を受けたアヤカシの体は崩壊、黒膿となって霧散する。呪楽の後押しこそあれ、献慈自身も驚く威力であった。


(キルロイさんが開いた〝門〟……まるで流れが全部つながったような……)

「はぁ~っ、もう限界」


 カミーユは待機中の〈琥珀の大鴉(アンバー・レイヴン)〉を送還、ライナーも演奏をぴたりと止めた。


「恥ずかしながら僕もです」

「二人とも、おつかれさま」


 万全とは言い難い状態で的確な援護をしてくれた仲間たちに、献慈はねぎらいの言葉をかける。


「ケンジ君こそお見事でした。いつの間にあんな技を身につけたのでしょう?」

「何というか、説明が難しいんですが……それより依頼の魔物って今の一体だけですよね?」

「ほぇ?」「ふむ……」


 どうやら烈士のお仕事に報連相の概念はなかったようだ。


(誰も確認してない! 俺も人のこと言えないけど……ん?)

「うぉおおぃ!! こっちィいい――っ!!」


 貴太郎の声が異変を知らせる。扉のすぐ内側、不定形の影が人型を成そうと懸命にのたうっていた。


「もう一体いるじゃん!」

「すでに実体化を始めています!」


 一も二もなく、献慈たちはまっしぐらに駆け出していた。


「シルフィ――」言いかけたカミーユがはっと口をつぐむ。「むぐぐ……」

「シグヴァルドさん! そこから離れて!」


 献慈の警告に対する返事は大胆不敵、


「その必要はねぇよ――」


 襲い来る影めがけ打ち出されたシグヴァルドの縦拳。


「――〈熱破衝(ディスヒート)〉ッ!!」

「ギョワ――ッ」


 アヤカシは金色の陽炎に巻かれ跡形もなく消し飛んでいた。


「サービス出勤だぜ」


 シグヴァルドは涼しげな顔で親指を立ててみせた。

次話へのつなぎ


【番外編】第73.5話 言い訳

https://ncode.syosetu.com/n0952hz/19/

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