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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第四章 川渡るふたり……ひとり

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第61話 戦場(いくさば)に負け犬の居場所はない

 ヨハネスはおそらく全力を出していない。理由は不確かだが、そこに付け入る隙があるはずだ。


「……ヨハネス!」


 あらん限りの勇気を、(けん)()は声とともに振り絞った。


「提案があるんだけど……ここは一旦見逃してくれないか?」

「献慈……」


 案の定、(みお)以外から向けられる目は厳しい。だがそれは承知の上だ。


「また貴様か。先ほどといい、興を削ぐ真似をしてくれる」


 ヨハネスの意識がこちらに向いたことこそ重要だった。楽観的に考えるならば、対話の余地はまだあると示されている。


「仕方ないだろ。こんな馬鹿みたいな役回り、俺にしかできないんだから。それよりも……退いてくれる気はあるのか?」

「……ないな」

「どうして?」

「このまたとない巡り合わせを、見す見す捨てて去れというのか?」

「あんたが本当は何をしたいのか、俺にはわからないけど……何だかちぐはぐだよ。人さらいの件とか、さっきの――」


 話の半ば、怒気を含んだ声が割り込んできた。


「ケンジ」カミーユだった。「もう下がっててくんないかな? アンタのそういうとこ、まじイライラする」

「お、俺は……」

「あたしらの決意を揺らがさないで。勝てるもんも勝てなくなるわ」


 擁護の声はない。その時澪がどんな顔をしていたのか、献慈には確かめる勇気がなかった。

 ややあって掛けられた声は味方からのものではなかった。


「よくわかっただろう、お前がこの場で最も邪魔な存在だということが!」


 血溜まりを思わせる二つの紅玉が、歪み青ざめた少年の顔を映しだす。明確な害意がそっくり自分へ注がれていることを、献慈の全感覚が告げていた。


「ッ……!!」

「やめろぉ――!!」


 刀を振り被った澪が、背後からヨハネスに挑みかかる。


「――ごぼ……っ」


 ヨハネスの後ろ蹴りが、澪を山なりに大きく吹き飛ばす。

 献慈は我を忘れ駆け出していた。


「澪姉ぇっ!!」

「――このバカぁっ!!」


 カミーユが苦渋に満ちた面持ちで祭印(サイン)を振り上げる。


「何――?」


 足下に潜伏させていたシルフィードが、竜巻を纏い地表へと噴出する。ヨハネスの体が空高く浮き上がり、両手首と両足首を緑風の(かせ)が大の字に捕縛した。


「〈四極転輪(フォー・モメンタ)〉――もう、やるしかない!!」カミーユ。

「やむを得ません――〈光過敏促進センシティヴ・トゥ・ライト〉」ライナー。

「Ena riguit: fymeny-ri mepo-'i ezeaing!」


 そして安珠が〈魔力付与(エンチャント)〉を空へと(はし)らせた。光の軌跡は屋上を跳ぶ珠実の鉄扇に宿り、金色(こんじき)のオーラを灯らせる。


「金行の極み――〈娥娜太(がだだ)(びら)〉ッ!!」


 広げられた扇が珠実自身を上回る大きさにまで巨大化し、(はりつけ)にされたヨハネスを打ち据えた。


「クッ……もう、限……界……」


 祭印(サイン)を掲げたカミーユの手が、激しい霊力の消耗に耐えかね降下していく。

 ヨハネスの拘束が解ける直前、再装填を完了させた安珠の〈聖浄光(クリアライト)〉が発動する。


「...entu-'i zuneka!」


 ありったけの魔力が注がれた全四十八条、目標へ残らず着弾。爆裂する光の奔流は南の空に十字の星を煌めかせた。


 煙を上げ落下してゆく怨敵――ところが、


「やはり……あと一撃……」


 嘆息するライナーを嘲笑うかのごとく、ヨハネスは身を翻し着地する。


「皮肉だな……この呪わしい肉体のせいで生き長らえるとは」


 元々の耐久力に加え、ヴァンピールの持つ〈再生能力(リジェネレーション)〉――今こうしている間にもヨハネスの傷口は、ぶつぶつと泡を立てながら塞がりつつあった。

 万事休す。


「〈瞬突雷閃(シュトース・ブリッツ)〉――」


 電光石火の剣突が珠実の体を刺し貫き、


「――再来(レプリーゼ)


 返す刃が反対側にいた安珠をも貫通する。二人は声を上げる間もなくその場に崩れ落ちる。

 残るはもう二人。


「マジかよ……畜生」

「カミーユ、こんなことを頼むのは非常に心苦しいのですが……」


 言い渋るライナーに、カミーユはかぶりを振って応える。


「今の天候ならイケそうなんだろ? ここはアンタに懸けるから」

「成功させてみせます……必ず!」


 爪弾く呪楽が転調へ向かう中、精霊の祭印(サイン)が再び掲げられようとしていた。


「シルフィ――」

「二度は喰わん」


 背後へと凝縮した緑風を、ヨハネスは振り向きざまに〝霊剣〟ドナーシュタールで薙ぎ払う。


「Eeh...!」「どぅへぁっ……!」


 直撃を受けたシルフィードと同時に、カミーユがフィードバックしたダメージで跳ね飛ばされる。さらにはその先にいたライナーと衝突。


「ウグッ……!」


 辺りを騒がす不協和音とともに演奏が中断された。

 気を失ったカミーユと、破損した愛器を茫然と見下ろしながら、ライナーは選択しなければならなかった。


「……もはや……僕にできるのは……」


 撤退。ライナーは生い茂る(あし)をかき分け戦線から離脱する。ヨハネスはそちらを一瞥するも、距離が遠すぎると悟ったのだろう。


「いずれも……成すべきを成すのみ」


 執行者の爪先は残るふたりへと定められた。


(いくさ)()に負け犬の居場所はない」

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