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74話 怒りの剣

「なん……だと……」


 白い【魔導士】の身体から吹き出る紅い血。【魔女】……いや、ルカさんが貫いたのは【魔導士】の腹だった。


「どういう……まさか……」


「……ルカ?」


 エデンさんの目に、わずかながら生気が宿る。薄い希望。それにしがみついている状況ね……。


「敵を騙すにはまずは味方から……とはよく言ったものよね、エデン。それにしても騙されすぎ。もう少し私のことを信用してくれていると思ったのになぁ」


 優しく微笑んでエデンさんのおでこをピシッと叩くルカさん。なるほどね、いっぱい食わされたということね。


「アリスさんは早く柚子さんの方へ。私はエデンと【魔導士】を倒します」


「えぇ。お願いするわね」


「貴様ぁ! どういうつもりだ!」


「私は確かに二重スパイのフリをする任務があった。でもね……エデンに惚れちゃったのよ。なら仕方がないでしょう?」


 歯が浮くほど甘い言葉を聞き終えて柚子の元へ。お願い……無事でいて、柚子!


 よく見ると大きなクラゲ型の魔獣がそこにいる。柚子は……はっ! 触手に捕獲されて……


「許さないわよ……『ライトニング』」


「ギャオン!!」


 雷で触手を破壊する。飛翔しながら柚子をキャッチし安全な場所へ。


「柚子、柚子!」


 肩を揺らして意識を確認する。幸い息はあるわね……よかったわ。


「ん……アリス様……」


「柚子! 良かった……」


 貴女がいなくなったらわたくし……これから生きていく希望が無かったわよ。


「アリス様……申し訳ありません。勝てませんでした……あの魔獣にすら……」


「いいのよ。生きていてくれただけで嬉しいわ。あとは……貴女の主人の戦いをここで見ていなさい」


「はい……お願いします、アリス様」


 さぁ……今の言葉で元気100倍よ!


「≪スキャン≫」


 クラゲ型の魔獣に対してスキャンをかける。柚子を倒すほどの力を持っている……情報はより多い方がいいに決まっていますわ。


≪グローサークヴァレLv61≫


 レベル61……それこそ魔王軍幹部に匹敵するレベルの魔獣じゃない! それと【魔導士】を同時に相手して……生きていてくれて良かったわ、柚子。貴女は本当に立派よ。


「さぁ……その立派な使用人をさらに立たせられるほどの力、見せてやるわよ」


 危険なのはあの触手ね。絡め取られたら最後、持って行かれること間違いなしだわ。おそらく【魔導士】もそれを目的に作ったのでしょうし。


「ならこれがピッタリね。『ストレージボックス』」


 取り出したのは漆黒の大剣。もはや語るまでもない、何気にわたくしの役に立っているアイテムNo.1ですわ。


「『ライトニング!』」


 もちろん大剣を雷で強化することも忘れない。わたくし、天才な上に用意周到な完ぺき人間ですのよ?


「さぁ……この怒りを100%ぶつけるわよ。覚悟はいいわね、魔獣」


 クールに見せているけれど……柚子を傷つけたこと、絶対に許さないわ。楽に死ねると思わないことね。


「はあっ!」


 雷を纏う大剣をクラゲ型の魔獣、グローサークヴァレに向ける。


「ギャシュ……! ジーーク!」


 それは雄叫びかしら? どちらにせよ開戦は決まったようね。飛翔しながら……


「せやっ!」


 雷でブーストをかけつつグローサークヴァレを切り裂く。なんとか上手くいったわね。奇襲としては満点。触手を一本取れたわ。


「ジュル……? ジィィ!」


 ようやく触手を一本斬られたことに気がついたようね。大きくなった分だけ鈍くなっているようで助かったわ。


「ジーーク!」


 一本斬ったとはいえ、残った触手はまだ数十本もある。全部斬るのは現実的ではないわね。今のも奇襲だから上手く斬れただけでしょうし。

 グローサークヴァレは残った触手を広げ、あきらかにわたくしを威嚇してきた。それどころか、もはやこれは攻撃の準備と見ていいでしょうね。


「来なさい。その無礼な触手で本気で怒ったわたくしを倒せると思っているのなら、勘違いだということを教えてあげるわ」


「ジュアァァァ!」


 巨大な触手の叩きつけ! そんな大振りでは当たらないわよ!


「『飛翔』」


 小回りが利くわたくしの飛翔なら楽々避けられますわね。


「ジッ、アー!」


「……へぇ。なかなか考えるじゃない」


 触手を左右縦に並べるグローサークヴァレ。隙間なく並べた触手をこれからどうするか検討はつく。このままわたくしを叩き潰すつもりね。


「いいわ。できるかやってみなさい。どうせパワーで押すしか脳がないのでしょう? それならあえてパワーで上回ってあなたに絶望をプレゼントしてあげますわ」


「ジィィィーク!」


 左右に広がっていた触手が一斉にわたくしに向かって進行を始める。もちろんもう避けても間に合わないわ。だからわたくしは思いっきり剣に力を注ぐ。雷の魔法、『ライトニング』をそれこそ大剣が壊れてしまうのではと心配になるレベルにまで注ぎ込む。もはや漆黒の色すら消え、輝きのみが残った大剣に姿を変える。さぁ……準備完了ね。


「『雷剣:一刀飛斬』」


 眩く輝く雷を斬撃に乗せて飛ばす! 最大に雷を纏わせておいたから360度回転しても雷の威力が衰えることはなかったわ。


「ジィァァァァァ!」


 グローサークヴァレの絶叫から察するに、すべての触手を斬り裂けたようね。さぁ……丸裸になったあなたを倒すのは難しいことではないわよ?


「あなたはわたくしを怒らせた。その怒りをこの一撃に込めるわね。恨むのなら柚子を傷つけた自分の触手を恨みなさい。といっても、もう一本も残っていないのだけれどね」


 さて、終わらせましょうか。早く【魔導士】がどうなったかも知りたいですし。


「終わりよ。『絢爛の炎』」


 瞬ではなく、本来の絢爛の炎をグローサークヴァレにぶつける。これはわたくしの怒りの証。柚子を巻き込まないように少し威力を落とさないといけないのがスッキリしないけれど仕方がないわね。でも……


「完全消滅。わたくしの勝ちね。あの世で柚子に詫びなさい」


 グローサークヴァレはA地区から姿を消した。残っていたのは……ほんの少しの水だけ。哀れなものね。

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