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61話 試合ですわよ

「おはようございます。エデンさん、ルカさん」


 わたくしが幹部試験を受けるために呼ばれたのは団長室だった。当然、そこにはエデンさんとルカさんがいた。


「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


「……えぇ。ぐっすりと」


 このオレンジ色の長い髪を揺らす、【白百合騎士団】の団長、エデンさんは底が知れない人。絶対に隙を見せることは許されない。


「それは良かったです。では……試験初日の説明をさせていただきましょうか」


「その前に私から幹部のシステムについて説明しますね」


 エデンさんの後ろに立っていたルカさんが資料をわたくしに渡してくれた。


「そこに書いてある通り、ウチの幹部は第1席の団長から第10席まであります。団長公認の幹部試験を受ける際には10席の人との試合をしていただきます」


「試合……決闘をするということかしら?」


 わたくしの問いにルカさんが答えるのではなく、エデンさんが横から答える。


「いいえ。決闘かどうかはその幹部次第です。幹部の得意なもので試合をして、それを上回ることができたなら幹部の座を明け渡す。これが特例で幹部になる団長公認幹部試験の概要です」


 なるほど……挑戦者たるわたくしは単純な力では優っていても他の面で負ける恐れがあるということね。しかも相手の幹部は得意なこと前提。厳しい闘いになりそうね。


「特例での試験ですもの。受け入れますわ。それで? 第10席の方はどちらに?」


「すでに試合室の方へ向かわせています。アリスさんもどうぞ移動を。ルカ、私たちも向かいましょうか」


「そうですね」


 団長、副団長が見にくるとなると第10席の人のやる気も上がるでしょうし、ますます不利になったわね。


 ルカさんとエデンさんに案内され試合室へ。2人は見学するための部屋へと向かい、試合室前でわたくし1人になる。


 ふぅ……ここまでかなり駆け足で来たけれど、天才たるわたくしなら当然の速さね。だから何も緊張することはないわ。弱い自分を捨てなさい、アリス。

 脳内で柚子の笑顔を思い浮かべる。すると不思議と体の奥から力が湧いてくるわね。


「……よし」


 パチンと頬を叩いて試合室へ。そうよ、柚子も背負っているのだから、負けるわけにはいかないわよ、アリス。


 試合室のドアを開けると第10席の方が座って待っていた。


「お待たせいたしました。アリスと申しますわ」


「おぉ〜〜よろしくねぇ」


「えっ」


 ハッ! いけないいけない。思わず声が漏れてしまいましたわ。でも驚いたわね……まさか……


「いや〜若い子はいいわねぇ。肌にハリがあって。私じゃもうカサカサだものねアッハッハ!」


 まさか幹部の1人がお婆さまだとは……思いもしていなかったわ。あまりに想定外すぎてエデンさんとルカさんがわたくしを動揺させるために仕組んだのではないかと思うほどよ。


「さてと、私の得意なことで勝負すればいいのよね? ほらこれ」


 そう言って白髪のお婆さまが投げたのは……竹刀?


「"これ"で勝負よ。まぁルールはよくわかっていないと思うから、当てた方の勝ち。簡単でしょう?」


 お婆さまがにっこり優しく微笑む。要するに剣での勝負ということね。見た目に反してかなり戦闘的なお婆さまね……。まぁ幹部にいるのだから当然といえば当然でしょうけど。


「では……準備完了ですわ」


「あらあら急いじゃダメよ。まずは準備運動から。1・2・1・2!」


 ……目の前でマイペースに準備完了を始めるお婆さま。他の隊員はこの人より戦果を挙げられていないの? 大丈夫かしらこの騎士団……と思いつつ、油断は禁物ね。もしかしたらこの方がとんでもない強さを持っていることもありえるわ。それに柚子ならともかく、戦うのは剣が得意とは言えないわたくし。一切の慢心を捨てていきましょう。


「……いい目になったわねぇ。さ、やりましょうか」


 お婆さまが竹刀を取る。素人目に見てしっかりとした構えね。わたくしは……まぁそれらしい構えしかできませんわ。でも、勝つしかないわね。


≪それでは両者構えて≫


 試合室にエデンさんの声が響く。アナウンス機能もあるのね。ここだけ近代的すぎないかしら。


≪試合、開始!≫


 始まった……と思った瞬間にそこにいたはずのお婆さまの姿がない。


「えっ……!?」


 消えた? いや、そんなはずはありませんわ、落ち着きなさい、アリス。でもどこに……


「ここよ」


「なっ!?」


 声がしたのはわたくしの真後ろから。いつのまに……。というか


「なぜ今攻撃しなかったのですか?」


「さぁ? 歳をとると頭が回らんくなるでねぇ」


 笑いながらそう答えるお婆さま。実力は高いとわかりましたわ。


「ならこちらから行きます。はあっ!」


「うんうん。ほっ!」


 また……消えた!? ということは……


「やあっ!」


 パシッ! と竹刀同士でぶつかる。やっぱり後ろでしたわね。いつのまに回っていたのかはわからないけれど。


「うんうん、読めるようになってきたわね」


 そう頷きながらまた消えるお婆さま。まるでレッスンね。試合のつもりでこちらは来ていたのだけれど。


 この消える現象は間違いなく魔法。ならわたくしだって……


「『バニッシュ!』」


 お婆さまのようにスッと消えるイメージで魔法を習得。ちゃんと消えているか自分で確かめようがないから不安ね。


「あらあら。真似されちゃったわね」


 お婆さまの声が響く。出元は……掴めない。厄介だけど覚えたら便利な魔法ね。でもこれ……結構体力使うわね。消えている時間を考えないとすぐにバテそうだわ。


「ハァ〜もう限界」


 ぬるりとお婆さまが姿を現した。やっぱり体力消費が激しいわよねこの魔法。


 ここの隙を逃すわけにはいかないわ。透明化したまま……


「やあっ!!」


 直前に現れて打つ!


 パシッ! とまた防がれた。そんな……!


「直線的ねぇ。真っ直ぐで優しい子なのよね、わかるわ」


 お婆さまが話でもしようと、孫に話しかけるように優しく語りかけてきた。


「あなたみたいな優しい子はいくら強くても危ないわよ。だから少しだけ捻くれてみなさい」


「……ご忠告どうも」


 人生の大先輩からのアドバイス。しっかり胸に留めておくことにしましょうか。さて……ここからが本番ですわね。


 捻くれたやり方……そうでないと倒せないことがわかったわ。今ひとつ案が浮かんだけれど、それでいいのかしら……。でも迷っている時間はなさそうね。


「『バニッシュ!』」


 再度姿を隠す。この状態でおそらくお婆さまがわたくしの位置を把握するために利用しているのが、音。なら音を立てない攻撃をすればいい。勝利条件は、竹刀を相手に当てること。なら……


「えいっ!」


 竹刀を、投げる。絵面は地味ですけど、勝利には1番と判断した方法よ。


「あらっ」


 実際そのままお婆さまを直撃した。その瞬間……


≪試合終了。勝者、アリスさんです≫


「あらあら。負けちゃったわね」


 ……納得いきませんわね。


「どうして最初、攻撃なさらなかったのですか? それと、敵に塩を送るような言葉まで」


「……これからは若い子の時代よ。そろそろ私は引退するわ」


「ワザと負けた、ということですか?」


「いいえ。そんなわけないわよ。あなたが強いのは長く生きた感でわかるのよ。それを信じてみただけ。期待しているわよ? アリスさん」


 ……まったく、敵わないわね。


「お疲れ様でした、アリスさん」


 エデンさんが試合室に入ってくる。不満顔を隠せないでいるルカさんとともに。


「ではこの時よりアリスさんは【白百合騎士団】の幹部第10席とします。明日はさらなる昇格、目指しますか?」


「……えぇ。もちろんよ」


 明日からはわたくしを完全に倒す気でくる相手ばかり。ここから始まるのね……上を目指す戦いが。

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