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63話 模擬戦ですわよ

 トレーニングルームへ移動する間、施設を回って柚子とイチャイチャしようと思ったのだけれど……


「アリス様、今日はどんなトレーニングをします?」


 なんだかやる気満々の柚子。そんなにトレーニング意欲があるだなんて思っていなかったわ。


「汗を流す程度の軽い運動……ではなく、一度柚子と模擬戦でもしてみたいわね」


「いいですねそれ!」


 柚子も乗り気みたいね。剣術で勝てる気はしないけれど魔法も含めた戦闘なら負ける気がしないわ。

 トレーニングルームに試合室みたいなのもがあったかしら。前回行った時によく見ておくべきだったわね。


 とりあえずトレーニングルームに到着。受付の方に施設マップでも見せてもらおうかしらね。


「ごきげんよう。トレーニングルームのマップなどはありますか?」


「はいございますよ。こちらです」


 A4サイズの紙を受け取る。ふむふむ……ジムのような部屋から奥に行ったところに実戦室というところがあるのね。


「柚子、この奥の実戦室を利用するのはどうかしら?」


「いいですね、そうしましょう!」


 決まりね。と歩き出して実戦室へ向かう途中で、またトレーニング中のメルトさんを見かけた。本当に正義感が強いわね。あと少し実力が伴えばもっと上のポストにつけそうですけれど。


 こちらは気がついても向こうは集中しきっているのか気がついた様子はない。まぁ……今日は挨拶する必要はないでしょう。


 実戦室の前には大きな張り紙が掲示されていた。なになに……

 ①実戦室を使うときは必ず受付で許可を得ること

 ②実戦室の耐久力はかなりのものであるが壊れることもあるためその際は自費で弁償をしてもらう

 ③いかなる場合であっても隊員同士、安全に気をつけて利用すること


 まぁ当然のことですわね。例えばこんなところで『絢爛の炎』をフルパワーで撃ったら壁が崩壊するでしょうし、その辺りの調整は上手くやれということでしょう。あとは実戦とはいえ仲間を傷つけることは禁止、と。


 ①に書いてあることに従うため受付へ。


「すみません。実戦室を利用したいのだけれど……」


「あ、はい。今は……誰も利用していないので大丈夫です。では注意事項に従ってご利用くださいね」


「えぇ。ありがとう」


 なんだ、意外とあっさり利用できるのね。もっと色々な手続きをさせられるのかと思ったわ。


 というわけで実戦室へ。試合室と似た広さ、似た内装ね。同じ作りなのかしら?


「アリス様……僭越ながら抜かせていただきます」


「えぇ。全力で来なさい、柚子」


 エデンさんが柚子と同等のレベルだと仮定したら壊れることはないでしょう。多少傷がつくかもしれないけれど……。

 

「行くよ[ムラクモ]。殺気はいらないからね」


 実戦室に紫色のオーラが広がって行く。さて……あの[ムラクモ]にあれで対応できるのかしら。興味はあるけど不安ね。


「『ストレージボックス』」


 取り出すのはもちろん漆黒の大剣。


「来なさい柚子。無礼講よ」


「では……お言葉に甘えて!」


 駆け出してくる柚子。[ムラクモ]のオーラがそれに追随する様はまさに妖艶。エロスをかもし出しているわね。それでいていやらしさはない。芸術作品のようだわ。


「『紫電:一文字斬り!』」


 横一方に刀が振られる。それを大剣で……受け止める!


 キンッッ! と甲高い金属音が響き渡る。強い衝撃と雷を纏っている分柚子の方が上手。なら……


「『ライトニング!』」


 漆黒の大剣にこちらも雷を纏わせる。これで多少マシになるんじゃなくて?


「はあっ!」


「なっ!?」


 刀を剣に滑らせてわたくし本体に!?


「うっ!」


 なんとか体をひねって避ける。柔軟をしっかりやっていてよかったわ。


「……流石ですね、アリス様」


「当然よ。使用人にやられていたら格好がつかないもの」


「でも私だって一矢報いる気でいますからね!」


 柚子はわたくしを殺す気はもちろん無いのでしょうけど、当たれば確実に大怪我をするくらい本気で打ち込んでくる。わたくしの強さを信じているからこそできているのでしょうね。それに応える必要があるわ。


 漆黒の大剣に纏わせた『ライトニング』を強める。黒と黄色が混ざり合い複雑な色を生み出していた。


「さぁ……白黒つけましょうか、柚子。剣術でも貴女の上にいられるように足掻いてみるわよ?」


「剣では負けませんよ……アリス様!」


 再度わたくしも柚子も剣と刀を構える。


「やあっ!」


「はあっ!」


 雷を纏ったお互いの武器は鋭く、当たれば大怪我も予想されるけど……お互い負けず嫌い。全力でぶつかっているわね。


 ここで魔法も……


「『フレイム!』」


「『紫電:一刀両断!』その程度の魔法では私は倒れませんよ!」


 でしょうね。この程度で倒せるのなら【魔蛇】に瞬殺されてしまうもの。


「『ダークネス』『ウィンド』」


「……なんの真似ですか? アリス様」


「さぁ? 何でしょうね」


 魔法を連発する。そこに意味は……もちろんある。それに気づけるかしらね、柚子。


「なら……こちらは新技でいかせてもらいますよ……」


 新技? 警戒が必要ね。


「『紫電:飛翔斬』」


 斬撃を飛ばす魔法! それも雷付きとは……やるわね。


「『ストレージボックス』」


 なんとか柚子の攻撃を収納。利用させてもらうわよ。


「『ストレージボックス』」


 柚子の新技を逆に跳ね返す。さぁ……どうよ!


「『紫電:十文字斬り』」


 紫色の斬撃で打ち消しあった。ここね!


「さて……ここからは……え?」


「遅いわよ!」


 柚子を押し倒し、馬乗りになる。当然柚子に怪我のないように身体の横に剣を突き刺す。


「わたくしの勝ちね?」


「な、なんで……はっ!」


 気がついたみたいね。そう、『ウィンド』は攻撃用じゃなく、加速用に撃ったのよ。その風に乗ればまるで瞬間移動のように柚子に近づけるというわけ。


「流石です、アリス様」


「まぁ……こんなものよ?」


 とりあえず勝てて一安心ね。本当は負けたらどうしようと思っていましたし……。

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