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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第四章 川渡るふたり……ひとり

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第51話 勝利の乙女たち

 林を駆け抜け、獣の巨体がみるみる迫り来る。

 ヒヒの頭部に虎の胴体を持ち、尻尾は毒蛇――西洋に棲息する合成魔獣(キメラ)の亜種ともいわれるヌエであった。


 爛々と輝く紅い瞳が(けん)()を見据えている。


(いいぞ……来い!)


 献慈は振り上げた(じょう)を――背中に回した。

 無防備となった囮めがけて、ヌエが突進を開始する。


「〈一風(いっぷう)〉――!」


 抜き打ちの白刃が閃くや、魔獣の前脚はあっけなく斬り飛ばされていた。

 茂みから飛び出した白刃の主は(みお)


「尻尾が来る!」


 毒蛇の尾がヌエの背中越しに襲いかかろうとするが、


「〈颱翻(たいほん)〉!」


 澪はこれを躱しざまに両断してみせる。


「よし!」

「まだまだ!」


 ヌエは横っ跳びに間合いを離し、仕切り直しに入った。

 木陰から、ふたりとは別の声が飛ぶ。


「まずい――気構えを!」


 潜伏していたライナーが警告とともに躍り出て来た。その指が音階(スケール)を高速で駆け上がる中、ヒィー、ヒィーという甲高い鳴き声が、曇り空へと怪しく響き渡る。

 ヌエの鳴く声――否、詠唱する声であった。


「クッ……」

(耐えられるか……?)


 バチバチと音を立てる火花が、瞬く間にヌエの目の前へ収斂を完了させる。

 そして――〈放電(ディスチャージ)〉――散開していた三人の体を(いかづち)が貫いた。


「〈白騎士の繻子ホワイトナイツ・サテン〉――ッ!」

「ふゃあぁっ!」

「うおぉ……っ!」


 呪楽(じゅがく)の加護を受けてなお血液が沸騰するかのような苦しみが走り抜けていった。


「(このぐらいで音を上げてられない……!)ふ、二人とも!」


 魔法への耐性は個人差があるらしい。


「僕は平気です!」

「うぁ、らし、も……っ!」


 澪の呂律が回っていない。地面に刺した刀から電流を逃がし、かろうじて耐えている。

 すぐにも回復に駆けつけたいところだが、連鎖感電のリスクは無視できない。献慈はぐっと堪え、敵の動向に目を凝らす。


 尻尾と脚を失ったヌエの動きは鈍い。だが(うそぶ)く声は上空へ、オンモラキの集団を呼び寄せていた。強者のおこぼれに(あずか)ろうとする本能を利用しているのだ。


「(合流されると面倒だな)一気に片を付けましょうか?」

「いえ、ミオさんの治療を先に。どうやら……追いついたようです」


 高台の上に隣り合うは勝利の乙女たち。


「入魂のォ――〈大旋風(トーネイド)〉ォォッ!!」


 カミーユとシルフィードが大仰なポーズをシンクロさせた。四方から巻き起こる強風は渦を成し、手負いのヌエを軽々と空中へ打ち上げる。

 さらに空高くまで成長した大竜巻は、集まって来たオンモラキの群れをも巻き込み一網打尽にしてしまった。


「……ありがとう。もう行ける――!」


 回復を終えた澪が駆け出して行く。落下したヌエの巨躯が再び動き出すより前に、〈戦歌(クリークソング)〉の追い風を受けた剣閃がとどめを刺していた。




 カミーユはヌエの亡骸の前へ陣取り、ナイフを取り出す。


「見てな、ケンジ。これが〈定着化(フィクセイション)〉な」


 カミーユの身体から何らかの波長が照射されている。亡骸が黒膿(くろうみ)になって消失するのを防いでいるのだ。

 手始めに獲物の眼球を回収、次にそっと腹側から切れ目を入れていった。


「……こんなもんかな。シルフィード」

「Kiinsu ysek'tek'se.」


 吹き抜ける風の射線に沿って、毛皮がまるで抜け殻のように綺麗に剥がされた。


「よっし。じゃ、あとは頼んだ。運搬係」

「了解。……よっと」


 担ぎ上げた毛皮はゴワゴワとしていたが、動物のそれとあまり違わない。

 調弦の傍ら、ライナーが労をねぎらう。


「ケンジ君には苦労をかけます」

「いえ、これが俺の仕事ですから」


 プロフェッショナル揃いのメンバーの中にあって、素人同然の献慈にできる役割は限られている。囮役に荷物係、雑用なら何でもござれの精神。これも立派なメタル魂だと己に言い聞かす。


「殊勝なことよのぅ……あ、ちゃんと畳んでからマルスピに入れてね」


 カミーユが指差す袋も魔導具である。マルスピラム、通称・マルスピ。容積の拡大と軽量化により多くの荷物を持ち運べる代物だ。


「はいはい。……ところで澪姉はどこ行ったんだろ」

「あぁ、ミオさんなら先ほどお花を摘みに――」


 ライナーが言い終えぬうちから、袴の膝をたくし上げた澪がただならぬ面持ちを携えて走り込んで来る。


「みんな……早くここから立ち去らないと!」

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