表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第一章 天上のヒマワリ、地上の太陽

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/124

第17話 一目置かざるをえない

 湯船に浸かりながら、(けん)()(かしわ)()はお互いの身の上を語り合っていた。


「ユードナシアか。なるほど異国には違いない」

「意外とすんなり信じるんですね」

「是非もない。お前の不思議な異能(ちから)を目の当たりにすれば」

「あれは偶然使えるようになっただけで……柏木さんみたいに努力して得た力とは違いますから」


 つい無意識に卑屈な答えをしている己に気づく。柏木がつらく当たっていた理由はこういった態度にあるのだ。

 そしてもう一つ。


「オレの武芸はオレだけのものじゃない。先生の……()(のり)様の指導の賜物だ」

「本当に……大切に想っているんですね。(みお)姉のお母さんのこと」


 柏木にとって澪は、尊敬する恩師の忘れ形見でもあるのだ。


「ああ。ところでお前は美法先生の最期については聞いているか?」

御子(みこ)(ほう)じの旅の途中で亡くなられたとは聞きましたけど、詳しくは……」

「そうか。しかし御子封じについては知っているのだな」

「……あっ」


 気を許したのが災いした。同時に、柏木の察しが良すぎたのもある。


「やはりお前はお嬢さんの(もり)()となるつもりなのか――いや、答えずともよい。であればなおのことお前の力にならねばなるまい。それが先生の恩に報いることにもつながる」

「ありがとう、柏木さん」

「……さて、長話が過ぎたな。のぼせてしまう」

「そうですね。それじゃお先に――」


 手ぬぐいを頭に載せたまま、献慈は湯から立ち上がる。


「……!」

「……? どうかしました?」

「いや……お前にはイチモ……一目置かざるをえないなと思っただけだ」

「……はぁ。それはどうも」


 それからというもの、心なしか柏木の態度が優しくなった気がした。




 雨上がりの、人気のない広場を、献慈と柏木は連れ立って横切る。

 神社の鳥居が見える辺りまで来ると、小走りに向かって来る澪の姿が目に留まった。


「献慈~、今までどこ行ってたの? お昼ごはん作って待ってたんだよぉ?」

「ご、ごめん澪姉。柏木さんと出かけててさ」

「男同士、裸の付き合いというやつですよ」


 柏木が付け加えるや、澪の目の色が変わった。


「裸、の……え!? ちょ、ちょっと待って! 献慈、朝と着てる服が違うし! まさか、そ、そういうことなのっ!?」

「(そういう……?)あぁ、これは俺が攻めあぐねて服をダメに――」

「けけけ献慈が、せせせ攻……っ!?」

「そのあと柏木さんに誘われ――」

「かかか柏木さんが、さ、誘……っ!?」


 澪は男子二人を交互に見つつ、顔を紅潮させてゆく。


「(黙って出て来たこと、怒ってるのかな……)えっと、ごめん。順を追ってきちんと説明するから」

「そっ……それ、私が聞いちゃってもいい話……?」

「え? そりゃもちろんだけど……」




「――で、今がその帰りってわけなんだ。とりあえずはわかってくれた?」

「うん……何ていうか……ふつうだった……」

「ふ、普通?(俺の話、つまんなかったのか……もっとこう、ドラマチックでスペクタクルな感じに盛り上げればよかったかなぁ……)」

「それより! 柏木さんから武術を教わるって、本気なの?」


 一転、澪は真剣な面持ちとなる。


「うん。先のこと考えたら俺も自分の身を守るぐらいできないと」

「献慈の心意気を買わせてもらったつもりです」と、柏木。「理由までは聞いていませんが……お嬢さんが関わっているとなれば、おおよそ察しはつきます」

「そっか」

「それと、父君にはまだ黙っておくのがよいかと」

「うん……そのつもり」

「事後承諾になるのは避けられませんが、この際不義理には目をつぶるとしましょう。こちらもできる限りの根回しはしておきます」


 去り際の柏木に澪は問いかける。


「どうして、そこまで協力してくれるの?」

「生き方を決めるのは、力ではなく意志なのだと――先生に教わりましたから」




 虹架かる空に響き渡る鐘の音が正午を告げていた。


「柏木さんってば格好つけちゃって……ねぇ?」

「あはは……俺はもう気にしてないよ。お互いすれ違いがあっただけだってわかったから」

「む~。そんな大人な対応されたら私の立場がないじゃない」

「ごめん、そういうつもりじゃ……」

「うそうそ。私もあの人とはあとでちゃんと話つけるつもり。道場でね」

(結局拳で解決……!?)


 澪の豪胆さには毎度感服するばかりだ。


「そんなことよりお腹すいたでしょ? お昼は献慈の大好物だよ。何だかわかる?」

「好物……桃とか?」

「ちがーう。お昼だって言ってるでしょー」

「あ、そっか。じゃ、多分あれだね。楽しみだな」


 ぬかるみ跳び越す足取り軽やかに、ふたりは家路に向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ