82話 アマちゃんです!
次の瞬間、意識が自分の身体に戻った。
『これからよろしくね〜アリスちゃん♪』
「えぇ。よろしく、ミミちゃんさん」
不思議と服から声がした。なんだか慣れるのに時間がかかりそうですわね。
「柚子……はまだ向こうにいるみたいね」
まだ柚子は意識が戻ってきていない様子。質問に答えるのに悩んでいるのかしら?
『ねぇねぇ、この子には誰が入ったの? アマちゃん?』
『そうだ。お前はその者について行くのだな』
『やかましい奴が減ってせいせいする』
『じゃ〜ね〜』
『もう! 薄情な神ばっかりなんだから』
なんかあんまり好かれていない神様がわたくしの服に入ったのね……。大丈夫かしら……。
それから約20分……まだ柚子の意識は帰ってこない。
「ちょっと、大丈夫なの? かなり長くないかしら」
『入ったのがアマちゃんだからね〜。悪いけどあの黒髪の子は失格かもね〜』
「……そのアマちゃんさんとやらはそんなに曲者ですの?」
『そだね〜。変わり者だけど人は好きだよ? でも審査はしっかりするだろうね。人が好きだからこそより良い人を求めているんだ〜』
まるで白馬の王子さまを待つ乙女みたいね。柚子は王子さまのようにカッコいい一面があるからピッタリだと思うけれど。
それから数十分……まだ柚子の意識は戻ってこない。いったい何が起こっているというの……柚子……!
真っ暗なホワホワした空間。目の前に浮かぶのはオレンジ色の玉? のようなもの。私はそれに今……質問ぜめを受けている。
「さぁ質問ですよ。世界が終わる日には何をします?」
「アリス様に想いを伝えて一緒に過ごします」
「その恋が成就しなかったら?」
「諦めて一人で過ごします」
「潔いのね」
なんでしょう……思ったよりフランクというか、友達のように接してくれるんですね。
「はい次〜。そのおっぱいの秘訣は?」
「べ、別に……生きていたらいつのまにかこうなっただけで……」
「ほうほう天然物か〜」
時折セクハラでしょ! って質問が飛んでくるんだけど……神様のご機嫌を損ねるわけにはいかないしなぁ。あと神様にセクハラって概念あるのかな?
「……1回揉ませてくんない?」
「そ、それはダメ! それはダメです!」
「えぇ〜! いいじゃない! 減るもんじゃないし……」
「こ、この胸はアリス様のために育てた胸なんです! 他の方に揉ませるわけにはいきません」
我ながら真剣に何を言っているんでしょう……。恥ずかしくなってきた……。
「一途ね〜。嫌いじゃないわよ」
「そ、それはどうも……」
「それでは最後の質問としようかな」
「は、はい!」
最後の質問……。今までの質問って必要だったのかな……って思うけど。いったい何で見極めるつもりだったんだろう……。
「あなたとその大切な人……アリスさんだっけ? その内の片方が死なないといけません。さぁ、あなたはどっちが死ぬべきだと思いますか?」
「なっ……!」
ここへきて真面目な重い質問……。それも命に関わる質問内容ですか。でもまぁ、答えは一択ですね。
「もしそうなったら私が死にます。死ぬべきです」
「……それはどうして? どうして自分の命を落とすの?」
「アリス様はこの世が生み出された宝物です。あの方を死なせて私が生き残ることなど許されるはずがありません」
「ふぅん……」
でも……
「でも……アリス様はきっと私が死んで、問題を解決なされたらすぐに私の元へと来られると思います。アリス様は……私がいないとダメダメですからね」
ちょっと失礼なことだけど、アリス様には私が必要だと自負している。きっと一人で生きていく選択はなされないんじゃないかな。
「……自分たちの気がついていないところで共依存しているのね。貴女が真実を知った時、今の貴女は耐えられるかしら?」
「えっ?」
何を……言ってるんだろう。共依存? 真実?
「……まぁ悪くはないかな。よし、貴女のその刀の中に入ってあげましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
良かった〜。質問内容が意味わからなくて良いのか悪いのかもわからかったから不安だったんですよね〜。
「ほら、その刀を抜いて私へ突き刺してみなさい」
「え、えぇ!? 大丈夫なんですか?」
「安心なさい。これは私の魔力の結晶だから。そこに貴女の刀を突き刺せば契約は完了よ」
「じゃ、じゃあ……失礼します。行くよ、[ムラクモ]」
紫色のオーラを全開にして[ムラクモ]を抜く。この刀を抜く瞬間が最高に異世界の冒険者していて好きです!
「えいっ!」
[ムラクモ]をオレンジ色の玉に突き刺す! するとどんどんオレンジ色のオーラが[ムラクモ]に浸透していった。
「これで貴女の刀は[ムラクモ]ではなく、[アマノムラクモ]へと昇華しました。おめでとう」
「ど、どうも……」
まだ実感わかないな〜。そうだ! アリス様に次はクエストに行くようにお願いしましょう! そうすればどれくらい強くなったのかわかりますしね。ナイスアイデアです!
……ハッ!
次の瞬間、意識が肉体に戻っていた。
「柚子!」
「あ、アリス様……?」
今にも泣きそうな顔をされているアリス様。どうされたのでしょう……まさかアリス様の方は失敗された? でもアリス様の辞書に失敗という文字はないでしょうし……。
「大丈夫なの!? わたくしが戻ってきてから2時間も意識を失っていたんだから!」
「え、えぇ!? そんなに時間かかってました!?」
『アマちゃん、ずいぶん話し込みましたねぇ〜』
『ミミ……貴女も契約したのね?』
ひえっ! 服と刀が話してる……。なんかホラーですね……。シュールだけど。
「何はともあれ、ついに私たちにも神様が入りましたね、アリス様!」
「まったく……何時間も意識が飛んでいたのに元気ね、柚子は」
アリス様が安心半分、呆れ半分くらいの笑顔を見せられる。元気と明るさが取り柄ですからね! ドヤァ!
さぁ……私の異世界ライフ、この神様入りの神器でバンバン無双しちゃいますよ!




