60.5話 柚子の気持ちです!
私はアリス様に仕える使用人です。ずっとずっと昔から、小さい頃からアリス様にお仕えしていました。
初めてアリス様と出会った時の衝撃は、今でも良く覚えています。あのころは今よりもっと小さかったですが、気高く、自信溢れる表情のアリス様は今まで見てきたどんな大人よりも優れて見えました。そしてそれは、見えただけでなく、実際にそうだったのです。
「貴女がわたくしに仕える柚子ね? これからよろしくお願いしますわ」
「は、はい!」
初めての会話はこんな感じだった。そこから何度も私の名前を呼んでくださった。ずっと長い間、御陵院家に仕えるためだけに育てられた私に、ようやく命の火が灯った気がしました。
そして私たちは今、異世界にいます。どうして本の中の世界だった異世界に来たのか、それはまだわかりません。ただこの世界は日本よりいいところなんじゃないかなと最近思っています。政敵もいませんし、アリス様にとって安全に暮らせる場所です。
でも……それじゃ満足なされないのがアリス様なんです。自分は日本を引っ張っていく、導く存在なんだと信じて疑わない。もちろんその通りなんですけど、そのことに固く誇りを持っていらっしゃる。私はいつまでも隣にいて欲しいと言われて嬉しくなった。
私はアリス様に仕えて、最近初めて嘘をついた。
「柚子さんはどうなんですか? アリスさんのこと、お好きじゃないんですか?」
ルカさんに出された問い。私はこれに「わからない」というニュアンスの答えを返した。でも……それは嘘。本当は……大好き!!!
いや、好きに決まってますよね? ずっとずっとお仕えして、アリス様は強くて気高い人だけどその分弱くて本当はお優しいということまで知ってるんですよ?
そりゃ好きになるでしょう!!!
でも……私は使用人という立場。アリス様にお仕えするのが仕事です。私から好きと伝えることは絶対にしてはいけないのです。もしアリス様が私のことを好きでいらっしゃって、私に好きと伝えていただいて初めてお付き合いができるんです。そう、私から気持ちは伝えられません。決してです!




