6話 クエストですわよ
「クエストはあちらのクエストボードに貼られた紙から選んでお持ちください!」
今日も昨日と同じ受付の女性ですけど明らかに声が震えているわね。昨日あれだけ派手に動いたらそうなるのも無理はないわね……これからはもう少し慎重に動きましょう。
「うわぁ〜! たくさんクエストがありますよ!アリス様!」
「そうね……どれが一番報酬金が高いのかしら」
「うーーん、この3つじゃないですか?【大蛇退治】【宝石採掘】【幻の薬草】」
ふむ……わかりやすいのは大蛇退治ね。安全そうなのは宝石と薬草かしら。まぁLv100のわたくしが安全を取る必要はないわね。
「【大蛇退治】に行きましょう。いいわね?」
「はい! もちろん!」
柚子は目をキラキラさせている。そんなに蛇が好きなのかしら……。
クエストの紙を持って受付に持っていくと目をまん丸にされた。
「こ、これはクエスト難易度Aの激ムズクエストですよ?」
「でも報酬金は一番高いのでしょう?」
「そ、それはそうですが……推奨レベルは20からで、それもLv20以上が最低4人いるという条件での話です。【アイン】管轄外なので助っ人も中々駆けつけませんし……。お二人で行かれるんですよね…?」
「えぇ。そうよ?」
まぁこのやり取りは仕方のないことですわね。Lvを偽装したわたくしに責任がありますわ。
「わ、わかりました……くれぐれも気をつけてくださいね?」
「えぇ。ありがとう」
詳細が記載された紙を受け取って組合を出る。なになに……南東の森に現れる大蛇の討伐依頼。大蛇の推定Lvは35……ふぅん。かなり強い方ですわね。
「さ、向かいましょうか」
「待ってください! アリス様!」
柚子が大声で呼び止めてくる。
「どうしたの?」
「こういう時はまずショップからですよ! アイテムを揃えてから行きましょう?」
「ショップといっても……お金がないからクエストを受けてるんじゃない。無一文で何を買うというの?」
「それは……まぁなんとかなりますって!」
やけに目をキラキラさせている柚子。そんなにこの状況が楽しいのかしら。日本にいる時よりずっとイキイキしてるじゃない。……そんなところも可愛いけど。
「すいませーん! この辺に冒険者用のお店ってありませんかー?」
あっ……勝手に聞きに行って……あの子ったら……。
「すぐそこにあるみたいですよ? 行ってみましょうよ!」
「仕方ないわね……ちょっとだけですわよ?」
「はい!」
わたくしの知っているショップとは違ったこじんまりとしたお店には組合兼酒場にいるような大男や可愛らしい女冒険者。果ては老人まで幅広い世代の人たちが訪れていた。
「うわぁぁ……刀だぁ……王道!」
「どれどれ……2万円ね。このクエストをこなせばいくらでも購入可能ですわね」
「今欲しいなぁ……そうだ!アリス様、その服売っちゃいませんか?」
「な、何を言ってますの!? この運命レベルで汚れたり破れたりを防いでくださるドレスを売るなんて考えられませんわ」
「そうですよね……何言ってるんでしょう私。ちょっと頭を冷やしてきます!」
「えっ? あっ、ちょ……!」
主人を置いていく従者ってどうなのよもう……! まぁでも3年も無人島にいて正直[主人と従者]という関係性は薄れてきている気がしますわね。ま、まぁあの子が望むなら[家族]という関係でもよろしくてよ?
「アリス様! お待たせいたしました」
頭を冷やしてきたといっても少しショボンとしている顔……ん? よく見ると向こうの看板に買取も行ってると書いてあるわね……。わたくし目もいいのよ?
「ごめんあそばせ。買取はどのようなものを買い取っていただけますの?」
このお店の主人は……男性かと思いましたがよく見ると女性ですわね。わたくしと同じ貧乳族ですわ。親近感を覚えますわね。
「買取か? そうだな……冒険で拾ってきたもんとかをアタシの鑑定スキルで価値を認めて金にすっから決まった物ってのはないぜ? 試しにその綺麗な黒いドレスを鑑定してみようか?」
「結構ですわ。こちらは非売品ですもの。こちらならいかが?」
そう言ってわたくしがお店の番台に置いたのは、スマートフォン。充電も切れてしまいましたし、圏外ですので使い道がないから少しでも資金の足しになれば売ってもよろしくてよ。
「何だこれ……まぁいいや。鑑定してみっぜ? スキル≪鑑定Lv40≫」
お店のお姉さんの右目に赤い魔法陣が出現する。なるほど、あれを通じて鑑定するのね。
「おっ! 結果が出たぜ!……10万円の価値って……本当かぁ? こんな板どうやって使うんだよ」
そう言いながらも10万円を用意してくる。
「いいんですの? 得体も知らないものを10万円で買い取ってしまって」
「まぁ鑑定スキルは絶対だしな。きっとどこかに10万の価値があんだろ。ほら売るか? 売らないか?」
「売った! ですわ!」
「おう! そうこなくっちゃな!」
スマートフォン(亡骸)を売り10万円を得ましたわ。仕方ありませんわね。あの刀を買ってあげましょうか。
「柚子、この刀でいいのね?」
「え……い、いいんですか?」
「もちろん。そのために売ったんですから」
パアッという効果音が聞こえてきそうなくらい明るい表情を見せる。やっぱりあの顔に弱いですわ……可愛すぎるもの。
「おっ! それ買ってくかい?」
「はい。他にいい物はありますの? 予算は8万円ほどですわ」
「そうだな……見たところマジックアイテムを何も持ってないみたいだから基本的なマジックアイテムを揃えたらどうだい?」
「マジックアイテム……?」
そういえばわたくしたちの冒険者カードを作るときにも役場の方がおっしゃってましたわね。
「マジックアイテムってのは身につけていれば発動できるアイテムのことさ。このフレイムリングなら魔法『フレイム』を覚えていなくても発動できるんだ。2万円するけどな」
「ふぅん……便利ですわね」
「アリス様! せっかくだから何か買ってみましょうよ!」
「そうね……オススメは?」
「丁度8万円になるけどパーフェクトリングだな。炎・水・雷・風・闇の基本魔法5つが使えるリングだぜ!」
なるほど……それならお得ですわね。
「じゃあそれをいただこうかしら」
「よしっ! この刀と合わせて10万だ!」
一瞬で無一文に戻ってしまいましたが……まぁいいでしょう。
「さてと……今度こそクエストに向かいますわよ?」
「はい!」
刀と執事服でカッコよく見えるからでしょうか…柚子の魅力が3割増しになった気がするわね……。刀を買って正解でしたわ。
歩いて行くにはちょっと遠いからわたくしのスキルを使って飛んで移動することにしましたわ。ここ毎日柚子の香りを合法的に楽しめるのはいいことね。おっといけませんわ。淑女として鼻血を出すわけにはいきませんわね。
大蛇の住む南東の森は【アイン】の街も干渉できないほどのレベルの魔獣が生息しているという。大半の魔獣は人間側から何もしなければ襲ってくることはないらしいのだけれど、大蛇に追われて【アイン】に魔獣が増えることが20年に1度くらいのペースであるという。20年に1度こうしてクエストを掲示しては倒せず……をかれこれ100年は続けているそう。
「もっと上のレベルの冒険者たちを雇えばいいのにって思いますけどね〜」
「そうなのよ……きっと何か裏があるわね。今度領主に問い詰めてやりましょ?」
わたくしはまだ領主に顔を見せていなかったわね。まぁすでに傀儡ですけど。
【アイン】の街並みと草原を超えたら南東の森が見えてきた。草原と森の間で飛行をやめて降り立つ。
「ふぅん……なかなか楽しそうな森じゃない」
「無人島を経験してなかったら虫とか気にして入れなかったかもしれないですね」
「そうね。まぁ……無人島で3年生き抜いたわたくしならこんな森くらい余裕ですわよ?」
わたくしたちのクエスト、開始ですわ!