表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/114

79話 沼地で恋バナですわよ

 沼地に本格的に足を踏み入れると地面がヌルッとすべる感触がある。なんというか気持ち悪いわね……。不快感が強いわ。


「みんな滑らないようにね。服が汚れてしまうわよ」


「「「はーい」」」


 ……なんか3人同時に返事をすると遠足に来たみたいですわね。わたくしが引率の先生かしら?


「クッキョー!!」


「うわぁ!? 気持ち悪!」


 ほっこりしていたのに突然魔獣が出てきたわね。ヒルのような魔獣……。見た目だけなら【魔導士】が好んで使いそうな魔獣ね。


「ユリアン、ロマン。任せたわよ」


「はい! お任せあれなのです!」


「私たちの力、お見せします!」


 あら、ずいぶん頼もしいじゃない。マグマ蜘蛛のクエストで終始不安そうな顔をしていた頃に比べてかなり自信もつけたようね。


「ユリアン、行くよ!」


「オッケーなのです、ロマン!」


 お互いに声を掛け合って連携を確かめる。


「「『忍法:隠業』」」


 スッと2人の姿が消え去った! ……なるほど、わたくしと戦った時に使った魔法はこれね。


 ヒルのような魔獣はそれほど大きくない……という感想が生まれるのは【魔導士】の魔獣と戦っていたかしら? まぁ全長3メートル程度。ちょうど気持ち悪いくらいのサイズですわね。さて、ユリアンとロマンはこれをどう攻略するのかしら?


「『忍法:乱斬り』」


 まず飛び出したのはロマン。やっぱりユリアンからロマンという戦法から、ロマンからユリアンという戦法に変えているわね。わたくしもまんまと引っかかったわ。


「クイ!?」


 突然現れたロマンに驚きつつもすぐに首を引いて回避する魔獣。やるわね。でも……


「『忍法:交差手裏剣』」


 ユリアンが引いた頭を狙って二本の手裏剣を投げつける。ちょうど当たるタイミングで交差した手裏剣は魔獣の後頭部を切り裂いた。


「クイッー!!」


 発狂する魔獣。うにゅうにゅと動くものだから気持ち悪さが5割り増しですわね。

 ふと横を見ると柚子がヒルの気持ち悪さに震えていた。はぁ……まったく。手でも繋いであげましょうか。


「あ、アリス様!?」


「特別よ?」


 というのは大義名分。本当は手を繋げて普通に嬉しいですわ。ナイスな気持ち悪さよ、魔獣さん。……あっ♡ 柚子の手柔らかい! これから何か理由をつけて定期的に手を繋ぐことにしましょう。あまりに幸せだわ。幸せホルモンが頭で分泌されているのがわかりますもの。


「やあぁっ! 『忍法:辻斬り』」


 脳天めがけてロマンが短剣を突き刺す。勝敗は決したようね。


「クキッ……オォ……」


 情けない声とともに絶命した魔獣。最後にブリンブリン動いて柚子の握る手が強くなった。ナイスよ……!


「やったー! 大勝利なのです♪」


「やったね、ユリアン」


 ハイタッチして喜ぶ2人。うんうん、このレベル……まぁ測っていないのだけれど、おそらくレベル30前後の魔獣にも余裕で勝てるようになったわね。


「さぁ、先へ進みましょうか。次は柚子とユリアンが先頭へ、わたくしとロマンが後から続くことにしましょう」


「……なぜですか?」


 柚子から意図を問う質問が。やっぱりとっさのことにはすぐ気がつくわね。


「わたくし達はユリアンとロマン、わたくしと柚子の2・2で戦っているわけじゃないの。4人で戦うのよ。だから次は相互の連携を深めようと思ってね」


「なるほど! 流石はアリス様です」


「ふふ……よしなさいこんなことで」


 ……そう、本当は違うのよ。ただ一つ確かめなければいけないことがあるの……。そのためのフォーメーションですわ。


 というわけでわたくしの指示通り柚子とユリアンが先頭に。そこから30メートルほど距離を置いてわたくしとロマンが追う形になった。


「……アリス様、あのことの確認ですか?」


「そうよ。鋭いわね、ロマン」


 あのことの確認……とはもちろん、わたくしがユリアンにロマンへの気持ちを聞き、ロマンが柚子にわたくしへの気持ちを聞くという取引のこと。


「その前に……確認しておくことがありますよね?」


「そうね……お互い、この4ヶ月でどこまで進んだのかよ」


 4ヶ月という期間でユリアンとロマンは成長を見せた。……つまり、そっちの方面でも成長した可能性は十分にあるということよ。なんならわたくしより先に大人の女性になっている可能性だって……。


「……アリス様はどうだったのですか?」


「わたくしは……膝枕してもらったわよ」


 なんとも恥ずかしい4ヶ月の成果ですわね……。天才であるわたくしをもってしてもこの程度の成果しか得られなかっただなんて……恥ですわ。


「……そういうロマンはどうだったの?」


「私? 私はですねぇ……」


 な、何よ……このロマンから溢れる大人の余裕は! まさか……超えたというの!? 大人への一線を! わたくしより先に!


「眠っているユリアンのほっぺにチューしてしまいましたぁ!」


 恥ずかしそうに頬を染めて言うロマン。……そういうところはまだお子ちゃまで良かったわ。最近の子は早いというけれど……安心しましたわ。


「ということは……まだ真相にはたどり着いていないわけよね?」


「はい。そういうアリス様も……」


 そう、要約するなら2人ともこの4ヶ月の間で特に先へは進めていなかった。ということになりますわね。情けない話だけれど……。


「では取引はまだ有効ということね。【ケークス】の地で時間を見つけてわたくしとユリアン、柚子とロマンになれる時間を見つけますわ」


「はい。お願いしますね」


 ……ただ、柚子のわたくしへの気持ちは騎士団である程度聞いてしまっていますわね。あれから4ヶ月経ったのだから心情に変化が起こっている可能性もあるけれど……。


「アリス様ー! ロマンちゃーん! 遅いですよ!」


 気がついたらユリアンと柚子は100メートルくらい先にいた。話し込んでいて歩くのを忘れていたわね。


「今行くわー!」


 こうなると……【ケークス】の街がさらに楽しみになってきましたわね。ニコラの話によると【ケークス】は神と音楽の街……なかなか良いムードになるための条件が揃っているとは思いません?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ