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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第四章 川渡るふたり……ひとり

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第60話 降りかかる火の粉

 舟小屋の戸が大きく開け放たれた。


「うへぇ!?」


 戸口から現れた人物が(けん)()たちを見て頓狂な声を上げる。雨合羽を羽織った中年の男性だ。


「な~んだべオメらぁ。いぎなすぇこっだトコさいだんだ、たまげんでねぇべが」

「すいません! 今ちょっと抜き差しならない状況が続いてまして……」


 献慈の弁解に男性は目を丸くする。


「ぬ……抜ぎ差すぇ……!?」

「そうなんです! 私たち、今から一戦交えるかもしれなくて……」


 (みお)も切迫した現状を訴えかける。


「い、一戦(まず)えるあぁ!? まったぐ最近の(わげ)ぇもんは、真っ昼間からこっだらトコで……しょうがねぇだなぁ」


 男性はたじろぎつつも納得してくれたようだ。


「はい。ですから今すぐに――あっ!」澪が小さく声を上げる。

「気ぬすねでゆっぐりすてげ。オラぁしばらぐ(そど)ほっつぎ歩いて来んべがらよ」

「ん――!?」献慈も遅れて異変に気がつく。「いや、ダメです!」


 立ち去ろうとした男性の背後に、忍び寄る仇敵の影を発見する。


「献慈、おじさんから先に!」

「わかった! ……さぁ、こっちです!」


 戸口へ向かう澪と入れ違いに、献慈は男性を裏口まで引っ張って行く。勢い余って壁際に押しつける体勢になってしまったが、気にしている余裕はない。


「後ろから行きますよ!」

「な、なぬ~っ!? オメぇ、まさが両方……」


 こちらへ尻を向けた男性の肩越しに、献慈は引き戸の取っ手に手をかける。


「クッ……これは固そうな……」

「ま、待づだ! オラぁまだ(こごろ)(ずん)()が……」

「ふんっ! ふんっ!」

「はうぅっ!」


 力を込めて戸を揺らすも、建てつけの悪さからか、引っ掛かりが邪魔をする。


「クソッ……力ずくでもこじ開けないと!」

「もっと優しぐしてほしいだよ……」


 男性が献慈にしなだれかかろうとしたその時、引き戸が向こう側から力いっぱいに開け放たれる。


「さぁ、こっちへ急ぎな!」


 凄みを持った声の主は、先ほど橋のたもとで澪と話していた中年女性であった。貫禄ある佇まいはそのままに面立ち鋭く、手には鉄扇を携えている。


「ひえぇっ! 今度はオバサンのおしおきだか!?」

「誰がオバサンだい! 〝鉄火蝶〟の(たま)()たぁその昔……まあいい。そんなことよりアンタはとっとと向こうまで逃げるんだよ!」

「は、はいぃっ!」


 走り去る男性を見送りつつ、献慈は事の次第を問う。


「貴方は……一体どうしてここに?」

「話は後だよ。一緒にいたお嬢さんは……あっちかい?」


 珠実と名乗る女性とともに献慈は表側の戸口へ回り込む。

 早速、澪がこちらを見て驚きの表情を浮かべた。


「珠実さん!? ……そっか。カミーユたちが……」

「あぁ。精霊を使って一人ずつ橋の上から降下させてるところさ。みんなすぐに駆けつけて来るはずだよ」

「姪っ子さんも?」

「……キホダトに早馬を遣ってある。救援が来るまでアタシらがやり過ごすから、お嬢さんたちは下がってな」


 身のこなしを見るに、珠実がひとかどの実力者であるのは献慈にも窺い知れた。


「ここは任せるべきなのかな……?」

「……献慈は隠れてて」

「澪姉は!?」


 居合腰を取る澪に先駆け、言葉を発した者があった。


「『救援が来る』――と言ったか?」


 ヨハネス。互いの顔を確認できる距離にまで迫って来ていた。

 鉄扇を構えた珠実の額にうっすらと汗が滲む。


「ああ」

「烈士……いや、幕府の隠密だな」

「答える義理はないね」

「そうか。降りかかる火の粉は払わねばなるまい――」


 徒手空拳のヨハネス、無構えから順突きを繰り出す。

 後の先で迎えるは珠実。


「う――っ」


 急加速したヨハネスの拳は防御をすり抜け喉元を打ち抜く。珠実の上半身があっけなく爆ぜた。

 乾いた音とともに破片が飛び散る中、背後から澪の抜刀が襲う。


「いい太刀筋だ」


 空を切った刃の上をヨハネスの体が逆さまに躍っていた。仇敵同士の目線が上下互い違いに交差する、一刹那の奇景。


 そこへ怒涛のごとく迫るのは、鮮緑の突風。


「――〈疾風追奏(ウィンドチェイサー)〉ッ!!」


 瞬間、ヨハネスは澪を掴んで放り投げ、入れ替わりに着地、襲い来る猛風の刃を躱し切る。

 辛くも受け身を取った澪が風上に目を向ける。


「みんな!」

「ミオ姉! ケンジも無事!?」


 カミーユの後ろには呪楽を奏でるライナー、そしてロザリオを手に詠唱をする珠実の姪までもが揃っていた。


「俺は無事だ! けど――」


 木屑の薄ら甘い匂いが鼻をつく。その出どころに献慈が思い当たるより早く、ヨハネスは剣の柄に手を掛け、澪の方へ踏み出そうとしていた。


(――澪姉が……!)

「待ちなッ!!」


 珠実の声だった。舟小屋の屋上から鉄扇が飛来し、澪とヨハネスとの間に割って入る。


「今だよ、安珠(あんじゅ)!」

「Ena riguit: kawquiing-reno fymeny-ing, endu-'i sunega!」


 〈聖浄光(クリアライト)〉――何十本もの光線がヨハネスめがけて一斉に撃ち出された。


「〈屠光迅剣(リヒト・シュレヒター)〉」


 ヨハネスの周囲を恐るべき(はや)さで薄紫の光芒が閃く。直後、雨霰(あめあられ)と浴びせられた光束は、ことごとく打ち払われ霧散してしまっていた。

 流木の残骸を踏みしだくヨハネスの手にあったのは、淡い雷光を宿す霊剣――


「ドナーシュタール!」

「あの剣筋は……オクタヴァリウス剣術」


 カミーユとライナーが相次いで反応を見せる。

 澪は構えを正眼に取り、睨みを利かせながら問いただした。


「お前の名はヨハネス・ローゼンバッハ――間違いない?」

「いかにも」


 カミーユ・ライナー両名が表情を固くする。珠実と安珠は彼らの因縁など知る由もないが、それとなく察したらしい。


「事情はともかく、こいつを倒すことに変わりはないんだろう? 協力して当たろうじゃないか。生憎助けを待つ余裕はなさそうだからね」


 珠実の提案に異を唱える者はいない。一連のめまぐるしい攻防を目にした献慈、そして実際にヨハネスと相対した澪も同様だ。


「この場で決着をつける。それ以外ない」

「今のお前に可能だと思うか? 〝太刀(たち)(ばな)〟が娘よ」


 ヨハネスは焚きつけるように、澪に問うた。


「…………」

「先刻オレに向けた並ならぬ憎悪、見込みがあると踏んだのだが……早くも腑抜けたか」


 ヨハネスのその嘆きは、皆を混乱させるための罠なのか。


(そうじゃない……気がする)

(たま)() / 安珠(あんじゅ) イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16817330666530643367

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