69話 vsラファエルさんですわよ
「……どうやら見くびっていたようだ。単純な強さは耳にしていたが……センスもあるとはな」
「当然ですわ。わたくし、天才なのよ」
自尊の言葉にもラファエルさんは眉ひとつ動かさない。落ち着いているわね。流石3席といったところかしら? メルトさんなら今の言葉に突っかかってくれて、わたくしのペースに楽々と持っていけたのだけれど。
「こちらも最初から全力でいかせてもらおう。目覚めろ[カグツチ]」
その言葉に応えるように赤い剣は炎を放射。龍のように剣にまとわりついて熱を発する。
「……神器には神が入ることができる。そのことは知っているか?」
「えぇ。一度耳にしたわよ」
柚子が[ムラクモ]を受け取るときに、【アイン】の冒険者用具を取り扱うお店の主人、ライカさんがそう言っていたのを覚えていますわ。
「そうか。なら……『炎龍翔!』」
炎の龍が剣から放出され、わたくしの方へ向かってくる。とんでもない威力だけれど、これくらいなら……
「『ウォーターゲート』」
水の壁でなんとか防げますわね。防御魔法は攻撃魔法と違って手加減が必要ないから楽ですわ。
炎の龍は水の壁に飲み込まれ、消える。
「それで? 神が入ることがどう関係しますの?」
「……こういうことだ。起きろ[ヒノカグツチ]」
「なっ!」
炎の勢いが先ほどの2倍……いや3倍以上!? 比べ物にならないほど大きな勢力を持っていますわ!
「神が入るとこういうことができるんだ。これが神器の正しい使い方にして、正しい強さだ。さぁ……受け切れるかな?」
これはマズイわね……炎の勢いだけなら【魔龍】すら比じゃないほど大きいわよ……。
「驚いたか? 当然の反応とも言えるな」
とんでもないわね。『ストレージボックス』で吸収するにはあまりにもリスクがある。まだ破られたことはないけれどこの勢いのある炎に使うのは躊躇われるわね。となると……
「さぁ……ここで終幕としよう。『炎龍翔』」
ゴォォォオオオオッ! と炎の龍が咆哮しているような音ともに爆炎が渦巻いてわたくしに襲いかかってくる。『絢爛の炎』を受ける相手はこんな気持ちなのね……でも、諦めるわけにはいかないわ。
「『ウォーターゲート』」
同じ魔法で防いでやるわよ!
「ふっ。そんな矮小な水の壁で……防げるものと思うなよ!」
炎の龍が水に飲まれる。しかし……先ほどのように消えることはなく、威力をそのままに水の壁をぶち破ってきた。
「くっ!」
わたくしの魔法が破られた……!
そのままわたくしは炎の龍を甘んじて受け入れる。そうする他に行動が取れなかったとも言えるけれどね。
「……こんなものだ。もっと鍛錬を積むことだ。でなければこの騎士団の3席に……秘密を知るのに値しない」
そう言い残し、試合室から去ろうとするラファエルさん。あら……?
「試合は終わったのかしら?」
「……何?」
わたくしにまとわりつく炎は……完全に鎮火されている。さぁ、まだまだやれますわよ?
「どういうことだ」
「一体どこでそうなったのかは知らないけれど……わたくしのこの服は神器なのよ。ある程度の汚れ、攻撃を防ぐことができるの。『ウォーターゲート』で弱めることができたのならこれで十分防げると踏んでいたのよ」
まぁでも結構危ない賭けでしたわね。今後はもっと安全に行くようにしましょう。今のやり方はわたくしらしくありませんわ。
「なるほど、こちらも一筋縄ではいかないわけか。訂正しよう。鍛錬を積んでいるものとわかった。ここからは敬意を持って戦闘を続けさせてもらおう」
さて……わたくしもそろそろ攻撃に移っていいかしらね? 今のところラファエルさんに好き勝手にやらせているけれど、これ以上の引き出しが無かったり神器に頼り切った戦闘をするのなら参考にならないからもういいわ。
「えぇ。こちらも……そろそろ戦いに入らせていただきますわ」
「……どういう」
こういうことよ!
「『ダークネス:竜巻』」
闇の渦を目の前に召喚、その直後に分散させて4つの黒い竜巻を発生させる。
ニコラの『サイクロン』とわたくしの『ダークネス』を掛け合わして生み出した魔法ですわ。
「なっ!」
「さぁ、どうするのかしら? はぁっ!」
わたくしの叫びとともに動き出す闇の竜巻たち。ラファエルさんは驚愕の顔から一瞬で真顔に戻り、次の行動に出る。
「『炎斬』」
炎を纏った剣で闇の渦を切り裂こうと試みるけれど……わたくしもかなり力を込めた魔法よ? そう簡単に破れるものではないわ。
「くっ……うあっ!?」
竜巻に呑まれるラファエルさん。さぁ……どう攻略してくるかしら?
「[ヒノカグツチ]、『炎舞』」
闇の竜巻の内部の様子が見えるほど明るく輝き、中から燃え盛る炎が生み出された。竜巻は徐々に炎にかき消され始める。
「ふっ……乗り越えたぞ!」
勝ち誇った顔のラファエルさん。そうね……この方はとんでもなく強い。それは間違いないわ。剣術も、神器も、相当な脅威になるでしょう。ただ……それだけよ。わたくしにとってそれ以上でもそれ以下でもない。つまり……価値がないわ。
「はぁ。残念ね」
「仕留めきれなかったことが残念か? 別の意味も含んでいるように聞こえたが」
「えぇ。後者ですわ」
これ以上この方と戦っていても意味がないと確信しましたわ。さて……決めさせてもらうわよ。この3ヶ月の間で培ったものをここで見せてあげるわ。
「そうか……私に対して残念だと言うのなら……無礼千万! 私の力、見せてくれる!」
「来なさい。最後に見ておいてあげるわ」
「[ヒノカグツチ]『一刀焔』」
赤い刀身が2倍以上伸び、単純にリーチが長くなる。そして……力も増幅している感じね。
「この剣を……受けてみろ!」
わたくしに向かって思いっきり振るラファエルさん。その顔は自信満々。負けるはずがないと信じきっている顔。
「……受けるまでもないわよ。『絢爛の炎:瞬』」
「なっ……!」
驚かせる余裕すら与えない。一瞬だけの『絢爛の炎』の出現。ほんの一瞬、一コマにだけ放出された荘厳な炎は伸びた剣すら試合室の端へと吹き飛ばした。これがわたくしの成功させた『絢爛の炎』の手加減バージョンよ。
「……まだ続けるかしら?」
ほんの一瞬前まで自信に溢れた顔をしていたラファエルさんはもうそこにはいなかった。そこにいたのはただの……敗北した少女だった。




