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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第三章 異郷にて姉想う

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第43話 俺たちも混ぜてよ

 入り組んだ路地を抜けてゆくと、見知らぬ通りへ出た。


「お、おかしいな……店を出た方向がああだから、方角はこっちで合ってるわけで……」

「街中で迷子になったからって死にゃしないし、もっと落ち着きなよ」


 カミーユと二人、(けん)()は一足先に宿へ戻る途中であったのだが――


(迷った……完全に)

「うほ~、あれ大道芸っつーの? ちょっと見て行かね?」


 好奇心のまま突き進むカミーユを追いかけるうち、帰り道を見失ってしまった。


(みお)姉と別行動になった途端この体たらくか……)


 その澪はライナーに付き添い、今頃は質屋で宝箱を換金し終えていることだろう。


「はぁ~、やっぱミオ姉いないとこうなるかぁ」

「…………」

「あ、べつに責めてるわけじゃなくてさ。土地勘ある人付いてないとライナーも困るだろうし」

「…………」

「っつーかケンジ、何でこっち来たし。……まだミオ姉とケンカしてる?」

「べ、べつにケンカしてるわけじゃ……」


 視線を逸らす献慈へカミーユの追撃。


「いやいや、昨日からお互い黙り通しじゃん。いつも人目もはばからずイチャついてるくせしてさぁ」

「い、イチャついてるとか! そういうのは本当……やめてくれよ」


 我知らず声を荒げていたことに献慈自身驚いていた。


「おぅおぅ、どした?」

「澪姉は……そういう気持ちで俺に接してるわけじゃないから」

「何それ。本人がそう言ったわけ?」

「い、言っては……ないけど」


 聞かずとも察せようものだ――あのひどい出会い方を考慮すれば。


(考えてもみろよ。澪姉からすれば俺の第一印象って、いきなり素っ裸で現れた変態だぞ)


 これまでの頑張りでいくらかは挽回できたと思いたい。それでも弟分以上の扱いを期待するのは高望みというものだ。


「はぁ? 聞いてもいねーくせして勝手に決めつけてんじゃねーよ! このウジウジ卑屈野郎がっ!」

「……! そんな言い方はないだろ! カミーユだって俺の事情とか全然知らないくせしてさ」

「事情って何さ?」

「そ、それは……」


 二つの世界の間で揺れ動く献慈の心を、カミーユは知る由もない。


「言い訳ばっかしやがって……大事なのはどう思われてるかじゃなくて、テメーの気持ちのほうだろぉが! はっきりしろよー、まったくよー」

(俺の……気持ち……)


 想いを伝えられぬまま置き去りにして来た初恋は、もはや解くことの叶わぬ呪いとなって献慈を縛りつけていた。

 踏み出そうにも、その足は重く。


「ミオ姉のこと、アンタはどう思ってんのかって訊いてんの」

「それは、その……き、綺麗で、格好良くて……いつも守ってくれる……」

「それ、同じこと商人のオッサンの前でも言ってなかった?」

「……!? (りょう)()さんとの会話、やっぱり聞いてたんじゃないか! 大体カミーユ、どうしてあんな場所に……」

「そりゃあ協力者の弱みを握っ……じゃなかった、素行調査をですねー……」

「今、不穏な文言(もんごん)が聞こえた気がするんだけど……」

「気のせいだから! っつーか、話を逸らすな! 結局ミオ姉のことどう思ってんの!?」


 堂々巡りだ。献慈は売り言葉に買い言葉と、半ばやけっぱちに言い放つ。


「……わかったよ、認めるよ! 好きだよ! 大好きに決まってるだろ!!」

「っ……!?」

「これで満足……ぇっ? あ、だから、カミーユに言ったわけじゃな――」


 突如背後から、献慈の手に持った(じょう)が取り上げられる。

 油断しきっていた。


「おいおーい、君たち青春しちゃってるね~」


 得意顔で杖を弄ぶ大柄な男を中心に五、六人の男たちが路地の出口を塞いでいた。


「楽しそうだね~。俺たちも混ぜてよ~」

「何の用……ですか?」


 ヒトと獣人の入り交じる集団。ラフな服装と幼さを残す顔立ちを見るに、港にたむろする不良グループといったところだろう。

 濁りきった眼差しが向けられる先は献慈ではなく。


「悪いけどボクに用はないんだな~。オレたち、そっちの可愛い子ちゃんと遊びたいんだな~」

「……今のうちに逃げるんだ」


 気がつけば連中とカミーユの間に身を滑り込ませている献慈がいた。


「イマノウチニ、ニゲルンダ!」

「うわぁ~っ! カッコイイ~ッ!」


 言われ放題、武器は奪われ、さらにはとどめを刺す事実がカミーユの口から告げられる。


「あっち……行き止まり」

「え…………」


 詰みだ。


「へっ、こんなアホガキにゃ勿体ねー上玉だぜぇ」

「だな。オレたち〝六多頭倶楽部(ロッターズ・クラブ)〟で美味しく頂いちまおーぜ」

「つーかリコルヌじゃん。角ブチ折って売り飛ばすかぁ?」

「スゲー! お小遣いゲットじゃん!」

「お前ら鬼畜だなー。痛くしないように折ってやれよー」

「結局折んのかよ! ダハハハ!」


 リコルヌの角髄(かくずい)は強力な解毒作用を持つがため、かつて高値で取引されていた闇の歴史が存在する。無論、現在はそのような非道は――少なくとも表向きは――禁止されている。


(こいつら……!)


 沸き上がる憤りとは逆に、献慈の中で違和感が頭をもたげ出す。

 常ならば献慈を差し置いて連中に食って掛かりそうなカミーユが、妙におとなしい。


「…………」

(カミーユ……!?)


 見開いた目を潤ませて戦慄(わなな)く一人の少女がそこにいた。

 驚きと疑問が頭を埋め尽くすも一瞬、歯止めを失った激情の前に、理屈や体裁は跡形もなく吹き飛んでしまう。


「アホガキは……お前らだろう」

「……あァ?」

「自分の言ってることの重みを理解してない、大馬鹿者だ――ッ!!」


 感情任せの突進。所在なく振り上げた拳。がら空きの胴体。


「うるせぇよ」

「うッ……ぐ!」


 前蹴りが腹にめり込んだ瞬間、怒りに我を忘れた愚かさを悟る。よろよろと後退した献慈は路地裏の壁にぶつかってへたり込む。


「この女はオレたちが拾ったんだよォ……ちっとぐれぇ謝礼よこせやァ」


 献慈を見下ろすヘッドの男。後方で仲間たちがざわつき始めたことにまだ気づいた様子はない。

 それも時間の問題だった。

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