第1話 劉☆備の憂鬱
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もう疲れました
どうか、探さないでいただきたい
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…ここは、中国のとある山奥にある都市。
時として、三国時代にあたる時代に、ひとり頭を悩ます者がいた。
劉☆備「…はぁ、困ったな…。」
劉☆備は、この都市の君主にあたる人物であるわけだが、
ちょうど今しがた、共に都市の繁栄に努めてきた【友】が家出をしようとしていた為に苛立ちを隠せずにいる。
劉☆備「とりあえず、止めに行かなければ!…ってか、これで何度目なんだ!」
【友】が家出をしようとしたのは、実はこれが初めてではなく、日常茶飯事であることが伺える言葉を呟いて、外へ飛び出していく。
「おや?劉☆備さん、どうかされましたか?」
城門を過ぎようとしたところで一人の男が声をかける。
劉☆備「ん?あぁ。アルスか。」
アルス「なんか、すっごく怖い顔をしてましたよ?」
このアルスという人物も、劉☆備が【友】と呼ぶ人物であり、魔法使いという時代に似つかわしくない職業に就いている。
劉☆備「ん…、いや、何。大したことじゃないから大丈夫だよ。」
アルス「あっ、はぐらかそうとしてますね?待っててください。僕の魔法で劉☆備さんに何があったか、読み取りますから…。…むむむッ…」
劉☆備「あっ、いや、アルス!」
アルスがそう言い終わる前に魔力を溜め出した為、慌てて劉☆備は止めに入ろうとする。
劉☆備「待ってくれ!本当に大丈夫だか…」
???「---お昼は、焼いた川魚を食べたいんでチュゥー。」
劉☆備「…はっ?」
アルスの魔力は消えていたが、劉☆備の目の前には特に変わったことはない。
…いや、変わったことと言えば、アルスの左手に白色のネズミを模した布があるくらいだ。
劉☆備「それは、なんだ?」
アルス「えっ?劉☆備さんの記憶を呼び起こしたんですが…。」
劉☆備「…それは、魔法じゃなくて、腹話術だろうがぃっ!!」
アルス「あっ!!」
劉☆備「あと、ネズミはネズミらしくチーズを食べなさい!焼いた川魚なんて贅沢なことをぬかすなっ!」
アルス「はぅ…!!」
そう言い残して、劉☆備は足早に郊外の街へと進みだす。
アルス「今日は、いい天気だなぁ。鳥もさえずっている。」
盲点をつかれたアルスは、雲一つない青空で弧を描く鳥を見つめ、落胆した気持ちを落ち着かせようとする。
アルス「【そもそも、それは俺の記憶じゃない】だなんて、おかしなことを言う鳥さんだ。」
遠くから聞こえてくる、劉☆備の叫び声であることはうっすらわかってはいるが、彼にとってはこれも大切なゆとりの時間なのである。
劉☆備が街へ入ると、様々な人たちで賑わっていた。
昼から酒を浴びる者、採れたての野菜や穀物を売りさばいている者、三国をまとめるのは誰かを討論している者達、新しく貼られたお尋ね者情報を見て騒いでいる者たち…、
劉☆備「やはり、街はこのような賑わいがなければいかんな。」
自分の努力が実を結んでいる、と実感し、手紙の送り主の家へまた足を進めると、
???「あっ、劉☆備さぁーん!なんか買ってってちょうだい!お土産なんかにちょうどいいもんが入ってるよー!」
劉☆備「…あぁ、こめこか。」
この男は、商人こめこ。日頃は、家業の商店を営む商人であるが、数年前の大きな戦争では凄まじい実力を発揮した者であり、多くの武将を見てきた劉☆備ですら震え上がった程である。
こめこ「なんだぃ?ぼーっとしちゃってさぁ!買わなくてもいいから、お金だけ置いてってちょうだいよ!」
劉☆備「…いや、物を買ってないのに金だけ置いていくわけがないだろう!…でも、お土産か。何か買っていくのもいいかもな。」
こめこ「えっ!?ケチで有名なあんたがお土産!?なっ、何か大罪でも犯したのかい!?大丈夫なのかい!?」
劉☆備「いや、ただのお土産だよ、心配してくれてありがとう。しかし、こめこが私のことをそう感じていたのは今初めて知った。…複雑な心境だが、どうすればいい?」
こめこ「もう!また、ぼーっとしちゃってさぁ!買わなくてもいいから、お金だけ置いてってちょうだいよ!」
劉☆備「うん、そうだな。買ってお金を置いていきたいから、何かおすすめはあるかい?古くからの友人へのお土産なんだ。」
こめこ「うーん、なるほど。じゃあ、こっちの棚から良さそうな物を自分で選んでちょうだい!友人へのプレゼントは深い思い入れがあるだろうから、私なんかがオススメなんてできないからねっ!」
…なるほど、と劉☆備は感じながら視線を棚へと移し、昔を思い出しながら売り物を見ていく。確かにいろいろなことがあったな…。出会った時から不思議とウマが合った。お揃いの装飾品なんてどうだろうか?
喧嘩をしたことがないわけではない。ただし、喧嘩の時でも常に相手の気持ちを感じながら素直な言葉を言い合ったな…。柄にもなく、絵画なんてのもいいな。
しかし、確かにここのところ、軍事については彼に任せっきりであったかもしれない。昔のように酒を呑み交わす機会もなかったな…。あれは、さっきアルスが持っていた白色のネズミを模した布…。ここで買ったのか。
劉☆備「よし、決めた。その雄々しい山々が描かれた絵画をいただこう。いくらだい?」
こめこ「毎度有りっ!こちらの絵画なら、銅銭を35万いただくよ!」
先に値段を聞くべきだったと後悔した劉☆備だが、今更高いなどと言えるはずもなく、しぶしぶ銅銭を渡して絵画を手にする。
こめこ「いやぁー、劉☆備さん、あんた、いい買い物したよ!この絵画は様々な商人から渡ってきた掘り出し物!だから、友人も間違いなく喜ぶよ!よし、珍しい人に買ってもらって気分がいいからオマケもつけちゃおう!」
劉☆備「ほぅ、そうなのか。ありがとう!確かにいい買い物であった。」
劉☆備は、商人こめこに感謝を述べ、手紙の送り主の元へと足を進める。
しかし、【友】を止めることはできるのだろうか?
今までは、手紙を送りつけてくることなどなかった。
いつも、面と向かって軍団を抜ける、とはっきり言ってくるような相手だった。
そもそも、軍団を抜ける理由はなんだ?
思い当たらない…、、、
などと、考えているうちに、彼の家に着いてしまった。
劉☆備「…ふぅ。」
劉☆備は一息ついて、扉を開ける。
劉☆備「おい、私だ。いるのか?」
わずかだが、奥の部屋から声がする。
それを聞いて、劉☆備は矢継ぎ早に喋りながら、中へと入る。
劉☆備「いや、会うのは久しぶりになるな。そういえば、そこで良い買い物をしたんだ。」
部屋に入る前に、絵画を【友】に渡せるように準備をする劉☆備だが、オマケの入った包み紙が手元から転げ落ちる。
劉☆備「君が喜ぶかと思って、有名な画家が書いた絵を買って…」
落としてしまったオマケを拾おうとした瞬間である。
包み紙からニョキっと、白色のネズミを模した布が現れたのだ。
劉☆備「…なっ!!」
???「お土産…?珍しいな。」
奥の部屋から男が動く気配がした事に気づき、慌てて劉☆備はオマケを回収しようとする為、絵画を一旦床に置く…が、一瞬違和感を覚えた。
劉☆備「これは…」
ここまで何故気づかなかった!?
購入するときは…、絵画は棚の一番奥に置いてあった!!
買ってからここまでの道のりでは!?
オマケと称されたネズミが入った包み紙で隠れていた!!
劉☆備「や、やられたっ!!」
???「有名な画家っていうと、あれか?ゆとぴこ氏とかなのか?」
劉☆備「くっ!こ、これだっ!受け取れ!だが、最後に私に見せてくれ!表は見るな!」
男が目の前に現れた為、慌てて絵画を見えないように押し付ける劉☆備。
???「えっ!?あ、あぁ。」
劉☆備「うむ、やはり良い絵画だ。」
素晴らしい。素晴らしい絵画である、と劉☆備は感じていた。
絵画には、暖かい陽の光、雄々しくそびえ立つ山々、木々の揺らめき、瑞々しい青葉たち、「商人こめこ」というサインがはっきりと記されている。
…記されているのだ。
???「いや、そろそろ見ていい…
劉備「どうして軍団を抜けるなんて言うんだぁっ!!」
危機を感じて被せるように、劉☆備が言う。
だが、この力強い言葉が男の感情を揺さぶることになる。
???「劉☆備…。お前、そこまで想ってくれていたのか…。」
劉☆備「あぁ、話せば長くなるんだろ?いいから、その絵を置いて心ゆくまで話せ!置く時は裏向きに置くんだぞ!!」
???「いや、大丈夫だ。時間は取らせない。実は…」
疲労感「溜まってるんだよ。疲労感が。…こう、腰のあたりに。」
劉☆備「…。」
疲労感「だから、2日くらい隣町の整体に行こうかと思ってな。」
劉☆備「疲労感、そのままだ。そのままじっとしているんだ。」
疲労感「ん?なんだ?何を手に付けてるんだ?ネズミ?」
白色ネズミを模した布を、手に装着した劉☆備は一つ、大きなため息をつき…、
劉☆備「お昼は、焼いた川魚を食べたいんでチュゥー!!!」
バキャッ!!と音を立てて、絵画は白色のネズミによって粉砕する。
バラバラになった絵画があたりに散らばり、疲労感は驚きと戸惑いの表情を見せている。
劉☆備「…疲労感よ、また改めて遊びに来るよ。」
疲労感「あ、あぁ…。」
商人こめこと書かれた絵画の断片を左手に握りしめている疲労感をそのままに、劉☆備は憂鬱な一日を終えるために来た道を引き返していくのであった…。
本日の活動記録
・銅銭35万を支出
・商人こめこの絵画を破壊
・疲労感の退団を防止(?)