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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第二章 カミツレの少女

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第26話 可憐にして妖艶な花のかんばせ

 人々がひしめく港町の喧騒が(けん)()たちを待ち受けていた。


 その町の名はナコイ。一行を含む陸路からの人の流れと、港から向かって来る人の流れが、中央にある大通りで入り交じる。

 通りを行く人々のいでたちは和洋折衷、馬車や人力車も目を引いた。


 (りょう)()が懐中時計を確認する。時刻は午後四時前。


「あっしら行きつけの宿があるんですが、もし迷惑でなけりゃおふたりさんの分も部屋を取らせちゃもらえねぇかい?」


 またとない申し出だった。ふたりは素直に彼の厚意に甘えることにした。




 港から通りを挟んで建つ旅籠(はたご)は、風呂はもちろん、朝晩の食事付きだった。豪勢とまではいかないが、これまでに泊まった安宿とは比べるべくもない。


 記帳を済ませた後、両児を除いた男たちは馬の世話や荷下ろしのため別行動を取る。

 その頃入り口に隣接する広間では、献慈と(みお)そして両児の三人が互いに別れを惜しんでいた。


「おふたりには本当に世話になりやした」

「こちらこそ。いろいろ工面してもらって助かっちゃった」

「ありがとうございます」


 澪に(なら)って献慈も深々とお辞儀をした。


「礼なんてとんでもねぇ。それよか……本当に別々の部屋で構わねぇんですかい? いや、宿代をケチりてぇわけじゃねぇんですが」

「気を遣わせてごめんなさい。前にふたりで話し合って――ぇっぐ!?」


 言いかけた澪に、背後から追突してきたものがあった。

 周囲を元気よく走り回っていた四、五歳ぐらいの男の子だ。澪のボリュームたっぷりのお尻に跳ね返され、困惑の表情を浮かべながら後ずさりをしている。


「うわぁ~、でっけぇ~っ!」

「で……っ!?」


 無邪気な発言が澪の機先を制する。その隙をみて男の子は一目散に走り去ってしまった。


「な、何ですってぇ~っ!? こらぁああ――ッ!!」

「あ、待っ……」


 献慈が呼び止めるも間に合わず。澪は通行人に阻まれながらも男の子を追いかけ、廊下の向こうへ消えて行ってしまった。


「仕方ないなぁ、こんな時に……」

「まぁまぁ、いいってことです」


 残された男たちは人通りを避け、階段脇の長椅子に腰を下ろす。


「しっかし兄さんも隅に置けねぇなぁ。あんな別嬪さんと二人旅たぁ」

「で、ですから言ったじゃないですか。この旅は御子(みこ)(ほう)じっていう……」

「そりゃ聞きましたぜ。あっしが知りてぇのは兄さんの気持ちですよ。で、どうなんです?」


 他人同士ゆえのストレートな物言いだ。はぐらかそうにもその余地がない。


「そ、そりゃ澪姉は……すごく格好良くて、き……綺麗ですよ。ただ、俺にとってはかけがえのない恩人だし、日頃からお世話になってる人なわけで……」

「ふぅむ……お世話にねぇ……」

「何もないですから、い、今は……まだ」


 献慈の特異な境遇を両児は知る由もない。そこにあるのは、悩める若者を暖かく見守る年長者としての眼差しだけである。


「そうですかい。ま、これ以上野暮なこたぁ言いっこなしだ。さてと――あっしはこれで仕事に戻らせていただきやす。どうかおふたりさんの旅が上手くいきますよう」

「あっ、ありがとうございます、両児さん。またどこかで」


 二人は椅子を立ち、互いに礼を交わして別れた。


(さて、澪姉はどこに……)

「こんばんは~」


 背後からの声に、献慈は虚を突かれ取り乱す。


「……あがっ!? こ、こぬばぅあ~っす!」

「奇遇だね。無事で安心したよ~」

「えっと、どちらさまでらっ――」


 頭一つ分ほど小柄な少女。可愛らしいおでこと頭頂部との間には螺旋状の角――リコルヌという種族の象徴が誇らしげに屹立(きつりつ)していた。


「一応、初めましてかな」


 仔猫めいたエメラルドの瞳が上目遣いにこちらを窺う。サファイア色に透き通るショートボブも、生意気そうにちょっと上を向いた小さな鼻も、つやつやとした白い歯を覗かせる蕾のような唇も、何もかもが輝いて見える。


「可愛っ……(ま、待て! 何を口走ろうとした!?)」

「ん? あたしの顔どうかした?」


 可憐にして妖艶な花のかんばせ。まるで神話から抜け出して来た妖精が目の前に立っているかのような錯覚に献慈は陥っていた。


「いえ! と、とても素敵でらっしゃるなぁ~、なんて」

「うん。知ってる」

「…………」


 献慈は再度――今度は別の意味で――言葉を失う。

 少女はこちらを気にも留めず話し続けた。


「それよりキミ、いいの? 背高い綺麗な女の人連れてたけど。あたしのことナンパなんかして……」

「な、ナンパじゃないから! あと、澪姉とはぁ、あの、何ていうか……」

「へぇー、ミオ姉とか呼んじゃってるんだー。キミ、結構甘えん坊さんだったりするのかなぁ?」


 少女は意地悪くも愛嬌ある面立ちで迫って来る。


「そ、そういうんじゃな……(あれっ? この匂い、どこかで……)」


 かすかに漂う芳香に献慈の注意が逸らされた、その矢先。


「献慈……その娘、誰……?」


 背中越しの声に、


「澪ね――」

「どっせぇーい!」


 振り返るや、澪は頭上に抱え上げたものを勢いよく振り下ろす。

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