84話 ユリアン&ロマンセレクト!
コーン……コーーン……。
穏やかな鐘の音が【ケークス】の街に響く。そのまま寝続けようと思えば寝れる音量だから迷惑だとは思わない。むしろ爽やかな朝を告げてくれるようで心が晴れやかになるわね。
「おはようみんな。朝よ」
「むにゃ……朝……」
「おはようございますなのです! アリス様」
「朝……ですかぁ」
朝から元気なユリアンを除くとまだ柚子とロマンは眠そうね。ユリアンが元気すぎるだけな気もするけれど。
「おはようございます……アリス様」
「おはようございます……」
2人もワンテンポ置いたら意識が覚めたようね。
「さ、朝ごはんを作るわよ。そういえば2人は料理できるようになったの?」
「はい! もうバッチリなのです♪」
「朝ごはんはお任せください!」
あら、頼もしくなったわね。ちょっとだけ寂しくもあるけれど生活面での成長も嬉しいものだわ。ついついこの2人には親のような目線に立ってしまうわね。そこまで歳が離れているわけではないのだけれど。
しばらくすると香ばしい香りが……ユリアンの持つフライパンから香ってくるからベーコンかしら? ロマンの方からは……と推理するまでもなく野菜でしょうね。朝からバランスの良い食事が取れそうだわ。クエストの朝にはもってこいね。
「できたのです!」
「お召し上がりください!」
ユリアンとロマンから朝ごはんを渡される。うんうん、美味しそうだし、2人が揃うとバランスがちょうどよくなるわね。
「美味しい! 2人とも頑張ったんだね〜」
「はいなのです♪ 生活力もニコラさんのおかげで成長できたのです!」
「他にも洗濯やお掃除もできるようになりました!」
えらいえらいと2人の頭を撫でる柚子。ず、ズルい……! わたくしだって撫でて欲しいのに……!
「ま、まぁ頑張ったわね。どんなことも成長した2人は立派よ。今度はわたくし達が見せる番ね、柚子」
「はい! 騎士団でも成長できたし、神器に神様も入ったし、成長というよりもはや進化ですよ!」
『上手いこと言ったわね』
『アマちゃん言葉遊び好きなの〜?』
自分たちの話題が出たからか突然会話に参加してきたミミちゃん&アマちゃん。本当に自由ね……。
「それで、今日はどんなクエストに行くんですか?」
「もう決めているのです?」
「まだよ。あなた達の方がクエストには詳しいでしょう? あなた達がちょうどいいクエストを決めてちょうだい」
わたくしと柚子が騎士団で修行をしている間にユリアンとロマンはたくさんのクエストをこなしてきたはず。わたくしたちが勝手に決めるより良いクエストを選べるはずだわ。
「私たちがなのです?」
「そうであったらお任せください♪」
わたくしが勝手に選ぶものだと思っていたのか2人とも驚いている。まったく失礼な……わたくしだって人に頼ったりしますわよ。
「早く行きましょうよアリス様! アマちゃんの力が楽しみでうずうずします!」
文字通りうずうずしているわね。朝ごはんも食べたことだし、行きましょうか。
「じゃあ行きましょうか。【ケークス】冒険者組合へ。クエストを選ぶわよ?」
「「「はい!!!」」」
綺麗な宿に可愛い声が3つこだまする。
宿を出て冒険者組合に向かうまでに何曲か落ち着いた音楽を聴くことができた。街の雰囲気が曲で決まりますわね。
「改めていい街ですね〜。音楽が心地いいです」
『でしょ〜? この雰囲気がいいから私たちはここを居住地にしたの〜』
『雰囲気だけで選んだわけじゃないでしょうに……』
でも一因にはなっているのね。意外と人間臭いところがあるのね……。
冒険者組合に着くとすぐにクエストが掲示されたボードの前へ。
「さ、お願いするわね」
「「はい♪」」
ユリアンとロマンはどんなクエストを選ぶのかしら。一歩後ろに下がって見守りましょうか。
「柚子はどんなクエストを選ぶと思う?」
「そうですね……魔獣の討伐なのは間違いないと思います!」
「そうよね。殲滅力を見るために複数体を討伐するクエストを選ぶのか、それとも一撃の力の向上を見るために単体の魔獣を討伐するクエストを選ぶのか。どちらかしらね」
ユリアンやロマンが選ぶクエスト……どちらかしらとは言ったけれど想像がつかないわね。
「選んできたのです〜〜!」
「お待たせしました!」
来た来た。さぁ、どんなクエストを選んだのかしら?
「これなのです! 『伝説の花収集クエスト』なのです!」
「今のアリス様たちにぴったりだと思います♪」
「「え、ええっ!?」」
柚子もわたくしも驚きの声をあげる。だって……予想していた、というよりも確信していた魔獣討伐のクエストではなかったから。神器に神様を入れた翌日に呑気にお花摘みに出かけますの!?
「そんなに驚かれるとは思っていなかったのです……」
「お気に召しませんでした?」
「い、いや……力を確かめるクエストでお花摘みって……」
わたくしが思ったことを正直に伝えると……
「あぁ、たしかにそう思うのですね。でもアリス様……クエストというのは奥深いのです!」
「見てください、お花摘みだけなのに報酬金が100万円です。つまり……このお花が咲いている周辺に強力な魔獣がたくさんいるということなんですよ!」
なるほど……そういう発想はなかったわね。たくさんのクエストをこなしてきたユリアンとロマンだからこそこれがぴったりだとわかったのね。
「なるほどね。納得したわ。柚子、案外一筋縄ではいかないクエストになるかもしれないわよ? ミミちゃんとアマちゃんの力を試すにはもってこいな魔獣が出てくるかもしれないわね」
「なるほど……その時はよろしくね、アマちゃん」
『まぁ……いいでしょう。私の力を使うからには必勝ですよ?』
「わかってるって♪」
『あと勝ったら胸揉ませて』
「それはダメ!」
……何をコントみたいなことをしているのかしら。アマちゃんは冷静でわたくしに近いタイプだと思っていたのだけれど、煩悩丸出しのダメ神なのね。
「ミミちゃんもお願いしますわ」
『はいはーい。任せといて〜』
こっちは軽いわね……。まぁ何はともあれ条件はととのったわ。
「さぁ、クエストに出発よ! 目的地は?」
「このお花は沼地に咲く神秘の花と言われています。沼地の奥に向かいましょう!」
「了解よ。さぁ、行くわよ!」
「「「はい!!!」」」
わたくし達は歩を踏み出す。そこに【魔弾】の触手が伸びてきていることに気がつかないまま……。




