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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第八章 身を尽くし

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第108話 異変の兆し

 一行が目的地までの中間地点を通り過ぎようとした時だった。

 岩陰から、(けん)()も見知った二人の女性が姿を現す。


「お久しゅうございます」礼拝服の若い女性は〝鬼哭天女〟安珠(あんじゅ)

「お互い無事で何よりだ」忍び装束の中年女性はその叔母〝鉄火蝶〟(たま)()


 シヒラ川でのヨハネスとの死闘以来の再会であった。


「お二人も作戦に参加してたんですね」


 (みお)が喜びと驚きの入り混じった声を上げる。


「お察しのとおり幕府の要請でね」

「正確には、別件を追う過程で流れ着いてしまった形ですが」


 彼女らの素性は疑う余地はない。察してか否か、唯一面識のない(おお)曽根(そね)は控えめに尋ねかける。


「ともあれ、協力いただけるのは間違いないのだね?」

「そのつもりさ。ましてこんな男前までいるんじゃあ力も入るってもんだ」


 珠実は大曽根に向けてしなを作ってみせた。


「そっ、それは光栄ですなぁ……ハッハッハ……」


 笑い声が半音低いことに気づく者は、彼の娘以外には献慈だけであろう。ともすると脱線しそうな話を引き戻すのは安珠の役目だ。


「宮司様は知っておいででしょう、邪教〝冥遍(めいへん)()〟の暗躍を」

「ああ。話には聞いているよ」


 冥遍夢とは中世イムガイに起源を持つ狂信者集団である。信徒は幕府内部にまで紛れ込んでいると噂され、『眷属』とともに社会の敵として認識される存在だ。


「ぶっちゃけるとアタシらが追ってたのはそちらの線だったんだが、内と外から撹乱(かくらん)されちまってね」


 そう言って珠実と安珠は、遠くにそびえ立つ前方後円墳を振り返った。


「やっとのことで隠れ家の場所を絞り込んだまではよかったのですが……」

「そうこうしてるうちに家主が交代しちまったってわけさ――あの時アタシらが手も足も出なかったアイツにね」


 平然と語っているようで、若輩者に先を譲らねばならない口惜しさがにじみ出ているように感じられたのは、献慈の気の持ちようもあろう。


 ――ヨハネス! 提案があるんだけど……ここは見逃してくれないか?


 ずっと心に引っかかったままだった、軽挙のあやまち。


「あの時は……俺の浅はかな行動でお二人を危険に晒してしまい……すみませんでした」


 顔を上げた献慈を、珠実の温かな笑みが迎える。


「そりゃ話が逆だよ。力が及ばずにアンタたちを救えなかった、アタシらこそ責めらるべきさ」

「でも、俺が出過ぎた真似をしなければ……!」


 なおも食い下がる献慈に歩み寄るのは、面差し穏やかな安珠。


「……わかりました。それではこうしましょう」

「何――――をぉぶっ!?」


 頬に咲く旬の紅葉。風流である。


「これでおあいこですよね?」

「(痛い)はひ……(すごく痛い)おあいほでひゅ……(何これめっちゃ痛い)」


 なるほど、いっそ罰してくれたほうが気が楽になるもの。

 だが本人はともかく澪が黙っていない。


「い、今のはちょっと、や、やりすぎだとぉ思うんですけどっ!?」

「殿方を甘やかしすぎるのは感心いたしませんよ。ここだけの話……浮気の原因になります」

「そっ!? それは……経験上……?」

「はい。経験上です」


 迫真の面持ちが逆に澪を説得しにかかる一方で、場に異変の兆しが現れる。

 献慈はうっすらと立ち込める異様な幻臭を嗅ぎ取った。


(金属臭……いや、これは……)

「魔力場の揺らぎだ。召喚術を誤作動させたり、強制中断したときの感じに似てる」


 カミーユの言葉にいち早く反応したのは、珠実たちだ。


「もう始まっちまったかい。(おん)(みょう)(りょう)の連中も当てにならないね」

「いえ、伯母様。誤差は前後一時間ですから、計測どおりではあるかと」

「何が起こってるんですか?」

「邪教が隠れて悪さしてたらしい。兆候までは掴めてたんだが……その様子だと烈士組合には話が行ってないようだね?」


 これにはライナーが答える。


「ええ。あるいは討伐作戦に集中してほしいとの配慮でしょう」

「そうだといいんだが。何にせよここはアタシらの受け持ちだ。アンタたちは先を急ぎな」

「わかりました。それでは――」


 前方を振り返った献慈は、目の当たりにした光景に息を呑んだ。


 遠景に吹き昇る妖しげな靄が、次第に凝り固まり巨影を成してゆく。

 一体、二体、三体――鱗状の羽毛に覆われた鳥ともトカゲともつかない奇怪な姿は、いつか図鑑で見た始祖鳥を思わせた。


「お父さん、あれって……」

「ああ。古い記録でしか確認されていない魔物のはずだが」


 怪鳥イツマデ――多数の餓死者・戦死者の無念が生み出すとされる魔物――が一気に数体。顕現するや否や、長い尻尾をうねらせ旧都の方角へ飛び去って行った。


「むこうでも対策は打ってあるはずだ。我々は我々の仕事に専念しよう」


 大曽根の言葉に皆がうなずく。迷っている余裕はなかった。なぜならばこの場もすでに安全ではなかったからだ。

 珠実の両の手へ鉄扇が展開される。


「安心しな。アタシらが道を切り開く――」


 周囲の地面から泥人形が続々と湧き上がる。かつて都を追われた者たちの無念宿る不死者(アンデッド)・ドロタボウの集団だ。


「――忍法〈()(にん)(ばや)()〉!」


 分身した珠実が四方に散開、ドロタボウの群れを蹴散らしていく。

 その間、安珠が紡ぎ出す詠唱は幾条もの光芒を頭上へ集積させ、


「Ena riguit: KYLKAW-RENO KALMIA-RI SALMAW-hi-tissa entu'i kotume-si-kono tirishiti-'i techeommy ekyse-ri merese-asi mak'kenel!」


 前方へ向け一気に解き放つ。平原を埋め尽くさんとした泥人形の群れは、砲撃の射線に沿って跡形もなく消滅した。

 大魔術〈神聖なる閃光の天啓フラッシュ・ゴッズ・アポカリプス〉――安珠は大きく息を吸み、会心の笑みを送る。


「さぁ、今のうちに」

「ありがとう!」


 走り出す一行に珠実が激励の声を投げかけた。


「振り返らず進みな! アンタたちの背中は〝みんな〟が守ってくれるよ!」

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