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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第四章 川渡るふたり……ひとり

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第52話 決断

「新手の魔物?」


 聞き返す(けん)()に対し、(みお)はかぶりを振った。


「このままだと囲まれちゃう」

「……!? ど、どういう……」


 状況が掴めずオロオロする献慈をよそに、皆すぐさま荷物を取って集まる。


「バラバラに逃げるべき?」

「相手の戦力がわかりません」

「全員で突っ切りましょ」


 澪は献慈の手首を引いて走り出す。


「――ふぁッ!?」


 献慈の両足が宙を泳ぐや、真後ろでザクリという音がした。

 おそるおそる振り返る。地面に突き刺さった矢は形状からしてクロスボウの(クォレル)に違いない。


「私の後ろに」


 澪は献慈を背中側へ導いた。

 岩陰から、林の中から、続々と姿を現す怪しげな風体の男たち。先ほどカミーユがいた小高い丘の上にクロスボウを構えた男の影があった。


 ざっと見て六、七人。ある者は和装に鎖帷子、別の者は洋風の革鎧を身に着けている。得物も手斧から柳葉刀(りゅうようとう)までと、統一感は皆無だ。


「間違いねぇ。オレらを捕まえに腕利きを寄越して来やがった」


 先頭の金砕棒(かなさいぼう)を担いだ鬼人がつぶやいた。


「〝邪教〟の連中じゃないのか?」

「それはねぇな。異国の輩が混じってる」

「こんな少数で……?」

「油断するな。精霊使いがいるぞ」

「さっき見えた竜巻だな」


 周りの連中も口々に並べ立てる。頭目らしき鬼人以下、構成員はヒトと獣人で占められている。


 ――どこかで小さく、鐘の音が鳴ったような気がした。


「リコルヌか。旦那へのいい手土産になりそうだぜ」

「おい! 余計な口を利くんじゃねぇ!」


 軽口を叩いた三下がどやしつけられる。


「わ、悪い……」

「まぁいい。どのみちコイツらを生きて帰すつもりもねぇしな……おい」


 頭目が顎をしゃくる。背後に控えた顔に刺青のある男が軽功を使い、山の方角へと走り去って行く。


 仲間への知らせだろうが、今頃アジトは突入班に制圧されているはず。献慈たちにとっては目の前の状況を打開するのが先決だ。


「ゴメン……派手にやり過ぎたかも……」


 カミーユを責める者は誰もいない。この場所を連中が嗅ぎつけるのは時間の問題だったはずだ。


 ――また一つ、もう一つと、かすかなチャイムの音が近くから聞こえた。


「それじゃあ、とっとと死んでくれや」


 殺気をみなぎらせた屈強な男たちが歩一歩とにじり寄る。話し合う余地も逃げ場もありそうにはない。


(カミーユ、シルフィード……ライナーさん……)


 甘えた考えという自覚はあった。


(……澪姉……何とかしてく――)


 目が合った。

 大丈夫。私が献慈のこと守るから――そう言い聞かすような眼差し。


(――違う。何とかしなきゃいけないのは、守らなきゃならないのは――)


 献慈は今一度杖を強く握りしめる。


 ――鐘音の間隔が徐々に短くなっていく。


「……ん? おい、貴様! 何をしてる――ッ!?」


 頭目が声を荒げる。指差した先に、楽器を抱え込むライナーがいた。


 献慈は察した。小さな鐘音の正体はタッピング・ハーモニクス――ライナーは指板に被せた指先をわずかに動かし、フレットを叩いていたのだ。


「〈黒魔の屍毒(ブラック・ヴェノム)〉――この呪法だけは使いたくなかったのですが」

「……ぅ……ぐぁはぁ……っ!」


 高台に張っていたクロスボウの男が血の泡を吹きながら転落した。崖下で動かなくなったその体は、蓄積された毒素によって紫色に変色していた。


「この野郎ォ……っ!」

「Sistze k'tekiing!」


 迂闊にも高台の方を振り向いた一人を、シルフィードの風刃が急襲した。怯んだ隙を突いて、澪が渾身の体当たりを仕掛ける。


「献慈ッ!! 逃げて――ッ!!」


 声を張り上げるそばから二人、三人とならず者たちが澪を取り囲んでいた。


「あっち、逃げて!! 早くッ!!」

「るせッ! 誰か、そっちの小僧から殺っちまえ!」

(……!? 俺――)


 献慈が向かい来る男を認識するや否や、その男は前のめりに倒れ込んでしまった。痙攣するうつ伏せの背中に刀傷が走っていた。


「このアマぁっ!!」

「よくもやりやがったなァ……ッ!!」


 激昂した仲間たちが、殺意を剥き出しにして澪へと襲いかかる。


 ――強いとか、弱いとかの問題じゃない……女の子が、傷つけられるの……黙って見過ごせない。


(今……やらないと…………俺が…………)


 決断に必要なのは時間でも、他人の言葉でもない。


「…………んぉ……ぅえがあぁぁぁ――――ッ!!」


 己の覚悟だけだ。

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