表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第八章 身を尽くし

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/124

第115話 最後の異能(ちから)

 明るさも温度もない、真っ白な空間に立ち尽くしていた。

 懐かしい顔が、(けん)()の目の前にあった。


碧郎(へきろう)!? ……じゃない、キルロイさん……?」

「また会ったな、献慈どの」


 親友の姿を借りたその人物は、裏世界リヴァーサイドの住人・キルロイ。


「……そうだ! それよりも(みお)姉が…………いや、ここで騒いでもどうにもなりませんよね」


 直観的に理解する。ここが時間の流れとは切り離された場所であることを。


「察しの良いお前さんのこと、状況は把握しておろう。先に言っておくが質問には答えられん。〝これ〟は(わし)が事前に仕込んだ伝言だからな」


 いつ仕込まれたものかは見当がつく。理由はともあれ、悪意はないと信じられる。


「貴方は……俺がこうなると見越して……?」

「今の献慈どのは身体も思うように動かせず、意識を保つことすらままならぬのやもしれん。傷口から入り込んだヴァンピールの因子が暴れておるせいでな」


 ――(にえ)となれ。


 献慈を亡き者とし、澪の憎しみを煽るのが目的だとばかり思っていた。

 今日再び、ヨハネスと対峙するまでは。


「ヨハネス……俺が生きて現れたことに驚いた様子はなかった」


 あるいはどちらに転んだとしても、ヨハネスにとって不都合はなかったのだろう。


「……気に入らないな」


 身勝手だ。その裏にいかなる想いが隠されていたのだとしても。


「因子を取り除くのは容易いが、そうしなかったのには訳がある。いずれお前さんに降りかかるやもしれぬ脅威に対抗できるよう、あえて温存したのだ」


 その脅威と現に直面しているのだから是非もない。


「お前さんの体内で、励起状態となった『(おや)』との共鳴が起こっておるはずだ。暴走する力の奔流がお前さんを苦しめておる。これを克服し逆に利用するのだよ、災いを退ける力としてな」

「利用……あんな恐ろしい力を……?」


 献慈の口をついて出た不安を、キルロイはとっくに見抜いていた。


「思うに、献慈どのは大きな力を振るうのにためらいがあるようだ。良く言えば優しい、悪く言えば臆病な心持ちが、お前さんの内に眠る可能性や成長を妨げていると儂は見ておる」

「俺がここで躊躇していたら……澪姉が、みんなが……無事じゃいられない」

「道はただ一つ。あとはお前さんが踏み出すか否か、それだけだ」

「……だったら、俺は――」


 いつだってそうだった。

 立ち止まったり、振り返ったり。

 それでも最後には、そうしてきた。


「前に、突き進む」

「今一度問おう。献慈どの――マレビト来たりて、何とする?」




  *




「――ヘヴィメタル!!」


 無我夢中、力任せに、全身でぶち当たる。

 顔を上げた献慈の前方には、転倒し膝をつくヴェルーリの姿があった。


「……く……小童が…………!?」


 憎々しげな眼差しが、一転して驚愕の色に染まる。


「その姿……何をした?」


 両手の輪郭が陽炎のごとく揺らめている。垂れ下がった前髪も、ヴェルーリと同じ銀光を帯びていた。


「〈励起(エキサイター)〉」


 それこそは新たな、そしておそらくは最後の異能(ちから)

 献慈は得心するも、その急激な変貌が味方の注目を浴びぬはずがない。


「ケンジ!? ア、アンタそれ、どうやって……?」


 カミーユが、こちらを覗き込むように窺っている。


「いや、何かその……気合いで!」

「気合い! 相っ変わらずデタラメな身体してんなー」

「ほっといてくれよ……っとその前に――お父さん! 澪姉を!」


 澪に応急処置を施し、(おお)曽根(そね)へと託す。


「任せたまえ! この身に代えても完治させる! だから……」

「はい。それまで俺が食い止めます――この身に代えても!」


 この難局を乗り越えようとする仲間たちの意志が、自ずと新たな陣形を組み上げていた。

 後衛の守りはカミーユとシルフィードに一任する。

 進み出る前衛は、献慈ただひとり。


「猿真似にしては上等だ。察するに忍術の類いか」

(異能とか、マレビトだとか……そんな発想はさすがにないみたいだな)


 不敵な笑みを滲ませたヴェルーリが、歩一歩とこちらへ向かって来る。

 背中越しにライナーの声が届く。


「ケンジ君、魔王は宿主の能力を完全に使いこなします! くれぐれもご用心を!」

「フハハ……辺境に飛び地を築くも一興。さて、小僧――」


 降って湧いた魔王の企みや目的など、献慈には知りようもないことだ。たとえそれが何であろうと、戦わずしてこの場をやり過ごそうという考えは浮かばなかった。


(もう〝あの時〟とは違うんだ)

「一度のまぐれで思い上がらぬことだ」


 言い捨てる間に剣閃が三往復。その迅さ、正確さ、ともにヨハネス本人をいささかも下回ってはいない。

 威力もまた確殺であろうがゆえに。


「あれがまぐれ当たりだって思うか?」


 返事があるとは思っていなかったのだろう。わずかに見開かれたヴェルーリの目を、献慈は斜め一歩前から観察していた。


(タックルが当たったのは偶然なんかじゃない。その証拠に……奴は最初、俺の変化に気づいていなかった)

「逃げだけは一流か。それとも――」

(――次が来る!)


 電光石火の突き。献慈は側面から捌くまま杖を回転させ、ヴェルーリの顎を打ち上げにかかる。躱されはしたが、再び間合いを離すことには成功した。


「……解せぬ」


 ヴェルーリと献慈、いずれも潜在能力を限界まで引き出した励起状態にあるが、敵は双方の〝違い〟をいまだ掴みかねている。


(思ったとおりだ)


 献慈は気づいていた。一見互いに同調しているようで、ヴェルーリ側は信号を一方的に発信してるにすぎないのだ。

 つまり――


(俺は一方的に奴の信号を傍受できる)

「弱者と侮ったが、もはや手加減はせぬ」


 ヴェルーリの攻勢。縦横無尽に疾る剣の通り道を、先回りした杖がことごとく抑え込む。

 気の起こりを察知し先手を打つ、達人の領域における戦いを、献慈は図らずも体感していた。

 ところが、である。


「〈屠光迅剣(リヒト・シュレヒター)〉」

(その技は何度も……見……!?)


 淀みなく連なる八本の剣筋――そこまでは見通せる。問題はそれに続く、空いた片手の動きだった。


「(あの腕の振りは何だ? この距離で拳が届くはず……)がは……っ!」


 剣撃を捌ききった直後、献慈の胸部を不意の投石が襲った。


(床の破片……最初に転ばせた時に……!)

「フハハ! 化けの皮が剥がれたな」


 ヴェルーリの動作に含まれた意味までを理解するには、献慈の戦闘経験はあまりにも不足していた。


「まがい物めが。細切れにしてくれる」


 手の内を読まれている前提で、ヴェルーリは剣技の合間に突きを、蹴りを、投擲を、巧みに織り交ぜてくる。


(まだだ……持ち堪えないと……)


 献慈の全身に次々と傷が刻まれていく。護法陣と呪楽、常在させた〈ペインキル〉がなければ、敵の言葉どおり、治る間もなく細切れにされていたことだろう。


「フン。よほど苦しみを長引かせたいとみえる」

(軽率だったのか……素人が達人の土俵に踏み入るなんて――)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ