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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第三章 異郷にて姉想う

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第44話 やりすぎだ

「……ぁんだよネエチャン、混ざりに来――っぐ……」

「おい! テメー、何してくれてん、だァあぁ――っ!?」


 不良たちが立て続けに喉元や脇腹を押さえ転倒する。

 逆光を背負い現れた(みお)は静かに言い諭す。


「そこ、どいてくれないかな?」

「だったら力ずくでどかしっ……たはぁ~ぅん!」


 澪の肩に触れようとした男の指が小枝のごとく掴み折られていた。


「え? 何? 聞こえない」

「ごっ、ごめにゃひゃいぇ――っ!!」

「何やってんだ! 同時に掛かるんだよ!」


 ヘッドの指示で残り二人が一斉に襲いかかるが、一人は鳩尾を一突き、


「はふ……ッ!!」

「んぇ…………どぅあああぁぁひぃあ――ぃっ!!」


 もう一人は膝をありえない方向へ蹴り曲げられ、地べたに崩れ落ちた。


「ク、クソォ……お前、何のつもりだァ! 畜生ッ!」


 最後の一人となったヘッド格の男が半狂乱になって杖を振り回すも、瞬く間に腕をねじ上げられる。


「あなただよね? そこの男の子突き飛ばしたの」

「そ……そいつが先に殴りかかっ――」


 口答えしようとした男の顔面を、奪い取られた杖が往復する。


「――がふゥッ! ……ぉぐ……ぅあ……」


 血と涙にまみれた泣きっ面は原形をとどめていなかった。


「それから……聞こえたよ? そっちの女の子にもひどいこと言ってた」

「ち、ちひィがぁゥ……言ったのォ、オレじゃなぁ……い……」


 嗚咽を漏らしながら弁解する男の頭上へ、今まさに無慈悲の鉄槌が振り下ろされようとしていた。


「もうやめてくれ――!!」


 (けん)()は全力で叫んでいた。


 数秒の間があり――振り被ったままの杖がゆっくりと下ろされた。


「……やりすぎだ」

「…………」


 献慈は澪から無言で差し出された杖を受け取る。それから、腫れ上がった顔を歪ませてすすり泣くヘッドの男に治癒を施してやった。


「……行け」

「い……て、なぃ……オレじゃな……」

「早く行けったら!」

「……オッ……オレじゃなァいヒィ~!!」


 男はすくと立ち上がると、脇目も振らず内股で走り去ってしまった。

 誰にともなく澪が声を荒らげた。


「どうして……!?」

「……澪姉は」


 献慈はそこら中に転がった怪我人たちを助け起こして回る。


「本当にこんなことがしたかったの?」




 ナコイ初日に泊まった旅館とも、二日目に訪れた宿酒場〝莫迦(ばか)丸亭(まるてい)〟とも別の宿であった。内外ともに洋風の造りはホテルと呼んでも差し支えない。


 献慈と澪、後ろに続くのはカミーユである。

 三人がロビーへ戻ると、見るからに上機嫌のライナーが出迎えた――いかにも思わせぶりな封筒を手にして。


「おかえりなさい。皆さん、早速ですが驚かないでくださいよ? 実は先ほど商店街の福引きで……何と! 一等が当たりまして! これです! パタグレア三泊五日のペア旅行け――」

「ライナーさん……その話、後でもいいですか?」


 心苦しくも献慈が話を遮るや、ライナーはすぐに真剣な面持ちに変わった。


「カミーユ――」


 ライナーの呼びかけから逃げるように、まずはカミーユが宿の奥へと走り去る。

 そちらに気を取られた男たちの前を、今度は澪が早足で立ち去ろうとしていた。


「澪姉、待って」


 聞く耳を持たず澪は背を向ける。

 このまま行かせてなるものか――献慈は強硬手段に出た。


「待ってくれ、話を――」

「後で聞く」


 袖を掴まれてなお澪の歩みは止まらない。


「俺は澪姉のこと責めようってわけじゃ」

「後で聞くから」

「今聞いてほしいんだ」

「お願いだから……」

「ダメだ! 俺はっ……」

「行かせてよぉ! 漏れそうなの――っ!!」


 澪の渾身の叫びによって、献慈はやっと己の愚かさを悟るのだった。


「あっ! ご、ごめ……」

「わかってるから! だっ、だから、後で……後でね――!」


 澪の背中が廊下を遠ざかるにつれて、献慈の両膝も床を求め降下していく。


「……さ……最低だぁ……」

「どうか気を落とさずに……」


 ライナーの慰めが唯一の救いだった。


「それと、話してくださいますね? 彼女たちと何があったのか」

「……もちろんです」

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