77話 久しぶりの島ですわよ
「では明日の予定も決まったことですし、帰りましょうか、柚子」
「はい!」
4ヶ月ぶりの【アトロン島】ね。といっても誰かがたどり着けるようなところではないかは特に変化はないでしょうけど。草で作ったベットは少し劣化しているかもしれないわね。
「じゃあユリアン、ロマン。明日は9時ごろ迎えに行くわ。また明日」
「はい! また明日なのです!」
「お休みなさい。アリス様、柚子さん」
挨拶をしたところで飛翔! この空からの景色も懐かしいわね。
チラと【エクトル】の方角へ視線を送る。見えるわけではないけれど、今も戦闘は続いているのよね。きっとルカさんとエデンさんを中心に奮闘していることでしょう。そういえば最後までエデンさんの本気は目にしていないわね……。
「アリス様? どうされましたか?」
「なんでもないわよ。少し……騎士団のことを思い出していただけですわ」
今日の朝まで所属していたというのに、なぜだか懐かしい気分になるわね。
「変な話ですけど、なんだか懐かしいですよね〜」
どうやら柚子も同じ気持ちだったみたいね。同じ気持ちを共有できているのは嬉しいわ。
「そうね。でもきっとすぐに会えるわよ。じゃあ行きますわよ?」
「はい♪」
柚子を抱えたまま加速! そういえば飛翔もかなり速く飛べるようになったわね。これなら十数分もかからずに島に着くんじゃないかしら?
その予想はどうやら的中したようで9分くらい飛んだところで島が見えてきた。うんうん、わたくしもまだまだ成長できるということね。
そのまま島に降り立つ。
「ん〜! 久しぶりの【アトロン島】……ってこんなでしたっけ?」
別段変わった様子はない……気がしますわね。ただ何かしら……ほんの少し感じるこの違和感は。
「4ヶ月も経つとイメージの中の【アトロン島】と少しズレが生じるのかもしれないわね」
「そう……ですかね? そうかもしれないです」
さて、夜ご飯の準備を始めましょうか。ここのところ食堂に頼りがちだったからなんだか面倒に感じるわね。ダメよアリス、そんなでは立派な大人になれなくてよ?
「『ストレージボックス』」
さて中身は……しまったわね。【イリス】の街で少しお買い物をしてから島に帰ればよかったわ。
「まぁあるものでなんとかしますか。柚子、今日の夜は野菜炒めとベーコンエッグよ」
「はーい♪ 楽しみです」
……あら? いつのまにかわたくしが作る流れになっていません? まぁいいのだけれど……。
久しぶりに登場したフライパンに油を少し垂らして野菜を炒めていく。少しのブランクでは衰えを見せないあたり流石わたくしね。天才だわ。
ロマンセレクトの野菜をここで使い尽くし、明日もしロマンに「あの野菜はどうでした?」と聞かれても大丈夫な状況を作っておく。ロマンは怒らせるとたぶん1番怖いですからね……。
「はい、できましたわよ」
「わーい♪ いただきます」
笑顔で手を合わせる柚子。うん、可愛いわね。騎士団にいる間ずっと同じベットで寝ていたのだから一線くらい超えられるかと思っていたけれど……そんなことなかったわね。わたくしが勇気を出してもう少し攻めた行動が取れたなら……と後悔するけれどもう遅い。次の【ケークス】の街でリベンジとしましょう。
「終わってみればあっという間の4ヶ月間でしたね。3席にまでなられるなんて、流石です、アリス様」
「そうね……3席は確かに素晴らしい功績だわ。ラファエルさんはとんでもなく強かったですし」
神器に神が入るととんでもないことになるとも学べましたしね。柚子の[ムラクモ]にも神が入ったのならどうなるのかしら。そしてわたくしのこの[令嬢の服]もさりげなく神器ですからね。神が入る可能性はあるわ。
「予定通り情報もたくさん得たし、魔王軍幹部も残り【魔蟲】と【魔弾】のみ。大きな成果だわ」
騎士団在籍中に【魔龍】、【魔導士】を倒し、【魔女】が敵でないと確定した今、残る魔王軍幹部は2体。でも……
「でも……この2体が強力なんですよね?」
そう……わたくし達が【白百合騎士団】の幹部になって得た情報の中にあったのは魔王軍幹部の中でも序列があること。その1位に座するのが【魔弾】で3位が【魔蟲】。つまりかなりの強敵が残っているということよ。ちなみに2位は【魔女】のルカさんね。
「そうね。これまでにない激闘が待っているでしょうね。といっても、エデンさんやルカさんが倒してしまうかもしれないけれど」
【魔龍】、【魔導士】と指揮官を2度も失った魔王軍が次に誰をA地区での指揮官に置くかはわからない。でも幹部がつく可能性は極めて高いですわ。となると常に最前線にいるエデンさんたちが倒すという可能性は高くなりますわね。
「それならそれがいいですね〜。もうしばらく幹部とは戦いたくないです」
「……同感よ」
魔王軍幹部はあまりに強い。それに性格が濃くて相手にするのは正直疲れますわ。
「でも……これからはユリアンやロマンを守りながらの戦いが強いられるわけではないわ。むしろ彼女たちももう立派な戦力よ。わたくし達が楽できるかもしれないわよ?」
「ふふ……そうかもしれないですね。まさかあんなに急激に強くなるなんてな〜。妹っぽかったのに追い抜かれて姉になったみたいです」
たしかに。少しだけ伸びた背や自信溢れる瞳からも成長を感じたわね。
「いつか私の背やレベルも追い抜かれちゃうんですかね?」
「どうかしらね。あの2人がエデンさんほどの才能を持っているのならいつの日か超えてくるかもしれないわね。柚子も頑張りなさい」
「はーい」
でもあの2人に追い抜かれることはまんざらでもないのか、柚子の表情は嫌そうではなかった。むしろ応援するような表情ね。
「さて、久しぶりの水浴びをして寝ましょうか」
「はーい!」
水浴びをして、草のベットへ。やっぱり少し減ってる……というか色も変わっているわね。まぁ眠れるからいいでしょう。
「じゃあおやすみなさい、アリス様」
「えぇ。おやすみ。いい夜を」
……これでわたくしの思い描く戦力は整った。正直期待以上の成長をしてくれたわ。だから……絶対に倒すわよ、魔王!




