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90話 ユリアンの気持ち

「柚子、起きなさい。柚子!」


「ん……むにゃ?」


 むにゃって……可愛いけれどあざといわね。


「おはようございますアリス様。お気分はよろしいですか?」


「え、えぇ。とりあえず服を着なさい」


「え? ……あっ!」


 服を脱いでいたことを忘れていたのね。可哀想だし、わたくしも照れてしまうから追及するのはやめておきましょう。


『あはは〜! 柚子ちゃん超面白いね』


『眼福眼福……』


「えっ! アマちゃん見えてるの?」


 刀から煩悩を感じるわね。あの神大丈夫なのかしら。


「わたくしはユリアンとロマンを追ってくるわね。貴女はここで待ってなさい。少しお買い物もしてくるから遅くなるわよ?」


「あ、はい。わかりました」


 恥ずかしさから柚子はこれ以上何も言ってきたりついて来ようとはしない。つまりこれはロマンとの取引を遂行するチャンス!


 ……なのだけれどまずあの2人の誤解を解くところから始めないといけないわね。あの2人の中では今わたくし達は交わっているという認識でしょうから。……なんだかいやらしいわね。


 宿を飛び出してユリアンとロマンを追う……のだけれどどこへ行ったのかしら。


『へいへーい。お困りかい? アリスちゃん』


「えぇ。お困りよミミちゃん」


 このタイミングで話しかけてきたということはあるのね、何かいい魔法が。


『さてさてここでミミちゃんの大活躍時だね。ユリアンちゃんとロマンちゃんなら探せると思うよ。サーチって叫んでみて』


「わかりましたわ。『サーチ』」


 一瞬脳内がパチっと痺れた気がする。その後、無意識のうちに感覚で一歩を踏み出していた。


「……こっちということかしら?」


『そだねー』


 まぁ便利といってもいい魔法が手に入ったわね。これでクエスト中なんかに誰かとはぐれたとしても大丈夫そうね。


 サーチが教えてくれた方向に向かってダッシュ! 街中を走るのはあまり褒められたことじゃないけれど仕方ないわよね?


 2分ほど走ったところでユリアンとロマンを発見した。赤髪と青髪だとやっぱり目立つわね。


「ユリアン! ロマン!」


「「あ、アリス様!」」


 わたくしの顔を見てあからさまに気まずい顔をする2人。これは早く誤解を解きに来て正解だったわね。変にこじれたら厄介でしたわ。


「ち、違うのよ? 今2人が想像しているようなことは何も起こっていないわ。柚子が勝手に脱いで添い寝してきただけなの!」


 まさかわたくしともあろう者が必死に弁明する機会が来るとは思いませんでしたわ。これも社会勉強の内に入るのかしら。


「そ、そうなのですか?」


「そ、そうでしたか……」


 誤解だったと分かったら分かったで恥ずかしくなる2人。まぁ気持ちはわかるわよ。


「ロマン、先に帰って柚子と待ってなさい。わたくしはユリアンとお買い物をして帰るわ」


 最初は意図が伝わっていなかったようだけど軽くウィンクをしたら意図は伝わったようで……


「は、はい!」


 そっちは頼んだわよ、ロマン。こっちはこっちでユリアンの気持ち、ちゃんと聞いてあげますからね。


「アリス様? なぜ先にロマンを帰したのです?」


「ん? ちょっとユリアンとお話しついでにお買い物をしようと思ってね。迷惑だったかしら?」


「い、いえ! とんでもないのです!」


 全力で否定するユリアン。さて、この辺りで小話にちょうど良さそうなカフェは……あ、ありましたわね。


「少し休憩していきましょうか。小腹も空いたでしょう?」


「は、はい! 恐縮なのです!」


 見かけたお店に入って内装を確認。まぁいい感じのカフェですわね。【イリス】の街でロマンと対談したカフェと似たような雰囲気ですわ。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「わたくしはアイスコーヒーとロールケーキを」


「私はミルクティーとパンケーキでお願いしますなのです!」


 その語尾ってそんな活用もできるのね。便利な語尾だわ……じゃなくて、ロマンのことをどう思っているのか聞くのよね。……あら? なんだか少し恥ずかしいのだけれど。ダメよアリス。これはロマンとの取引なのだから。


 注文の品が届いたところで会話を始める。さぁユリアン、貴女が何を思っているのか、聞かせてもらうわよ?


「ねぇユリアン、貴女ロマンのことをどう思っているの?」


「大切な家族なのです!」


「そう……」


 ちょっと手強いわね。まぁ今の回答も本心からのものでしょうけど、もっと踏み込まないと望みの回答は得られなさそうだわ。


「それだけかしら? もっと別の感情とかないの?」


「う〜ん……野菜の強要はやめてほしいのです」


 ……そういうことじゃないのよねぇ。この子やっぱり天然入ってるわよね。


「そうじゃなくてね、その……1人の女の子としてどう思うかしら?」


「か、可愛いと思うのですよ」


 ふむ。これは有力な情報ね。少なくとも可愛いとは思っていると。


「ふぅん。ねぇ、それだけかしら?」


「な、何がなのです?」


 だんだん慌て始め、顔を赤くしていくユリアン。わたくしの推理が正しければ……


「ねぇユリアン、貴女本当はロマンに特別な感情を抱いているのではなくて?」


 さぁついに本題に入りましたわよ。

 ユリアンはこの言葉にちょっと俯いて、数秒後耳まで真っ赤にした顔を上げる。


「わ、わかっちゃうのですか?」


 き……キタわ! これは俗に言う両思い! 良かったわね、ロマン。貴女の春は近いわよ!


「えぇ。わたくし、天才ですもの」


 いや、本当はたまたまですけどね。まぁそのたまたまを引き寄せるのもわたくしが天才であるがゆえですわ。


「うぅ……恥ずかしいから誰にもバレたくなかったのです……」


「恥ずかしがることなんてないじゃない。仲間なのだから」


「……ロマンも同じ気持ちなのでしょうか……。そうじゃないと思ったら怖くて告白できないのです……」


 わかるわよその気持ち。わたくしもそれが怖くて柚子に想いを伝えられないもの。


 こちらは順調に聞き出せたわよロマン。あとはそちらもよろしくね、ロマン。

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