魔法少女のマスコット斡旋します。
「はじめまして、魔法少女・マスコット斡旋を担当しております、市原と申します。」
「先日契約担当の者からお渡ししておりました、書類の方は目を通していただけましたでしょうか?」
「はい…」
「では質問はありますか?」
「いえ…、昨日だいたい聞けたと思います…」
「安心いたしました。それでは、この度は新人向け専属マスコットの紹介ということでよろしかったでしょうか」
「はい…チームだと他の魔法少女と馴染めなかったら嫌なので…」
「ではこちらの資料にあります、『ララシィ』はいかがでしょうか?、過去に6名の魔法少女を担当、内4名は新人魔法少女です。怪異撃退ポイントを目標まで達成したのは6名中3名ですが、全員大きな怪我もなく、その後一般社会に戻れています。非常に安心感のあるサポートが期待出来ます」
黒のスーツと清潔感のある短く揃えられた髪がいかにも営業マンという風貌の男は、目の前の中学生ほどの少女に向けて説明する。
魔法少女、それは魔法の力で変身し、人々の社会を襲う怪異を撃退する存在だ。
一般人からすれば謎のヒーローであるが、適正ある少女達には使者が送られ、魔法少女にならないか勧誘されることになる。
戦うことは危険と隣合わせであるが、魅力的なのは怪異を倒して手に入るポイントだ。このポイントはあらゆる理論を無視して願いを叶えることができる。ただし、困難な願いほど多くのポイントが必要となる。
魔法少女でいられる期間は才能に左右されるがおおよそ10代のうちで平均で2年から3年程度である。
その間に願いを叶えるため、力ある少女達は魔法少女として尽力するのだ。
そして魔法少女になるためにサポートを行うマスコットと契約をする。
しかしマスコットにも考えや与えられる能力の違いがあるので、魔法少女側の意見も聞き、それを斡旋するのが私、市原の仕事なのだ。
「あの…どうしても願いを叶えたいんです。そのマスコットさんと契約して叶えられますか…?」
「はい、水嶋ミカ様の願いは別居中の両親がまた仲良くなって一緒に暮らすことでございますね、願いを叶えるにも方法がいくつかございます。平均的な獲得ポイントからしましても、そう難しくは無いと思います。」
「本当ですか…!じゃあ…そのマスコットさんで…」
「はい、かしこまりました。では、こちらの契約書にサインをお願いします。はい、そこで大丈夫です。それでは明日の放課後には到着いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。ご健闘をお祈りいたします。」
「はい!がんばります!」
水嶋ミカの両親の別居は生活時間のズレに起因するすれ違いによるもの、きっかけを作れば修復は難しく無い。
あ互いに冷めているものの、そこまで多くのポイントを必要とせずに願いは叶うだろう。ただその後もずっと続くとは限らない。彼女がその後も仲睦まじい両親を望むのであれば更にポイントは必要になるだろう。
その辺りはマスコットから伝えられるだろうし、どこまで望むのかは彼女しだい。
もしかすると、結局は他の願いに使うかもしれない。最初に設定した願いとは違う願いにポイントを使う魔法少女は少なくない。
この後は魔法少女とマスコットの問題だ。ララシィさんなら大丈夫だろう。
「あら、市原じゃない?なにしてんのたそがれちゃって」
雑居ビルの屋上で夕日の落ち切った少しだけ明かりの残る空を眺めていると声をかけられた。
「加賀見さんか…」
「なにさぁ、嫌な顔して」
「面倒な人に見つかったなと思っただけですよ」
「酷いなぁ、新人の時な親切に教えてあげた恩は忘れたのかぁ?」
「そういう絡みが苦手なんですよ…」
加賀見さん…自分が新人の時に仕事を教えてくれた先輩だ。悪い人ではないが良く知られているがゆえに絡まれたくないタイプの人であり、正直に言えば苦手な人だ。
「冷たいやつだなぁ、しっかしこんな所でたそがれてるのは、営業上手くいかなかったのかな?」
「いえ、問題なく新しい魔法少女にマスコットを紹介出来ましたよ。ただ…」
「ただ…?」
「いや、大したことじゃないんですが、上のミスの尻拭いをあんな少女達に任せるしかないのがやらせないなぁと」
「でもそのおかげでであの子達も願いが叶うしwin-winじゃない?」
「その願いを叶えるってのもですね…考えものだなと」
「あぁ〜もしかして自助努力によって叶えられるべきだって考えてる感じ?」
「いや、そんな堅苦しい考えなわけじゃないですけど、ちょっとの努力で叶えられることもポイントに頼ってしまったり、願いのために無理な戦いをして怪我をしたり、命を落とす魔法少女もいるわけじゃないですか」
「まぁ色々問題点があるのは分かるけどさぁ、私は魔法少女って夢があると思うしぃ〜、それに結局のところ、怪異を退治してもらわなきゃどうしようも無いわけだしね」
「世界の負のエネルギーの集合体、怪異を分解して世界に還元する…それが出来るのは少女達だけか…」
「解決策があるだけマシだよ、もともとあった負のエネルギーの分解機構が追いつかなくなり故障した現状、対処療法的ではあるけど世界の安定のために必要なことだからね」
「世知辛いな…少しでも多くの魔法少女が幸せになることを祈るしかないわけか」
「その為に私達がそしてマスコット達がサポートするわけだからね、魔法少女達を憂うならまたまだ気張らなきゃ」
「そうですね…まぁ頑張りますか」
「じゃあ飲みにいこうよ!」
「遠慮します。明日も朝からマスコットの方々の聞き取りや、才能ある子たちのリサーチがあるので」
「もう冷たいなぁ」
今のどこかで、世界の裏側で魔法少女が怪異を退治しているのだろう。自分が斡旋した魔法少女が怪我をした姿を思い出す。
命を落とした子はまだ知らないが、魔法少女の死亡例は存在する。ただ怪異との戦いで命を落とした子は存在が消え周囲の人物の記憶からすら消えることもある。
ただただ祈る。魔法少女に幸あらんことを。