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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第三章 異郷にて姉想う

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第37話 双頭蛇

 仕切り直しに持ち込めたのは儲けものだ。(けん)()は急ぎ、倒れた(みお)のもとへ駆けつける。


「澪姉! ダメージは……」

「左ぁ……動かぁ、い」

「(点穴か……)すぐに治すよ」


 〈ペインキル〉で澪の身体から麻痺を取り去る。確かに点穴は厄介だが、気がかりがもう一つある。


「……ありがと。ごめんね、油断しちゃった」

「いや……さっきの流星錘の軌道、明らかにおかしかった」

「うん。あの女、かなりの内功の使い手だと思う」


 〈投射(プロジェクション)〉が「外側」へ力を撃ち出す技であるのとは逆に、内功は「内側」における力の流れをコントロールする技だ。


「そっか。やっぱり――」


 二人の会話を遮る、頭上からの声。


(ボン)治癒術士(ヒーラー)やってんなぁ。こら見くびっとったわ」


 女が献慈の背後に降り立った瞬間、澪はかばうよう前へ飛び出していた。

 同時に、献慈も澪を守ろうと動いたのが裏目に出た。


「あぃたっ!」「フガッ!?」

「仲のええこっちゃな」


 ぶつかりもつれ合うふたりから、不意に献慈だけが引き剥がされた。手足に絡みついたワイヤーがその身を空中へ放り出す。


(身動きが取れな……っ……取れる、ッ!?)


 どうにか受け身を取るも、背中と地面との間で炸裂音が弾けた。鼻をつく火薬の匂いは、いつの間にか仕掛けられていた爆竹の存在を知らせていた。


(嫌がらせ……じゃない、これは――)

「献慈! 下!」


 澪の警告が飛ぶ。地面の揺れを察知した献慈は、考えるより先にその場から逃れるよう転がり起きていた。

 その直後、


「そこやあァ――ッ!!」


 噴き上がる砂柱とともに華々しく蹴りを打ち上げた人影は、


「――ぁがっ!!」


 あえなく墜落。倒れたままぴくりとも動かない。


(えっ!? 死んだ……!?)

「……っつぅ~、しくったわ」

(よかった、生きて……いや、よくはない!)


 降り注いだ砂を乱暴に振り払い、その人物はすくと立ち上がる。


「アネキぃ、待たしたなぁ」

「何してんねや、(ヨン)(ティン)

「ちゃんと合図どおり奇襲かけてんけどな」


 献慈と同年代ほどの小柄な少年。特徴的な形の帽子と黄色を基調とした身なりには既視感がある。


(この服装……あれだ、キョンシーやっつける人!)


 央土で信仰される龍道(ロンタオ)の道士であった。


「まぁええ。そっちの坊に回復されると面倒や。抑えといて」


 女は命令に近い調子で永定に要求する。


「コイツでええんか? そっちのオネエチャンは……」

「この嬢ちゃんは自分や敵わへん。ウチが相手する」

「何やて!? 〝双頭蛇〟孟永和(モンヨンホァ)とタメ張るなんぞ一体何(モン)や」


 永定は姉――永和と澪とを見比べながら、存在感のある眉をひそめた。


「わからん……からこそ慎重に戦わな」

「はぁ……たしかに別嬪やし強そやけど、ウチのアネキのが上やな」


 永定にとっては何気ないつぶやきだったのかもしれない。

 だが、献慈からすれば聞き捨てならない言い草である。


「いやいや! 澪姉のほうが強いしカッコいいから!」

「あァ!? アネキのが色っぽかってチチもデカいやろがい!」

「クッ……澪姉のほうが、おし……お、大きいし!」

「タッパはまぁ、そやな……けど、アネキなんか裁縫も料理も上手いで!」

「澪姉だって料理ぐらい! 作るのも食べるのも得意だし!」

「何やそれ! アネキなぁ、めっちゃモテんねんぞ!」

「澪姉は子どもとかお年寄りにも好かれるし!」

「あ、アネキかて優しい……ときもあんで! たまにやけど!」

「澪姉はいつも優しいよ!」

「何やとォ!? そら羨ましいなぁ! ――ぐぇッ!!」


 尻に流星錘をぶつけられ、永定は転倒した。


「はよ戦えや」

「は、はい……しゃあない。アニキ戻るまでにサクッと片づけたるわ」

(アニキだって? ほかにも仲間がいるのか)


 献慈が深く考えるよりも先に、永定は背負った軟剣を抜き放つ。細身でよく(しな)る剣身が特徴の、央土産の武器である。


「お互い烈士同士、どっちが倒されても恨みっこなしやぞ」

「あぁ……え? 烈士?」

「おぅ、どないした?」

(カミーユの話じゃ寄せ集めの賊だったはず……そうだ)


 目を凝らして姉弟の手元を見やれば、戒指(リング)の形がくっきりと透けている。


(二人とも烈士だったのか! 道理で強いはずだ)


 報酬は腕ずくで奪い取るのが烈士の流儀だ。すでに交戦状態とあっては申し開きが立つかどうかもわからない。


 ――烈士が民間人に何かを強要したり、ましてや暴力を振るうのはご法度ですし――。


 ライナーは言っていたが、こちらにも協力を引き受けた義理はある。

 そしてそれ以上の理由も、また。


「献慈! もし敵わないようなら無理せず降参して!」

「俺は……退かない――!」


 ここで踏みとどまれぬようでは、この先も澪を守ることなどできはしないのだ。

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