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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第八章 身を尽くし

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第116話 メタルウォリアーだ

「献慈殿は(けん)の目が鋭うござるな」


 稽古中の無憂(むう)との会話が思い出される。


「けんのめ……ですか?」

「物事の表層、目の前の動作を捉える目にござる。対する(かん)の目とは深層を見通し、全体を俯瞰する視点」

「そっちは俺には難しそうですね」

「なればこそ、見の目を活かすのでござるよ。ありのままに捉え、あるがままに応ずる。然すれば見えぬものに怯え、惑わされることもござらぬ」




  *




(――そうだ。あくまで自分の土俵で勝負するんだ)


 献慈は不慣れな先読みに頼るのをやめ、従来どおり〈トリックアイ〉を駆使した即応型の戦法に切り替える。

 ただただ、必死に杖を振るい続けた。


「食い下がるではないか。その邪魔な棒切れごと叩き斬ってくれよう」

(……! 今バラされるわけにはいかない……!)


 攻め入るべきか、退くべきか。献慈の迷いを突いて、ヴェルーリの姿が視界から消える。


「……〈葬送華環(トーテン・クランツ)〉!」

「かふ……っ!!」


 下方からの斬り上げ。鉄の味が献慈の口内を満たす。


(あと半歩踏み込んでいたら、首を切り離されていた……!)

瞬突(シュトース)――」

(距離を取……駄目だ!! 追って来る!!)


 殺意の予兆はすでに献慈の心臓を貫いている。


「しっかりしろ!!」


 叱咤の声とともに頭上から攻撃が割って入る。直ちに軌道を変えたヴェルーリの剣が叩き落としたのは、水鳥の羽根を模した飛刀であった。


「……何奴?」

(誰だ……?)


 仰向けに転倒した献慈は、自分を見下ろすラベンダー色の瞳と目が合う。

 琥珀の翼を広げ、銀の尾羽根を垂らした、鮮緑の鎧を纏う戦乙女。姿こそ変われど、兜に頂いた角状の突起と、長く伸びた青い髪は紛れもなく――


「カミーユ……!?」

「そんな及び腰でミオ姉のこと守りきれると思ってんのか!?」


 ヴェルーリはカミーユを見上げ、含み笑いする。


「〈精霊鎧装(スピリチュアライズ)〉――精霊と合一したか。凡骨は身の程を知らぬ」

「うっせぇ! ケンジ、あたしが牽制するからオマエは攻撃に専念しろ!」


 降り注ぐダガーの雨を、ヴェルーリは涼しげな顔で振り払い闊歩する。


「フハハ! 小童どもがじゃれついてきおるわ」

「(ありがとう、カミーユ)……〈(ひゅう)鞭崩嶺嶄(べんほうれいざん)〉!」


 タイミングを見計らい一気に飛びかかる。攻めに転じたことで正しく発揮されたその威力は、献慈の想像を超え、


(いける……攻撃が通用している!)

「クッ……居直ったか」


 防ぎ止めたヴェルーリを後ずさりさせていた。


「よそ見してんなよ!」


 急降下したカミーユはヴェルーリを背後から斬りつけ、すぐさま空中へと舞い戻る。その手にたなびく奇妙な武器は、ダガーを蛇腹状に連ねた鞭であった。


「羽虫めが……図に乗るなよ!」

「ポッと出の寄生虫がデケぇツラしてんじゃねェーッ!!」


 再度分離させたダガーを浴びせかける、カミーユの表情は怒りよりも焦りに満ちているように見えた。


「あたしに気を使うなよ! このままぶっ倒すつもりで攻め続けろ!」

「……わかった!」


 実際、その意気で臨まなければ足止めすら叶わぬであろう。二対一であっても優勢と感じる瞬間さえ献慈たちには訪れない。


「フハハ……存外楽しませてくれるわ。どれ、褒美に――」


 ヴェルーリの剣筋は明らかに献慈を狙っていたが、


(――違う)

「望みのものをくれてやろう」


 見た目の動きに反して、殺気は斜め後方へ逸れている。


「カミーユ! 上に逃げ――」

「遅いわ」


 ヴェルーリの手を飛び出した霊剣が、カミーユの胴体を貫く。


「……が……ぁっ!?」

「カミーユ!!」

「気を散らすな、うつけめ!」


 掴まれた杖ごと、献慈はヴェルーリの頭越しに放り投げられる。


「ぐふ……っ!」


 外壁へ叩きつけられた献慈には目もくれず、ヴェルーリはカミーユのもとへ大股で近づいて行く。


「おおかた宮中伯の使い走りだな? 小娘とそこの詩人……いや、あるいは……」

「こ、の……野郎……がはぁっ!」


 カミーユは自らの体から霊剣を引き抜き挑みかかるも、あえなくヴェルーリにもぎ取られる。


「せっかくの手土産を突き返すとは、フハハハ……ッ!」

「が……〈嘯風牙(ガスタウィンド)〉」


 刃が振り下ろされる直前、カミーユは撃ち出した突風の反動で後方へ大きく退避する。


「〈(ひゅう)鞭崩嶺嶄(べんほうれいざん)〉……!!」


 同時に献慈も急襲を仕掛けたが、ヴェルーリが背中へ回した剣の平に防がれてしまった。


(手応えが……さっきより……)

「フン……剣を囮に逃げおおせたか。したたかな奴よ」


 弱々しい声が、遠くからこちらを気づかっていた。


「悪ぃ、ケンジ……ここまで、だ……」

「ああ。よく頑張ってくれた。あとは休んでてくれ……!」


 横たえたカミーユの体から、装甲が溶けるように剥がれ落ちてゆく。元よりあれだけの無茶が長続きするはずもなかったのだ。

 それは献慈も同じこと。〈エキサイター〉の効果は減衰に差し掛かっていた。


「小僧、そろそろ限界が来ているな」

「それはお互い様じゃないのか?」


 決断への猶予は残されていない。

 これは大きな賭けだ。


「フハハ……鎌をかけたつもりか?」

「どうかな。暴走した力を長いこと維持するのも楽じゃないはずだろ」

「仮にそうだとして、我輩に何の不都合があろう。長らえるための糧は目の前にあるのだからな!」


 敵は真正面。後ろに道はない。


(……俺が)


 襲い来る殺意の嵐。避けそこねた霊剣が身を掠め、魔力の電流が走る。


(みんなを)


 意志とは無関係にこわばる体。返す刃が肉を裂き、骨を削いだ。


(澪姉を)


 踏みとどまり、狙い受けるのはただ一手のみ。


(守るんだ――!)


 ヴェルーリの指先が、献慈の体へ到達した直後。


「うぬを喰ら――っ…………ぅぐぁ……っ!?」

不味(マズ)くて残念だったな――」


 悶え苦しむヴェルーリに、献慈は逆襲の乱舞を叩き込む。


「――〈鹿(ろっ)()狼乱(ろうらん)〉ッ!!」


 一打一打にありったけの力を乗せた連撃は、ヴェルーリの体を大きく傾かせた。


「ごぉッ、小僧ォ……ニンゲンでは、なっ……何、も、のッ……」

「俺を倒せたら教えてやる!」


 駄目押しの〈黎明断(れいめいだん)〉がヴェルーリの脳天を打ち砕く――はずであった。


(くっ……浅い!)

「おのれ……減らず口を……!」


 刻限は迫っている。もっと早くから攻めに徹していれば――最善を尽くしたつもりでも、後悔や反省はつきまとう。

 それでも、なお。


(力があろうとなかろうと、俺の意志が変わるわけじゃない)


 明日へと向かうその足はいつだって、今ここから踏み出すしかないのだから。


「行くぞ、魔王」

「勇者気取りが……望みどおり屠ってくれる!」

「俺は勇者じゃない――メタルウォリアーだ」


 誇りと、勇気と、残る力のすべてを懸けて。


「〈()天濁冽(てんだくれつ)()〉……!!」


 燃え盛る極光を身に纏い、献慈は重き魂の鉄槌を大上段に振りかぶる。

★〈仙功励起(エキサイター)(けん)() / 〈精霊鎧装(スピリチュアライズ)〉カミーユ イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16817330667099376831

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