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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第八章 身を尽くし

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第107話 もう何も怖くない

「料理長から聞いたよ。最近ご飯食べる量、少ないんじゃない? って」

「…………」

「もしかして(みお)姉、あんまり寝てない……?」

「……あいつとの決戦が近づくほど、怖くてどうしようもない」

「そっか。でも仕方ないよ。それだけ恐ろしい相手――」

「違う! 怖いのは……また(けん)()のこと失ったら、どうしようって……」




  *




 いつか澪がそうしてくれたように、献慈は彼女の手を握ったまま、添い寝をした。

 そして今。

 見違えるように血色の良くなった澪が、隣から献慈の顔を覗き込んでいる。


「何考えてるの?」

「ん……三日前のこと」


 気恥ずかしそうに澪は顔を背けたが、すぐに笑顔で向き直る。


「私はもう大丈夫。献慈のことも、自分のことも信じてるから」

「それはよかった」

「献慈が一緒にいてくれるから、もう何も怖くないんだ」




 旧都グ・フォザラの北方、(ふる)()(うら)古墳群。


「決戦の場にこんな辛気臭いとこ選びやがって。趣味の悪い野郎だなー」


 現在、墳墓の大半は消失している。中世以降移り住んで来た人々の手で墳丘が切り崩され、湿地を埋め立てるのに使われたためだ。

 その住民たちも今は去り、往時を偲ばせる名残りは崩壊した民家や古井戸の跡だけだ。


「身を隠すのに都合が良かっただけでしょう」

「わかってるってば、ライナー。灯台もと暗しってやつでしょ」


 残された数少ない墳墓も盗掘し尽くされ、学術的な価値も薄れて久しい。訪れる者のいない土地には公の目も行き届かなくなるものだ。


「ええ。〝邪教〟の妨害工作がなければもっと早く目星がついたはず……おや、どうしました? カミーユ」

「いや、あの屋根ん所に一匹――うあっ! 来たぁ!」


 身構える間もなく、魔物の影が飛来する。


「二人とも、伏せたまえ!」


 後方から男性の声が飛んだ。ライナーが素早くカミーユに覆い被さる。


「……余計なおせっかいでしたか?」

「一応礼は言っとく」


 地面に転がるオンモラキの骸から、矢を引き抜く射手。


「うむ。どうやら腕は落ちていないようだ」


 (おお)曽根(そね)臣幸(おみゆき)であった。片肌を脱いだ屈強な上半身に和弓を携えた雄々しい姿に、カミーユが勢いづく。


「おー。オジサン結構いいカラダしてんじゃ~ん」

「そうかい? 神事やらで弓を引く機会が多いからかなぁ。ハッハッハ……」


 普段より半音高めの誘い笑いが誇らしげに聞こえる。


「お父さぁん、そんな格好してると風邪引くよ~? もう歳なんだからぁ」


 秋風よりも冷たい声音が父親に苦言を呈した。

 澪は袴姿にショールを羽織ったいでたち、腰の業物は(みお)(つくし)天玲(てんれい)だ。


「まだまだ娘に心配される歳ではないよ。それより澪こそ、すっかり元気が戻ったようだね」

「うん……全部献慈のおかげ」


 澪はそう言って、献慈のトンビコートに指先を這わせた。

 後ろで舌打ちが聞こえる。


「チッ……所構わずノロケやがって」


 抜け目なくオンモラキの体素材を回収するカミーユに、ライナーが茶々を入れる。


「おやおや。嫉妬は見苦しいですよ」

「嫉妬なわけあるかぁ! ……さぁて、小遣い稼ぎも終わったところで――出発しようぜ、皆の衆!」


 素材袋を掲げ、カミーユは足取りも軽やかに先陣を切ろうとする。


「ちょっとぉ! りーだーは私なんだからね!」


 負けじと駆け出した澪がカミーユとわちゃわちゃじゃれ合う。献慈たちには最早おなじみの光景だが、大曽根にとってはそうではない。


「あの子たちは普段からあんな調子なのかね?」

「はい……何かすいません」

「いや結構結構。できれば戦いの後もこうあってほしいものだよ」

「ええ、本当に」


 ライナーもまた言葉少なに微笑みを浮かべていた。

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