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87話 vs魔弾ですわよ

「開戦の合図ねぇ……≪スキャン≫」


 魔王軍幹部の中でも最強と言われている【魔弾】。エデンさんたちの持っていた情報によると推定レベルは75ほど。それが本当か、確かめて……


≪【魔弾】Lv88≫


「なっ……!」


 レベル……88!? 今までの幹部の存在が霞むほどのレベルじゃない!


「どうした? まさか怖気付いたわけでもないだろう?」


「当然ね。『フレイム!』」


 まずは牽制。相手の出方を伺いますわ!


「『フレイム』」


「なっ!」


 同じ技で対抗を!? でもわたくしはレベル100……『フレイム』の魔法レベルだって低くはないわ。


「喰え」


 炎と炎がぶつかった瞬間、わたくしの『フレイム』は【魔弾】の『フレイム』にかき消される。


「そ、そんな!」


 個人レベルで12の差があるというのにそれを埋めるほど魔法レベルが高いというの!?


「『ウォーターゲート!』」


 とっさの判断で水の壁を作り上げる。そういえばわたくし、天才でしたわね。凡人なら今ので終わりだったでしょう。


 それにしても同じ魔法の撃ち合いで負けるだなんて……ならほとんどの攻撃がレベルの高いものだと思っておいた方が賢明ね。


「みんな……覚悟してちょうだい。あなた達を守って戦う余裕は……正直ないわ」


「わかりました。覚悟を決めます! 行くよ、アマちゃん!」


『えぇ。これはマズそうね』


「自分の身は自分で守るのです!」


「足手まといにならないために……4ヶ月間頑張ったんですから!」


 柚子もユリアンもロマンも一緒に戦う意思を見せてくれた。頼り甲斐のある仲間を手に入れたものね。でもレベル40台の2人は特に危険ね……。不用意に突っ込ませないようにしないと。


「まずは……1匹だ」


【魔弾】が銃を構える。その銃口の先は……ユリアン!


「ユリアン! 避けなさ……」


「遅い。『魔弾』」


 スーパースローで目に映るのは銀色の弾丸がユリアンに向かって飛んで行ったこと。ユリアン……!


「ふっ! 甘いのです!」


「えっ!」


 カキンッ! と音がしたと思ったら弾丸は地面に向かって角度を急変した。


「何……?」


【魔弾】が眉にしわを寄せる。


「修行の成果その1! 『サイクロンアーマー』なのです!」


 よく目をこらして見ると……たしかにユリアンの頭から足元へ向かって風が吹いている……? そんなもので弾丸を防げますの?


「ほう……『魔弾』」


 もう一度ユリアンに向かって発砲する【魔弾】。それでも結果は同じ。弾丸はユリアンの体に当たることなく屈折して地面に向かって進路を変えた。


「……どういうことだ」


 自らの弾丸が防がれる事実に疑問を持つ【魔弾】。当然といえば当然ね。レベル88の【魔弾】が明らかに格下のユリアンに防がれたのだから。


「さっきお前が言っていたのです。優秀な個に有象無象では勝てないと。私たちはニコラさんの教えでこの防御の魔法を最大限に使いこなし、レベルを上げてきたのです!」


 なるほど……やるじゃない、流石ねニコラ。


「面倒なことだ。が、依然俺の敵ではない。『魔弾』で討てぬならそれ以上で殺せばいいだけのこと」


「やってみるがいいのです。ちなみに横のロマンも『サイクロンアーマー』はマスターしているのですよ」


 ユリアン……本当に強くなったわね。


「撃ち抜け……」


「お取り込み中悪いけど、私もいるからね! 『神刀:陽光斬』」


 銃を構える【魔弾】の背後にいつのまにか回り込んでいた柚子がオレンジ色の斬撃を飛ばす。


「チッ。『魔弾』」


 柚子の斬撃にも発砲して対応する【魔弾】。斬撃にめり込んだ弾丸は斬撃を二分させ、ちょうど【魔弾】の立っている場所を避けて通るようになった。攻守ともに優れた魔法……というか魔弾ね。


「さて……厄介なチビは後回しにするとして、お前たちは無防備だな。『魔弾』」


 わたくしと、柚子に向けて1発ずつ弾丸が発射される。もちろんただ甘んじて受けるわたくしではないわよ。


「『ウォーターゲート』」


 水の壁でどこまで防げるか……! ユリアンの風の鎧でもなんとか防げるこの『魔弾』ならと期待したけれど……ちょっと厳しいわね……


 チラと横目で柚子の安否を確認する。アマちゃんの力も借りてなんとか防いでいる最中のようね。


「ミミちゃん……? お力を貸してくれはしないの?」


『ここで私の出る幕はないかな〜。ごめんね〜』


 まったく、ずいぶん軽く雑なことを言ってくれるじゃない。できないことを責めても仕方ないわね。ここはわたくしの力だけで乗り切るしかないわね。


「はあっ!!」


 魔力の流れを認識して力を強める。これで威力が上がるのかはわからないけれど気休めにはなりますわね。


「無駄だ。魔の弾は水ごときでは止めれんぞ」


「ただの水ならね。わたくしの水なら話は別ですわよ」


 その証拠になんとか止めれそうですわ。


「そうか。ならもう1発だ『魔弾』」


「ぐっ!」


 重く……! 水の壁ではもう防げない……! ならば!


「『絢爛の炎:瞬』」


 一瞬の煌びやかな爆発。弾丸だろうが関係なく吹き飛ばしましたわ。沼地の生態系が変わってしまいそうだからできるだけ使いたくなかったけれど……。


「ほう……やるではないか、女」


「それはどうも。あまり使いたい魔法ではないのだけれどね」


「何発だ?」


「……何がかしら?」


「今俺が撃った『魔弾』の数だ。何発撃った?」


 魔弾の数……? 確か……


「6発……かしら?」


 そういうと【魔弾】はニヤリと笑った。


「なら……これで終わりだ」


「ずいぶんな自信じゃない。やってみなさい」


 どのみち危険を感じたら『絢爛の炎:瞬』でどうにかなるでしょうしね。


「バカめ。『魔弾:7発目』」


 ……? 弾丸なんて銃口から出ていないじゃない。


「何? 失敗されたのかしら?」


「あ、アリス様……」


 ロマンが声を震わせてわたくしを呼ぶ。


「どうしたの?」


「む、胸に……」


「えっ!?」


 わたくしの胸を見てみると……弾丸がめり込み、流血していた。それも……大量に。


「ふん。任務完了。さらばだ女。魔王軍に楯突いたこと、後悔しながら逝くがいい」


【魔弾】の去り際の言葉を聞き終わる前に、わたくしは前に倒れた。

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