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95話 vs軍隊蝿②

「みんな力を貸してちょうだい。あれを倒すのは一苦労だわ」


 レベル的には圧倒できるほどの差がある。しかしあのハエ達は妙に統率が取れている。この違和感、この厄介さ、もしかしたら魔王軍が絡んでいる可能性があるわ。なるべく早く倒して先へ進みたいところなのだけれど……。


「もちろんです。でも……近づけない相手になら『絢爛の炎』で焼かれた方がいいのでは?」


 確かに柚子の提案ももっともだわ。あの魔法なら一気にハエ達も倒せるでしょう。ただ間違いなく沼地そのものを吹き飛ばしてしまう。そしておそらく『絢爛の炎:瞬』だと倒しきれない。この2つの厄介な状況に板挟みにされているのよね……。


「一応私の剣術でやってみますね。『紫電:一文字斬り』」


 一文字の斬撃がハエの軍勢に向かって飛んでいく。しかし当然のようにハエ達はまばらに散らばって斬撃を通り抜けさせるための隙間を生み出した。


「う〜ん……これじゃあアマちゃんの力を借りても同じだよね……」


 ここは一か八かに賭けて『絢爛の炎:瞬』を使ってみましょうか。下手に刺激する可能性がある分控えたかったけれど、これでは一向に前に進めませんもの。


「みんな、少し下がっていなさい」


 3人は言われた通りに従って数歩後ろに下がる。おそらく今あのハエ達が命じられているのはわたくしたちの足止め。それ以上進もうとすれば止めてくるけれど留まるのであれば攻撃はしてこない。このわたくしの攻撃でそれがどう変わるか、確かめましょうか。


「みんな、一応防御のことも考えておいておくのよ?」


 さぁ、やりましょうか。瞬とはいえこのあたりの湿気はすべて吹き飛びそうね。

 魔力を手に集め、叫ぶ。


「『絢爛の炎:瞬』」


 煌びやかな炎が一瞬のうちにハエ達に襲いかかる。ほんの一瞬の輝きにも関わらずとんでもないエネルギーを保有したその炎は怒りをぶつけるようにハエ達に向かっていった。

 直撃した瞬間、ハエ達に異変が起こる。軍隊の中から数匹のハエが前に出て壁のように立ちふさがったと思えば爆発! 『絢爛の炎:瞬』の威力を相殺する気?


「無駄よ。その程度でこの魔法を破れるわけ……」


 わたくしはふと【魔弾】に殺された時のことを思い出す。そうよ……異世界にて油断は禁物。もう2度と柚子を悲しませないと決めたんだからしっかりなさいアリス!


「追撃よ……『風雷坊』」


【魔人】戦以来の使用になった魔法でハエ達に追撃を加える。わたくしの予想に反して爆発の規模は大きく、『絢爛の炎:瞬』の威力を確かに弱めていた。そこへ『サイクロン』と『ライトニング』を掛け合わせた魔法、『風雷坊』を放つ。これならどうよ!


 完全に決まったと思った瞬間、空にとどまっていたハエ達が一斉にわたくし達に向かって襲いかかってきた!


「くっ、みんな、避けて!」


「「『サイクロンアーマー』」」


 ユリアンとロマンは風の鎧でハエ達を退ける。自衛の手段を持ったのは正解だったわね。あとはわたくしと柚子よ。


「アマちゃん!」


『えぇ! 叫びなさい!』


「『陽光』」


 オレンジ色の光線でなんとかハエを退ける柚子。わたくしはユリアンとロマンを真似させてもらうわよ!


「『ライトニングアーマー』」


 即興で作った魔法。雷を纏わせて防御だけでなく反撃の一手にもなる魔法。


「そういえばわたくし、天才でしたわね」


 これにはハエ達も驚いたのか突撃してくるのをやめるハエ達が大多数だった。何匹か倒せたけれど……これじゃあキリがないわね。


「アリス様……もう持ちそうにないです!」


「柚子!」


 柚子だけ防御ではなく攻撃でごまかしていた。当然限界は誰よりも早く来るわよね。だとしたら早く倒さないと……。もう異世界の環境を壊すだとか言ってられないわ。『絢爛の炎』でかき消すしか……


「やれやれ、ピンチですね、アリス様」


「……え?」


 この声……まさか!

 上を見上げると白い髪を風になびかせる美しい女性が氷の上に立っていた。


「……ルカさん!?」


 驚きの声をあげたのは柚子。なんでこんなところに【白百合騎士団】の副団長であるルカさんが……。


「アリス様達に助力を求めにきたらまさかのピンチでしたね。力、お貸ししましょうか?」


 まだそのわたくしに対するちょっと嫌なキャラクターは継続するのね。面倒だから普通に接して欲しいのだけれど。


「お願いするわ、【絶氷の魔女】さん? この場面では貴女の力が必要よ」


 わたくしの計算通りならこの状況に一方的優位に立って対応できるのはルカさんとエデンさんのみ。

 詳しい理由は後で聞くとして、ここは素直に力を借りることにしましょう。


「ではここはひとつ貸しということで。『銀氷結界』」


 ルカさんが叫んだ瞬間、ハエ達も逃げる隙がないほど一瞬で凍りついた。超巨大な氷の立方体が生まれ、その中にハエ達は身動きが取れないまま固まっている。少し離れたわたくし達の場所ですら氷点下にいるのではないかと思うほどに肌寒い。


「さぁ、ここからはお願いしますね」


 凍りついたハエ達を倒すのはわたくし達ということね。というか……おそらく柚子に言ってるのでましょう。凍りついたハエ達を壊すのに柚子の刀はベストだものね。


「じゃあロマンちゃんの技を借りようかな。『紫電:乱切り』」


 柚子が目にも留まらぬ速さで[アマノムラクモ]を振る。その瞬間ハエ達は1匹1匹がバラバラに砕け散った。


「ふぅ。やりますね、柚子さん」


「ありがとうございますルカさん。貴女のおかげで乗り越えられたわ」


 わたくしがそう言うとルカさんはニコッと笑った。


「というわけで借りを返してもらいます!」


「い、いきなりですわね……」


「落ち着いて聴いてください。簡潔に伝えます。今【エクトル】は陥落しました。【イリス】が攻め込まれています。どうかご助力を」


 なっ……【エクトル】が陥ちた……ですって!?

 その報告はルカさんの氷以上に背筋が凍りつくものだった。

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