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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第八章 身を尽くし

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第110話 紫雷の閃き

 イツマデの亡骸から素材を回収しようとするカミーユを引き剥がし、目的地へたどり着く頃には禍々しい気配も薄らいでいた。


「魔法陣の内側に入った。外の魔物はもう手出しできないよ……はぁ」


 ふてくされるカミーユだが、その言葉におそらく偽りはない。眼前にそびえる大墳墓こそ、間違いなく災禍の中心部だ。




 最後の身支度を終え、入口の前へ集う五人。

 中心にはリーダーの(みお)が立つ。


「カミーユ。私が落ち込んでた時、励ましてくれたこと、一生忘れないから」

「なっ、どしたの? 急に」

「ライナー。あなたが何を抱えてるのか私にはわからないけど、その夢叶うといいね」

「…………」

「お父さん。いろいろあったけど、ここまで一緒に来てくれてありがとう」

「ああ……ずいぶん回り道をしてしまったがな」

「……うん……。それから……(けん)()。舟小屋でした約束、憶えてる?」


 ――ふたりとも生き延びられたら、お互いの言うこと何でも一つずつ聞くの。


「もちろん憶えてるよ。結局あの後、俺は……」

「私は、献慈にこの先も『生き延びて』ほしい」

「……わかった。それが澪姉の願いなら」

「献慈は? 私に、何かしてほしいことない?」


 遠慮は要らない――澪の目はそう言っている。


「俺は、澪姉に次もまた同じ約束をしてほしい」




  *




 〈発光する精霊スピリット・オブ・レディアンス〉が照らし出す横穴は、数人が並んで歩くに充分な広さがある。ここを根城としていた者たちの手が加わっているのだろう。


 開け放たれた鉄扉の向こうから差す明かりが、まるで誘蛾灯のように、一行を招き入れようとしている。


「待ちかねたぞ」


 地の底から響く声が胸腔を震わせた。それまであったはずの平常心が、ただの思い込みでしかなかったのだと思い知らされる。


(……俺は――――)


 あたたかな手がそっと触れてくるまでは。


(――――この人を守るために来たんだ)

「ごめんなさいね。邪魔が入らなければもっと早く来られたんだけど」


 玄室の内装に墳墓の名残りはない。円形に掘り広げられた室内は直径五十メートルほど。背丈の数倍はある天井には小さな魔導灯が、プラネタリウム然と張り巡らされていた。


「なるほど。外の騒ぎはこの連中の置き土産か」


 赤黒い何かで難解な図形が描かれた床のあちこちに、塵灰まみれの引き裂かれた僧服が散らばっていた。

 それらを踏みしだき進み出るのは、霊剣を背負いし死せる(つわもの)――かつて勇者と讃えられた、その男の名をヨハネス・ローゼンバッハといった。


「これは……あなたがやったの?」

「邪神復活の儀式だとか抜かしていたな。目障りなのでぶち壊してやった」


 周りの惨状を見れば、それが偽りではないのは自ずと知れた。


「行き場を失った魔力が暴発したってところかな、さっきの魔物――」

「そんな無駄話をしに来たわけではなかろう」


 ヨハネスはにべもなくカミーユの口を遮る。

 真紅に染まった両眼が見据えるのはただ一人の剣士のみ。


「一つだけ聞かせて。あなたは、お母さんを――」

「ミノリであれば」またしてもヨハネスが言葉を阻んだ。「この期に及んで問答を続けはしなかっただろうな」

「……そう。よくわかった」


 武人たる者、剣にて語るべし――霊剣・ドナーシュタールと霊刀・(みお)(つくし)天玲(てんれい)――互いの利き手が、それぞれの持つ剣の柄に触れようとしていた。


(……カミーユ)


 献慈が目配せを送ると、むこうも唇をすぼめて応える。

 ほんのわずかな油断だった。


(よし、あとは作戦どおりに――)

「まずは面倒を取り除くとしよう」


 紫雷の閃きが献慈の横を掠め、後ろに控えたライナーを刺し貫く。


(――しまっ……た……!?)

「……小癪な真似を」


 ヨハネスが吐き捨てる。霊剣の切っ先には一枚の呪符が引っかかっていた。

 当のライナーは呪符に封じられた〈縮地〉の効果によって安全な位置まで後退している。


「〈()(むら)〉!」


 抜き打ちざまの澪標天玲がヨハネスの利き腕を両断する。

 続いて大曽根の矢が飛んだ。ヨハネスはそれを難なく躱すや、斬られた腕を剣ごと掴み取り澪の二の太刀を防ぐと、地面を蹴って間合いから離脱する。


「〝切り札〟は今ので最後だな?」


 ヨハネスの読みどおりだった。若蘭(ルォラン)から渡された呪符は、互いに干渉し合わないよう複数枚を同じ場所に置いてはおけない。

 だからこそ「最も倒されてはならない者」が「一枚だけ」を持たされていたのだ。

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