91話 オルゴールですわよ
本日2話目の更新です。90.5話にご注意ください
無事ユリアンの気持ちを聞き出すことに成功したわたくし。目的は果たしたわね。お買い物をして帰りましょうか。
といっても必要な食材等はユリアンとロマンが買っていてくれた。だから食材より何か別のものを買うことにしましょうか。
「ユリアン、マジックアイテムのお店に行くのはどうかしら? 柚子は少し嫉妬するかもしれないけれどね」
あとで連れて行かないと文句が出てきそうね。まぁそうなったらあとでもう一度行けばいいだけのこと。とりあえず今はユリアンを買い物という大義名分で連れ出した以上、それを果たさなければならないわ。
「はい! 行きたいのです!」
ユリアンもマジックアイテムは好きなのかしらね。結構嬉しそうな顔をしているけど。
さて……その肝心のマジックアイテムのお店とやらはどこにあるのかしら。
「ユリアン、誰かに聞いて……あら?」
さっきまで隣にいたはずのユリアンがいない。どこへ行ったのよと思ったらずいぶん先の方でお姉さんに道を尋ねているようだった。以前も思ったけれどとんでもない行動力ね。行動力という概念がそのままユリアンという体になったような存在だわ。
「アリス様ー! あっちなのです!」
大声で叫んでわたくしに道を教えてくれる。ありがたいのだけど周りの視線を集めるから少し恥ずかしいわね。
ユリアンの指差す方へ歩いて行くとマジックアイテムのお店らしき店舗が見えた。マジックショップ『ハープ』。どんなものがあるのかしら。
「いらっしゃいませ」
お店の中に入るといい感じの音楽に歓迎される。さすが音楽と神の街ね。
「ごきげんよう。何かオススメはあるかしら?」
オススメを尋ねつつ自分でも首を振ってアイテムを吟味する。今まで見てきたマジックアイテムのお店とは違って剣やら刀やら盾やら、そういった物騒なアイテムが少ない……というかまったくないじゃない。
「当店のオススメはこちらの上級マジックアイテムの[オールゴール]です」
そう言って店員が持ってきたのは6角形の箱の中で音を奏でながら踊る人形たち。そして動くぜんまい。これは……オルゴールね。この世界では[オールゴール]と呼んでマジックアイテム扱いをしているの? なかなかたいそうなことじゃない。
「ずごーい! 不思議なのです!」
「あら? ユリアンはこれを見たことがないの?」
目を丸くして驚くユリアンに驚いた。そんなに貴重なものなのかしら。
「はい! 初めて見たのです!」
そうなのね……。ちょっと異世界のことはよくわからないわ。オルゴールって確か柚子が好きだったわよね。買ってあげましょうか。
「なら[オールゴール]、いただきますわ」
「はい。50万円になります」
結構高いのね。まぁでも日本でもいいオルゴールを買おうと思ったらとんでもない値段のものもありますし、そんなものでしょう。と自分を納得させる。
オルゴール……もとい[オールゴール]を持ってユリアン&ロマンの部屋へ。
「ただいま。いいものを買ってきたわよ」
「おかえりなさい。アリス様。何を買われたのですか?」
柚子が興味深そうにわたくしが持っている袋を眺めている。ロマンの様子は……ちょっとモジモジしているわね。時間がある時に成果を報告し合いましょう。
「これよ! オルゴール!」
「うわぁ! 懐かしい〜! オルゴール好きなんですよねぇ〜」
もちろん知っているわよ。7年くらい前のお休みの日にポツリと雑談の中で呟いていた気がするもの。わたくしの記憶にあるということは間違いないということよ。
嬉しそうにオルゴールを起動してみる柚子と不思議そうに、ワクワクしながら見つめるユリアンとロマンを見てほっこりする。この空間、いいわね。尊すぎるわ。
柚子がオルゴールをイジり初めて十数秒で音楽が鳴り出した。なんの音楽なのかしら。聴いたことないわね。
「ずごーい! なんかオシャレ!」
確かに異世界ミュージックというのも悪くないわね。無人島に持って行って音楽を流してみましょうか。食事中に流せばいいBGMになりそうですわ。
「さて、今日はこのまま休むとして、明日からの行動を決めるわよ!」
わたくし達は【魔弾】と神の存在を知ってここへやって来た。神とはもう契約し、【魔弾】とは闘い、敗れた。もうこの【ケークス】の街に残る理由はない。おそらく【魔弾】もわたくしを殺してどこかへ行ってしまったでしょうし。
「わたくしの考えなのだけれど……【エクトル】へ向かうのはどうかしら?」
「え、【エクトル】にですか?」
そう、わたくし達がつい先日まで所属していた人類の希望たる[白百合騎士団]の本部がある街、【エクトル】。そこは戦争の最前線。今のわたくし達にとってそこ以外へ行くメリットはありませんわ。
だってもう幹部は残り2人。おそらくA地区で戦闘をしていることでしょう。そこへ行って[白百合騎士団]を助けつつ勝負を決めに行く。
「そうよ、言わばこれは……最終決戦になると言っても過言ではないわね」
幹部2人を倒し、魔王を倒す。そうすればようやく日本へ帰ることができますわ。
「情勢を考えればこちらが優勢のはず。[白百合騎士団]と手を組んで、魔王軍を倒す。どうかしら?」
「賛成なのです!」
「行きましょう、【エクトル】へ!」
「アリス様について行きます!」
……決まりのようね。
「ただ【ケークス】からそのまま【エクトル】へ向かうとなると沼地を通ることになるわね。それは……」
「「「絶対に嫌です!!!」」」
強い否定が3つ飛んできた。臭いのは嫌よね。それは当然だわ。なら一旦【イリス】を経由しましょうか。さぁ……最終決戦も近いわ。わたくし達の力、見せる時が来たわよ!




