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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第五章 しるし

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第68話 俺を照らす太陽

(何だって!? ここまで来てそんな……!)


 迫り来るもう一人のマレビトを前に、(けん)()は己に問いかけた。

 半ば死に呑み込まれつつもなお、何のために自分は生きようとするのか。


 浮かんでくる。風に揺れるひまわり。(たちばな)の香り。柔肌の感触。あたたかい、春の陽射しにも似た温もり。

 どこまでも愛しい、あの人の笑顔。


「俺は……この曇り空の下で立ち止まるつもりなんてない! もう一度あの青空とあたたかい光の下で堂々と生きて行くんだ! 俺を照らす太陽は……(みお)姉こそが俺の太陽なんだ!」

「……なっ……!?」

「俺がこのまま死んでしまったら、きっと澪姉は罪悪感に押し潰されそうになりながら、自分を責めて、責め立てて、すごく苦しむと思う。そんなの俺は耐えられない。あの人が笑顔でいるために俺が必要だっていうなら、一刻でも早くそばまで駆けつけてあげたい。もう心配いらない、もう大丈夫だよって、元気づけてあげたいんだ! だから俺は、何が何でも――」


 誰へともなく、言葉が、想いが、献慈の口をついて溢れ出る。放っておけばいつまでも続きかねない情熱的な口上を、キルロイが手振り付きで制止した。


「待て待て! お前さんの気持ちはもう充分伝わった! ……ふぅ。そこまで熱くならずともすぐに送り出してやるわい……ほれ」

「……へ?」


 すんなりと棒を手渡され、献慈は唖然と立ちすくんだ。


「若い者はせっかちでいかんのぅ」


 キルロイは大きな倒木を片手で軽々と持ち上げる。掌上の倒木は見えない力に削られ、くり抜かれ、一艘の丸木舟に形を変えた。

 ひょいと放り投げられた舟は、川べりぎりぎりに音もなく着地する。


「用意できたぞ。お前さんはあれに乗って上流まで向かうがいい」


 キルロイに言われてようやく、献慈は自分が手にしているのが舟を漕ぐための(かい)であることに気がついた。


「……あ……ありがとうございます。それじゃキルロイさんは初めからここに残るつもりで……?」

「マレビトは一代に一人――たしかに儂は過ちの代償としてその(くびき)から逃れてはいる。だが同時に戻るべき肉体も失われておるのだ。献慈どのは違ってな」

(そうか……俺は何て思い違いを……)


 丘を下るにつれて水音が近づいてくる。川のほとりに着いてしまえば、きっと互いの言葉さえ聞き取れなくなってしまう。


「キルロイさん……このご恩は一生忘れません」

「こちらこそ、ドウモアリガトウ。同じ境遇のお前さんと出会い、こうして言葉を交わし合えた喜びは何物にも代え難い。儂も苦心して翻訳術式を組んだ甲斐があったというものよ」

「術……え? 翻訳……」


 戸惑う献慈の胸に、キルロイが掌を当てる。


「最後に儂から、ほんの手向(たむ)けだ」

「何を――――んっ……!?」


 霊気が流れ込む感覚。おぼつかぬ足元が定まるような、あるいは内側から身が引き締まるような鮮烈さだ。


「この傷痕…………まぁよい。それよりお前さん〝門〟が開きかけておるようだが、何ぞおかしなツボでも押されたかの?」

「ツボ?」と聞いて人懐っこい少年道士の顔が浮かぶ。「心当たりがなくもないような……」

「ふむ。物のついでだ、こじ開けておこう」

「こじ開……って、ひぎいぃ……っ!?」


 電流にも似た衝撃が全身を駆け巡った。はずみで櫂を取り落とすも、気にかける余裕はない。身を(よじ)ろうにもキルロイの手が吸い付いて離れないのだ。


「ゆくぞォ……開け、背芯(はいしん)の門――〈潜在能力抽出ケイパビリティ・グロウン〉ッ!!」

「んぉほおおぉぉ――――ッ!!」

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