表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/114

85話 臭い沼地

「うひゃあ……やっぱり臭いよ〜!」


 沼地に入って最初に声を出したのは柚子。もちろん臭いのは確かなのだけれど声にしたらもっと臭く感じるじゃない。


「沼地の奥はさらに臭いらしいのですよ!」


「さっき受付の人が言っていました……」


「これ以上臭く……? 勘弁願いたいわね」


 沼地に奥なんてあったかしら、と思ったけれどどうやら北側にもどんどん広がっているらしいのね。【イリス】から見て【ケークス】は西にあるから……沼地の南端を横切っただけだったのね。


『ここで私の出番だよ〜!』


「うわっ! ビックリした!」


 突然ミミちゃんが声をあげたから柚子がビックリしてしまったじゃない。まったく……


「で、出番って?」


『ふふん♪ モノは試しだよ。神の力、見せてあげる! 『スメルガード』』


「あ! 悪臭がなくなりましたわ!」


『ふふん♪ 私の聖なるオーラでアリスちゃんに降りかかる悪臭をブロックしたのだ♪』


 これはすごいわね……! 五感のうちの1つを失うのだから裏目にでることもありそうだから油断は禁物だけれど、このクエスト攻略には嬉しい効能だわ。


「えー! アリス様だけズルいですよぉ」


「アリス様だけ悪臭がしないのです?」


「羨ましいかもですね」


「も、文句言わないでよ……。困るじゃない」


 せっかくわたくしの神器に入ったミミちゃんの能力なのだからいいでしょう? わたくしは悪くないわよね?


「アマちゃんはこういう系の力ないの?」


『悪いけど私は直接戦闘系ばっかりね。臭いは耐えなさい』


「くぅー! 残念です……」


「その分戦闘になったら期待しているわよ」


 そんな話もしながらどんどん北上していき、沼地の奥へ。柚子やユリアンやロマンによるとますます臭いがキツくなっていっているそう。どれだけ臭くなってもミミちゃんの効果で防げるのは偉大ね。みんなには悪いけれど……。


「ねぇミミちゃん、一瞬だけ『スメルガード』の効果を無くしてくれる?」


『ん? 何で〜?』


「人間にはあるのよ……そう、怖いもの見たさというものがね! 臭いというならあえて一度嗅いでみたいものなのよ」


 それにみんなが味わっている臭さをわたくし1人だけが感じていないのは仲間はずれみたいで嫌ですもの。


『よくわかんないけどいいや。一瞬解除するよ〜』


「えぇ。お願いしますわ……って臭ぁ!?」


 何よこの鼻をつんざくような臭いは! あまりの臭さに品のない声をあげてしまいましたわ……。


「あー、私たちは今まで沼地の臭いを嗅ぎながら歩いていましたけどアリス様は突然ハイレベルな臭いを嗅いでしまいましたからね」


「体が慣れていなかったんだと思います」


「想像しただけで身震いがするのです……」


 な、なるほど……みんなは慣れがあったけれどわたくしだけ突然臭い空間になったからダメージを負ったのね。ミミちゃんが一瞬で『スメルガード』を再使用してくれて助かったわ。あってはならないのだけれどこんな沼地で吐いていたかもしれないわね……。


「よくみんな耐えているわね……ごめんなさいね、1人だけ無臭で」


「そのお気持ちがあれば十分ですよ、アリス様」


「やっと私たちの気持ちがわかったのですね」


「共有は大事ですね」


 ……なんだかみんな少し怒っていません? 気のせいだといいのだけれど……。


 なんとなーくわたくしへの不満を感じつつ歩いて行くと……


「あら、ついに来たわね」


「はい。結構遅かったですね」


「柚子さんがどれだけ強化されたか、楽しみなのです♪」


「今回は私たちは楽させてもらいますね」


 そう、魔獣さんのお出ましよ! 沼地のさらに奥の方にある木に大きな虫が止まっている。あれを魔獣と言わずになんというのかしら。しかも完全にわたくし達の方を向いて威嚇するように口を開いていますわ。


「さぁ、柚子。貴女に任せるわよ」


「お任せください! 絶対にぶった切ってやります!」


 バン! と胸を張る柚子。頼もしいじゃない。でも胸が目立ってわたくし的にはすこし納得がいかないわね。


「行くよ[ムラクモ]……じゃなかった。なんだっけ?」


『[アマノムラクモ]です』


「そうそう、行くよ! [アマノムラクモ]」


 柚子が刀を抜いた瞬間、いつものように紫色のオーラが放出される。それだけではなく……刀身が橙色に光り輝き始めた!


「おぉ! かっこいい!」


 紫色とオレンジ色。一見相性の悪そうな組み合わせだけれど刀を介しているとカッコよく見えるものなのね。


「さぁ、いくよ、アマちゃん!」


『はい。頭に浮かんだ言葉を叫んで刀を振りなさい』


「えっと……『神刀:陽光斬』」


 柚子がそう叫んだ瞬間、刀が橙色に強く輝き、そして刀を振った衝撃で橙色の輝きが魔獣へ向かって飛んで行った。


「おぉ! カッコいいのです!」


「すごい……! これが神様の力!」


 直進する橙色の斬撃は大きな魔獣をスパッと斬り裂いた。ずいぶんあっけなく終わったわね。


「すごい! めちゃくちゃカッコいい!」


『でしょう? ちなみに柚子の技と掛け合わせることもできるから。一緒になって気持ちよくなれるから』


「……なんで言い換えたの?」


 アマちゃんの性格はともかく、実力は本物のようね。ラファエルさんも神の力を使ったら2倍〜3倍ほど強くなったけれど、柚子の魔法と掛け合わせることができたならさらに強くなれるんじゃないかしら。


「さぁ、行きましょうか。もっと奥に行ってより強力そうな魔獣で力を測りたいわ」


「そうですね♪ 早く行きましょう! 臭いですし!」


「賛成なのです! 早くクエスト攻略を始めましょう、臭いのです!」


「それがいいと思います。お花を摘んで帰りましょう。臭いですから」


 ……なんだかみんなわたくしが臭いのを感じていないことに対して厳しくないかしら……。わたくしの気にしすぎ? いやいや、このみんなの無言の圧力は間違いなくミミちゃんの能力を使ってから生まれたものですし……。


「と、とにかく出発よ! あとどれくらいあるのかはわからないけれど……ここから先は魔獣もたくさんいそうだし、ある意味では楽しみね。行くわよ!」


「「「はい!!!」」」


 ……なんだかミミちゃんの力を使わない方が良かった気になるじゃない。解除しようかしら……でも臭すぎて倒れるかもしれないわね、やめておきましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ