64話 リラックスですわよ
模擬戦を終え、結局その後に戦闘が始まることもなく夜を迎えた。わたくし達はいつのまにかお昼のシフトに入っていたようだからここからはお休みみたいね。夜シフトの人は大変そうですわ。
「今日の夜ご飯はどうする? 食堂へ行きますか?」
「いえ! たまには私がお作りします!」
「そう? じゃあその言葉に甘えようかしら」
クールにそう言いつつ、頭の中では柚子の手料理が食べられると小躍りしている。手料理には愛が込められていますもの。実質柚子と結婚したと言っても相違ないのでなくて?
「じゃあお部屋に戻りましょうか」
「はい!」
お部屋には簡易的なキッチンがありますものね。たまには誰の目にも入らぬところでゆっくり夜ご飯をいただくというのもいいものですわね。
お部屋に戻ると早速柚子が料理の準備を始める。備え付けられていたエプロンをつけ、準備完了という表情。……執事服にエプロンってちょっといやらしいですわね。はしたいわよ。はしたないけど一応目に焼き付けておきましょう。
「アリス様ー! 『ストレージボックス』をお願いします」
「えぇ。『ストレージボックス!』」
黒い渦の収納庫を召喚する。さてさて、何を作ってくれるのかしらね?
「ん〜、いい食材がまだ結構ありますね。お野菜が多いですけど」
ロマンセレクトのお野菜はまだまだ無くなりませんからね。次会うときまでにすべて消費していないとロマンに無言で怒られそうなのはなぜかしら。
「じゃあ簡単な野菜炒めと、肉じゃがっぽいものを作りますね♪」
あら嬉しいわね。肉じゃがなんて特に愛を込めやすいお料理じゃない。楽しみだわ。
柚子がお料理をしている間に……わたくしはこそっとベットの方へ。
「あ、あー! 疲れましたわねぇ!」
自分でもわかるほどの棒読み。演技の才能は無いのかしら……いやいや、天才だからそんなことはないはずよ。きっと未経験だから棒読みになっただけですわ!
まぁ柚子も気にしていないみたいだしそのまま計画を続行しましょう。わたくしの計画……そう、「ベットに染み付いた柚子の匂いをクンカクンカ計画」をね!
わたくし達がここにきてもう数日が経過した。つまり……このベットには柚子の匂いが染み付いているということよ! そろそろ職員が取り替えにくる頃でしょう。つまり、今が1番濃厚な柚子の香りがするの! 今がベストなのよ!
とまぁ前置きはこれくらいにしましょうか。暑く語りすぎるとまるで変態さんのようですものね。
柚子の方をチラッと見る。よし、料理に集中していますわね……今よ!
コテンとベットに横たわる。掛け布団を顔を埋めて、いくわよ……3・2・1……!
「スゥーーー!!!」
あぁ……幸福な分子がわたくしの鼻から全身へ駆け巡る……! これが柚子の香り。わたくしが好きな女の子の……香りですのね!
「あぁ……幸せですわ♡」
「アリス様? お疲れですか?」
「ハッ!」
柚子! いつのまにベットのそばに!
「そ、そうなのよ。ちょっと疲れてね」
「あまり無理をなさらないでくださいね。夜ご飯、できましたよ」
「あ、ありがとう……」
危なかった……もう少し早くこちらに来ていたら完全におしまいでしたわね。
「いただきます。美味しそうね」
「えへへ……頑張って作りました!」
短時間だったのに味の染み込んでいそうな肉じゃがね。少し味を濃いめにしたのかしら?
「ん……美味しいわ!」
「良かったぁ〜」
わたくしの評価にホッと胸をなでおろす柚子。なでおろすには少し大きいようだけど? 大きいようだけど??
「野菜炒めも美味しいわよ。ありがとね、柚子」
「はい! アリス様に喜んでもらえて嬉しいです」
……本当、わたくしは幸せ者ね。こんな右も左もわからない異世界に飛ばされたら普通の人なら不幸だと言うかもしれないけれど、わたくしは胸を張って幸せだと言えるわ。だって……隣に柚子がいるんだもの。
「ごちそうさまでした。さて……お風呂に入りますわね」
「あの! アリス様……」
柚子がモジモジしながらわたくしの顔を伺っている。
「どうしたの?」
「あの……一緒にお風呂に入ってもよろしいでしょうか! お邪魔はしませんので!」
なんと……! 柚子からそんなお誘いがあるだなんて思ってもいなかったわ。答えはもちろん……
「えぇ。いいわよ。久しぶりに一緒に入りましょうか」
「はい!」
ぱあっと顔が明るくなる柚子。ズルいわね……そんな顔をされたらこちらまで微笑んでしまうじゃない。
脱衣所が狭いからお互い意識しちゃって恥ずかしいわね。柚子も明らかに恥ずかしそうにしていますし。こういう時は主人のわたくしが堂々としている必要がありますわね。
「柚子、先に入っているわよ?」
「あっ……お背中流しますのですぐ行きます!」
照れながらも背中は流したいのね。嬉しいけど。
というわけで柚子に背中を洗ってもらうことに。嬉し恥ずかしとはこういう時のための言葉だったのね。柚子の柔らかくて温かい手がわたくしの背中をなぞる。こそばゆかったり、気持ち良かったり。全神経が背中に集中していることがわかるわ。
……無自覚なのだろうけど背中にたまーに感じるこの柔らかな感触……柚子の胸よね? 一応拝んでおきましょう。神さまありがとうございます。
「ありがとう柚子。今度は私が柚子の背中を流すわ」
「ええっ!? そんな、恐れ多いです!」
「遠慮しなくていいわよ。ほら」
「あっ……!」
優しく柚子の背中を洗ってあげる。……どう考えても胸なんて当たりようが無いわよね? どんな大きさならたまにとはいえ当たるというのよ。
体を洗い終え湯船に。ちょっと狭いから柚子の上にわたくしが乗る形になった。後ろから自然に抱きしめられる姿勢になるからドキドキが止まらないですわ。って……
「ゆ、柚子、手が胸に……」
「へ? あ! ご、ごめんなさい! 気がつきませんでした!」
「それはそれでどうなのよ!」
まったく失礼するわ。少しくらい膨らんで……い、いますわよね?
一緒にお風呂に入れるだなんて思いもしなかったわ。願わくばもう何回か一緒に入りたいところね。今度は日本に帰ってから広い湯船でやりましょうか。その頃には正式にお付き合いを始められていたなら……なんて妄想しちゃったりするのは仕方のないことですわよね?




