66話 3ヶ月ですわよ
わたくし達が【白百合騎士団】に入団し、およそ3ヶ月が経過した。その間にわたくしは4席に。柚子もなんだなんだ功績を挙げ、いまでは8席に席を置く幹部となった。わたくしはもっと席を上げたいのだけれど、魔王軍の進行が【魔龍】討伐から5日後くらいから激化した影響で幹部試験を受けられていない。
今日も今日とて激戦区となるA地区で激しい戦闘が続く。【魔龍】の次に指揮官となった【魔導士】は狡猾な戦法を得意とするのか、普段はまったく戦場には現れない。武人気質だった【魔龍】とは大違いね。
「アリス様! 前方から魔獣が!」
「任せなさい。『ライトニング×2』」
わたくしもこの【白百合騎士団】でいくらか成長できた。魔法の使い方1つとってもやはり誰もが先輩になる。みんなのやり方を見て、真似て、自分のものにするを繰り返していたらいつのまにか自分自身さらに成長できた。やはり天才ですわね。
「お疲れ様です。アリスさん、柚子さん」
この透き通った声……エデンさんね。この人の実力は未だ底が知れない。なぜならろくに戦っているところを見ていないから。わたくし達と違って夜シフトにしたから当然といえば当然なのだけど。
「あら? もう交代の時間ですの?」
「はい。ゆっくりお休みください」
「あとは私たちにお任せを」
ルカさんとエデンさんが前に出る。ゆっくり戦いを見ていこうかとも思ったけれど……
「どうしました? お休みになられてよろしいですよ?」
……どうにもルカさんがわたくし達を避けようとしてくる。最初のうちはまだマシだったけれど、幹部の席を上げていくたびにルカさんの言動はあからさまになってきた。あとひと月、登りつめた先にどんな秘密が眠っているのかしらね?
「アリス様? 行かないのですか?」
「……えぇ。部屋に戻りましょうか」
柚子と共に暮らし慣れた部屋へ。部屋にはところどころに生活感も現れ始めてきた。
4席になるまでに開示された情報はかなり有益なものが多かった。まず魔王軍幹部について。【白百合騎士団】が今まで接触してきた幹部の【魔蟲】、【魔導士】についての性格や使う魔法など多岐にわたる。
次は今後の【白百合騎士団】の作戦について。現状魔王軍と騎士団とで二分されているA地区〜C地区を完全に奪還するというもの。この作戦自体はすでに動き出しているようだけれど、あまり進展はない。【魔龍】の死後、魔王軍も戦い方を変え、どうわたくし達を倒すかではなく、どうわたくし達を消耗させるかにシフトしてきた。ここが武人気質のあった【魔龍】との違いね。
「アリス様、今日もお疲れ様でした」
「えぇ。ありがとう。食堂に行きます?」
「そうですね。食堂に行きましょうか!」
ここ最近柚子の手料理を食べられていない……。けど要求したらそれはそれで求婚みたいですし。ほらあるじゃない、「味噌汁を毎日作ってくれ」的なやつになりそうじゃない? 考えすぎかしら……。
食堂に着くと少し雰囲気がこわばった。当然4席ともなれば幹部として顔が知られる。別にかしこまることを求めてなどいないのだけれどね。
席についてふと顔を上げると……本当にたまたまなのだけれど見知った顔が。
「こんばんはメルトさん」
今では6席となった短い緑髪の女性、メルトさんに挨拶をする。
「……どうも」
ルカさん以上にわたくしに対して嫌悪感を前面に出してくるメルトさん。相変わらずですわね。なんだか最近そんなところが可愛くなってきてあえてイジるようになってきましたわ。悪癖がつかないといいのだけれど……。
「アリス様、お料理を取ってきましょうよ!」
「えぇ。そうね」
お腹が空いているのか柚子が急かす。いや……違うわね。わたくしに対して嫌悪感を出すメルトさんに対して柚子は嫌悪感を出しているのだわ。複雑な関係ね……。
メルトさんに一礼をしてお料理を取りに行く。流石に3ヶ月も経つとロマンによる野菜の呪縛からも解放されて自由に選べるようになった。ひと月くらいは野菜を選ばないとロマンに怒られそうな悪寒がしましたもの……好きに選ぶとしましょう。
肉じゃがやお味噌汁などをトレーに乗せて席へ。わたくしと食べるのが嫌だったのか、メルトさんはまだ結構料理が残っていたのに帰ってくると完食していた。
「では、私はこれで」
「えぇ。良い夜を」
「……どうぞ」
そっけないメルトさん、いつも通りのわたくし、そっけない柚子。なんだか変な感じね。
「さ、わたくし達も食べましょうか。ゆっくりとね」
「はい! いただきまーす」
「いただきます」
相変わらずここの食堂の料理は美味しいわね。毎日戦闘が起こるストレスをある程度和らげてくれるわ。
「あー、ユリアンちゃんとロマンちゃん、元気かなぁ」
「ふふっ。なんだか毎日言ってるわね、それ」
「そうでしたっけ? でも……やっぱり気になっちゃって」
えへへ……と頭を掻く柚子。気持ちはわからなくはないし、わたくしだって言葉にしないだけで2人のことが気になるのは一緒よ。
「大丈夫よ。きっと仲良く元気に修行をして、来月会う頃にはさらに強い子達になっていると思うわ」
わたくしが見込んだニコラに頼んだのだしね。大丈夫というには十分でしょう。
「そうですよね……毎日すみません」
「いいのよ。仲間だものね」
「あ、アリス様のデレが出ましたね!」
「な、何を言っているのよ……ほら、早く食べちゃいましょ?」
「はーい」
まったく……デレてなどいないわよ。ただ……日本に帰るとなったらユリアンやロマンと別れる時が来るのよね。想像したら……ちょっと寂しいですわね。
一人でしんみりとしながら夜ご飯を食べ終え、部屋に戻る。
「そういえば今日でちょうど残り1ヶ月になりましたね!」
「そういえばそうね。あとひと月で得られるだけの情報を得て【イリス】へ帰るとしましょう」
挙げた功績は十分。幹部試験は戦闘が落ち着くようならいつでも受けることはできる。さぁ……ここからどうなるか、本当にわたくし次第となるわね。この仮入団、絶対に成功で終わらせてやりますわよ!




