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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第四章 川渡るふたり……ひとり

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第55話 今日はごゆっくり

 鉱山町キホダトは古くからの温泉地としても知られている。山間を通る霊脈の恩恵を受けた温泉は鉱夫たちの疲れを癒やし、町の発展を支えた裏の立役者とも言えた。


 (けん)()たち馴染みの宿〝鹿神(ろっかん)()〟にも当然のように温泉設備が整っていた。大小六種、内風呂は檜に岩風呂、外には滝を臨む露天風呂まであり、なかなかに豪勢だ。


 すっかり夜も更けた大浴場。


「先にお邪魔してますよ」


 髪を手ぬぐいでまとめたライナーが湯船の中から微笑みかける。


「おつかれさまです。温泉楽しんでますね」

「はい。湯加減にはまだ慣れが必要ですが」


 西洋にも温浴の習慣こそあれど、湯に浸かること自体を楽しむ趣向は珍しい。人前で裸になるにも抵抗があるのが普通だ。

 謙遜してはいるが、ライナーの順応力は大したものである。


「カミーユも言ってましたよ。俺たちに会う前もライナーさん、温泉入りにワツリ村に行こうって駄々こねてたとか」

「またあの子は余計な……いえ、大袈裟に言っているだけですよ」

「だろうとは思いましたけど」


 談笑を交えながら、献慈は浴槽近くの蛇口へ陣取る。体を洗い始めれば自然、鼻歌を口ずさみたくなるのが(さが)である。


「♪~ロォーンリーイーヴ ローッケーンローオー」

「ケンジ君はレパートリーが豊富ですね。その歌はどういった意味なのでしょう? 後学のためにぜひお教え願いたいのですが」

「えっ!? 意味……ですか?」


 本人が理解していないものを『相案明伝(ソウアンメイデン)』が伝えられようはずがない。翻訳以前の問題だ。


「(やべぇ……実は英語とかよくわかんないし……)ロ、ロックンロールで長生きしよう、みたいな……?」

「長生き……ですか?」

「(このまま押し切るしか……!)えっと、ロックンロールには長生きしすぎたけど死ぬには早すぎるよっていう……何でこの部門で受賞しちゃったんだよ! みたいな波乱とかも、メタル人生には付き物だって教訓……かな?」

「何とも哲学的な命題ですね。実に興味深い……」

「そ、それよりライナーさん、今夜はお出かけの用事ではなかったですか?」


 献慈は話題を逸らそうと試みた。


「ええ、夜の街へ愛を語らいに。ケンジくんがもう少し大人ならお誘いするところだったのですが」

「あ、その……俺は……」

「わかっていますよ。野暮は言いっこなしですね」


 湯船から上がったライナーが体を拭き取るまでの間、献慈はこれ以上の質問が飛んでこないよう祈り続けていた。


「ふぅっ……ではお先に失礼しますよ。ごゆるりと」

「あっ、はい」


 遠回しに追い出す形となったことに罪悪感を覚えながら、ライナーの背中を見送る。

 気がつけば、大浴場には献慈ひとりが取り残されていた。


(せっかくだし、ちょっと長湯していくのもいいかな)




  *




 四人が集う朝の食堂。献慈と(みお)、対面にカミーユとライナーが座る。この顔ぶれと位置関係も見慣れて久しい。


「……で、ケンジってばあの後……」

「い、言えるわけないだろ!? こんな所で……」


 相変わらずなカミーユとのやり取りを横目に、澪はまるで仲間外れにされた子どものように口を尖らせていた。


「献慈……カミーユとばっかり話してる」


 言われてみれば献慈は澪以外と過ごす時間も多くなっていた。旅の道連れが増えた以上、それは自然なことではあるのだが。


「俺は……――っぐ!?」

「こんなのでよければ、どうぞどうぞ」


 カミーユは献慈を足蹴に押しやった。


「カミーユもぉ! そうやってすーぐ献慈のこといじめるぅ!」

「えっ!? 今さら!?」

「そうだよぅ! ナコイの時からずっとさぁ! 二人で楽しそうにしてさぁ!」


 澪は苛立ちもあらわに、おひつのご飯を茶碗にうず高く盛り始めた。


「んなカリカリしなくてもさ、もうすぐケンジと二人旅に戻れるっしょ? あたしらあくまでも一時的な仲間にすぎないんだし」

「……そういうの……ズルいよ……」


 澪はカミーユの言い様に反発するよう、ご飯にがっつき出した。


「澪姉、あんまり無理しないほうが……」

「してない! ……はっぐはっぐ……もんぐもんぐ……」

(澪姉……一体どうしちゃったんだ……)


 せめて白米を美味しく食べてもらおうと、献慈は澪の手前へ小鉢をそっと差し出す。しらす干しと高菜に梅干しを混ぜ、白ごまをふった特製ふりかけだ。


「……んぅふ!? ほいひ、ほいひ!」


 はたして加速する澪の食べっぷりを見守りつつ、まずライナーが席を立つ。


「さて、僕たちは付近の調査へ出かけます。おふたりとも、今日はごゆっくり過ごされてはいかかでしょうか」

「だね。ここんとこのゴタゴタで気も休まらないだろうし」


 カミーユが後に続いた。


「あ……はい。そうさせてもらいます」


 献慈は二人のさり気ない気遣いに感謝し、その背中を見送った。


「……ごちそう……さまれした……うぐ」


 椅子にもたれかかる澪はいかにも苦しげだ。


「俺片づけるから、澪姉は少し休んでからにしなよ」

「う……ううん、いい。私やる」

「そう? まあ、ちょっとでも動いてカロリー消費するってのもあ――」

「カッ、カロリーヌぁ!? だっ、誰よ!? また新しい女なのっ!?」

「いっ、いや、カロリーというのはですね……」


 献慈は三大栄養素――糖質・タンパク質・脂肪――について澪に説明する。家庭科の授業で習った内容だが、イムガイ女子にとっては目新しい情報であったようだ。


「へー……献慈は本当に何でも知ってるねっ」

「そんな大したことでもないんだけどな」

「それでも、私は献慈といろんなお話できるだけで楽しいよ?」


 澪が喜んでくれるのであれば是非もない。


「早速運動してかろりー燃焼させないとね。献慈も来る?」

「もちろん付き合うよ」

「うんっ! 一緒行こっ?」




 なるほど「運動」には違いなかった――素振り千本、走り込み百周、素手で崖の登り下り十往復という物量に目をつぶれば。

今話の裏側(※エロ注意)


【番外編】第55.5話 フルレングス

https://ncode.syosetu.com/n0952hz/15/

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