8話 洞窟ですわね……
ついさっきまで森だったモノ。今では焼き果ててコゲとしか判別できないものとなった元森を闊歩する。
結構歩いた気がするのにまだ焦げていますわね……恐ろしい魔法ですこと。これで魔法自体のLvはまだ7なのがさらに恐ろしいわ。
「アリスさまぁ……疲れましたね〜」
見るからに私疲れましたよオーラ全開の柚子。
「そうだ! アリス様の飛行で飛んで大蛇を見つければいいじゃないですか!」
「それじゃあ巣穴に入っていたらわからないじゃない。それにほら穴だってどうやって上空から探すのよ」
「うっ……確かに……」
わざとらしくしょんぼりとする。うっ……本当は意を汲んで一旦島に帰りたいところだけどここは心を鬼にするのよ有栖。決して情に流されてはいけないわよ……!
また30分ほど歩いていると……ついに……!
「あ! アリス様! あれ!」
「やっと見つけたわね……」
ついにほら穴の入り口を発見! 凄まじく大きいわね……小学校の校舎くらいまるっと入るんじゃないかしら……。
「これ……大蛇ってどんなサイズなんでしょう……」
「さぁ……?」
もしこのサイズだとしたら蛇というより龍なんじゃないかしら。
「何はともあれ入ってみるわよ」
「えぇ……大丈夫ですかね……」
「何かあってもわたくしが守ってあげるわよ」
「えへへ……アリス様カッコいい……って従者が守られてどうするんですか! アリス様は私が守ります!」
「そう? 頼もしいわね」
まだ「従者」という意識はあったのね。何かと最近は自由に動いたり時折失礼なことも言ってくるからてっきりもう忘れたのかと思っていましたけど……。
入り口でジッとしていても仕方がないので中に潜入! ほら穴というよりもはや鍾乳洞ね……。
「うわぁ……暗くて何も見えませんね。暗いの苦手なんですよぉ……」
「ライトくらい持ってくるべきでしたわね。でも……代わりになるものがあるじゃない?」
「代わりのもの? 何ですか?」
「さっき柚子が使ってた紫色の雷があるじゃない。あれよ」
「え、えぇ……ライト代わりに使うんですか?」
「使えるものはなんでも使うのよ。ほら、」
急かすとしぶしぶ刀を抜いた。
「ううーん……『紫電』」
刀に紫色の雷が通る。思った通りかなり明るくなったわね。
「なんか納得いきません……」
「真っ暗なまま進みたいならそれでもいいのよ?」
「いえ! このまま頑張ります!」
「いい返事よ」
明かりをつけてようやく初めて辺りを見回す。……ん?何かしら、これ。
「ひっ!」
「どうかしましたか?……ひゃあ!?」
「じ、人骨……!」
間違いない。人間の頭蓋骨ね……。それも大量に転がっている。
「昔の冒険者でしょうか……?」
「大蛇にやられてしまったのかもしれないわね。注意して進みましょう」
「はい!」
鍾乳洞を進んで5分ごろ……ついに生き物を発見した。ハリネズミのような見た目でサイズは小さいけどあれは間違いなく強い。ここまで鍾乳洞を歩いて一度も生き物を見なかった。つまり大蛇の気まぐれですぐに殺されてしまう環境であるということ。そこで生活しているあのハリネズミは……
「≪スキャン!!≫」
≪シルバーヘッジホッグLv29≫
レ、レベル29!? かなり高いわね……駆け出し冒険者が多いと言われている【アイン】の街近くにこんなに高いレベルの生き物がいるなんて驚きだわ……。あんな小さなハリネズミを街に放っただけで【アイン】は壊滅しそうね……。
「アリス様! どうしますか?」
「まだ指輪の使っていない魔法があるからわたくしがいきますわ」
風・雷は実験済み。あとは炎・水・闇だったかしら。炎はさっきのがトラウマになっているのでしばらくやめておきましょう。一番気になっていた闇を使ってみましょうか。
「『ダークネス!』」
ハリネズミに向かって闇魔法を指輪から放つ! 発動した瞬間黒いオーラが指輪から漏れてわたくしの顔くらいのサイズの球体をつくる。
「やぁ!! ですわ!」
放出した黒い球体はハリネズミに当たった瞬間肥大化する。中からハリネズミの鳴き声が聞こえてくる…。
黒い球体はだんだんと小さくなっていき銀色のハリネズミが再び姿を現した。まぁ……出来合いの魔法でLv29が倒せたら苦労はしませんわね。
「ど、どうしましょう?」
柚子が不安そうな顔で呟く。
当然『絢爛の炎』で倒せることは確実ですわね。ただ…もし調整に失敗して洞窟内で大爆発を起こしたらと考えたら恐ろしいですわ……。ここはひとつ新しい魔法を覚える必要がありそうね。
先ほど使った『ダークネス』。記憶が新しいうちに自分のものにしてしまいましょうか。大事なのはイメージ…黒い球体……闇色のオーラ……
「行くわよ……『ダークネス!』」
広げた手のひらから黒いオーラが渦巻いて出てくる。出来合いの魔法とは比べ物にならないほどのオーラの濃さと範囲に少々驚きつつ……先ほどと同じように黒い球体を生み出す。
「ギュ……ガギュ」
「あら? 今あなた……自分の死を感じたのかしら?」
ハリネズミは応えるように向かってくる。そう、戦う気なのね?
「はぁっ!!」
黒い球体を放出! ハリネズミを包み込んで…中から眩しい光が漏れ出してきた。
「なんかさっきと違いません!?」
「わたくしの光り輝くオーラに魔法が変異したのかしら?」
黒い球体が消えた頃、ハリネズミの姿は跡形もなく消え去っていた。
「流石ですアリス様! ちゃんと威力もセーブされていましたよね?」
「えぇ。結構上手くいったわね。先へ進みましょう?」
「はい!」
『き・さ・ま・か?』
洞窟全体から響いて聞こえるような声……ゾクッと身体が震え上がるのがわかった。
「……何者です? わたくしに対して姿も見せずに声をかけるなど失礼じゃなくて?」
『あまり調子に乗るなよ小娘……たかがネズミ1匹殺しただけでもう勝者気分か?』
「質問に答えないあたり随分学がないのがわかるわね。もういいわ。どうせ大蛇と呼ばれている者なのでしょう?」
『ほう……我の正体を知ってここまで来たと言うか……愉快愉快……飛んで火にいる夏の虫とは言うが実際に見ると滑稽よな』
「あ、アリス様……」
「平気よ柚子。心配ないわ」
言葉とは裏腹にわたくしの頭には不安が広がっている。もし噂通り大蛇のLvが35程度としても魔法やスキルのLvが100近くあれば軽くわたくしたちを上回る強さを持つことになる。
「こそこそ隠れていないで姿を見せたらどうかしら? それとも醜すぎて姿を見せるのが恥ずかしいのかしら。それなら正式に謝罪させていただきますわよ?」
『小娘が……あまりいい気になるなよ……だか面白い! 貴様をぐちゃぐちゃに砕いてやるのが楽しみだ!』
ドゴゴゴッという音と共に洞窟奥から這いずるような音が鳴り響く。工事音に匹敵するほどの騒音を生み出すなんて…一体どんな巨体をしているのかしら……。
「アリス様……! あれ……!」
柚子が震えながら指差した方向には……高層ビルほどの蛇が今にも飛びかかろうかという形相で地を這っていた。
「あれは……想像以上ね……」
「さぁ小娘よ……貴様の発言を詫びるなら今のうちだぞ? まぁどう詫びようと殺すことに変わりはないがな」
「あら奇遇ね。私もそう思っていたところよ。一つ違うのは……謝罪するのはわたくしではなくてあなたの方という点ね」
「ほざけ! 『フレイムスネーク!』」
炎が蛇のように地を這って襲いかかってくる。
「柚子!」
「はい! 『紫電:一刀両断!』」
柚子の刀が這いずり襲いかかってくる炎をその名の通り一刀両断する。火の粉が地面に降り注ぎ……戦いの開幕を告げた。