59話 リラクゼーションですわ
再びリラクゼーションルームを訪ねるとわたくし達2人分の席がしっかりと確保されていた。
「ではアリス様はヘッド&イヤーリラクゼーションコースですね。こちらにおかけください」
「えぇ」
言われた通りの席に座る。すると勝手に背もたれが動いて仰向けの形に。なんだか日本の美容室みたいね。
「ではヘッドマッサージから始めさせていただきます。まずはシャンプーから失礼しますね〜」
「は〜い」
なんだかワクワクしてきたわ。
「失礼しますね……」
おぉ……! ミント系のシャンプーかしら。スゥーーっとする爽快感が頭に広がるわね。
「綺麗な金髪をお持ちですね」
「そう? ありがとう」
行きてきた中で何度も褒められたことはあるけれど、何度褒められてもいいものね。
シャカシャカとわたくしの髪の毛が磨かれる音が響く。磨かれれば磨かれるほど、スゥーーっとする感覚が広がって心が安らぐ。いいものね、これ。
「では流していきますね〜」
うん、流されていくときもいいものね。柚子にやり方を覚えて欲しいくらいだわ。
「このシャンプーは販売していますの?」
「はい。受付にて販売中ですよ〜」
絶対に帰りに買っていきましょう。この爽快感を味わったら他のものには戻れませんわ。
「ではヘッドマッサージを始めますね。香りはオレンジ、シトラス、ラベンダー、ローズ、ジャスミンの5つからお選びください」
そうね……ラベンダーやローズ、ジャスミンといった花の香りは好きな香りだわ。でも……やっぱりここは柚子にあやかって柑橘系でいきたいわね。
「シトラスでお願いするわ」
「はい。かしこまりました!」
そう言って店員さんは手際よく準備を始める。テキパキとした動きで色々なものを用意して……。
「失礼しま〜す。ちょっとだけ冷たいので気をつけてくださいね〜」
「んっ……!」
頭皮に触れた瞬間だけピクッと体が動いてしまう。でも次の瞬間からはシトラス……要するに柑橘系のいい香りに包まれる。
「では揉み込んでいきますね〜」
「ぁ……」
小さく声が漏れるほど気持ちのいいマッサージ。頭を揉み込まれるたびに意識が頭頂部から抜けていくような感覚に陥る。横から上へ押し上げるマッサージではそれをさらに実感できた。
「では器具を使って古い頭皮の角質を落としていきますね〜」
どんなものかしらと期待に胸を膨らませ……ることはできないのだけれど、まぁ期待していると……
キュポン! キュポン! と頭の角質を吸い取られるような感じに。これがまた意識を持っていかれるようで、眠っちゃいそうなほど気持ちがいい。
あぁ……まさか異世界に来てこんなにも気持ちのいいマッサージに出会えるだなんて思ってもいなかったわ。
「はい。これでヘッドマッサージの方は終了です。次はイヤーマッサージですね。失礼します」
「ひゃ!?」
「……どうされました?」
「い、いえ。なんでもないわよ?」
お、おかしいわね……何なの今の声は。
「お願いしますわ」
「は、はい。では……」
お姉さんの冷たい手がわたくしの耳に触れる。その瞬間身体に電気が走ったかのような感覚に襲われる。まさか……まさか……!
「ん……くっ……」
「えっと……私のマッサージ、何か問題がございますか?」
「い、いや! 何でもないのよ?」
まさかわたくし……耳が性感帯だとでもいうの!?
お姉さんの指がわたくしの耳の中へ侵入していくと腰が浮きそうになる。声も……漏れる!
「んっ……!」
こそばゆくて……気持ちよくて。色々な感覚が耳に集中する。こんなにわたくしって耳が弱かったのね……。お付き合いできたなら柚子に耳を舐めてもらおうかしら。
声を押し殺しながらイヤーマッサージをなんとか乗り切った。本当になんとかですけどね。
「お疲れ様でした。お連れの柚子様はあと10分ほど施術があると思いますので少々お待ちください」
「はい。わかりましたわ」
柚子の様子をこっそり覗いてみましょうか。隣だったわよね?
「……なっ!」
声が小さく漏れる。何よあれ……
「うはぁ……気持ちいいですぅ〜」
満足そうでとろけた顔の柚子をマッサージしているのは……柚子よりさらにダイナマイトボディーのお姉さま。何を食べていたらあんなに大きくなるのよ!
「大きいと凝りますよね〜」
「お姉さんほどじゃないですよ〜。大変じゃないですか?」
「大変ですね〜。実は私も週一でここに通っているんです」
くっ……! 胸が大きくないと参加できない悪魔の会話が繰り広げられているわ……!
これ以上見ていたら精神的にまずいと判断して素直に待合室で待つことにした。はぁ……なんだかヘッドマッサージとイヤーマッサージで回復した体力を今のショックで全部持っていかれた気がするわ。
数分待っていると柚子が肩もみマッサージのお部屋から出てきた。
「お待たせしました、アリス様」
「えぇ。気持ちよかった?」
「はい! それはもうとろけるくらい気持ちよかったです!」
……まぁ実際顔はとろけていたしね。
「それは良かったわね。わたくしの方もよかったわよ」
新たな癖に目覚めそうになったけれど……。
「もう19時ですか。夜ご飯食べてからお部屋に戻りましょうか」
「そうね。また食堂で食べる?」
「はい!」
まぁ……美味しい上にビュッフェ形式で好きなだけ食べられるものね、ここの食堂は。
食堂に着くとご飯時とだけあってかなりの人数で賑わっていた。見知った顔がこちらを凝視しているわね……こっちに来てくださいと言わんばかりに凝視しているわ……。
「……ルカさん、どうも」
まぁ行くしかないわよね。後輩ですし。相手は副団長ですし。
「何やらスッキリとした顔をされていますね。リラクゼーションでも受けられました?」
この施設内のことなら大抵のことがバレる見たいね……気をつけないといけないわ。
「どうぞお料理を取ってきてください。私はここで待っていますから」
「……えぇ。どうも」
別に待っていなくてもよろしいのに。エデンさんの衝撃で忘れていたけれどこの人も大概なのよね。
野菜だけでなくお肉もバランスよく取って席へ戻る。柚子も似たようなチョイスね。
「副団長も一般隊員と同じ食堂でお食事なさるのね。意外ですわ」
「そうですか? 私たちは騎士団ですから。同じ釜の飯をいただくのも連携のためには必要なことですよ」
「……ちょっと気になっていたんですけど、ルカさんとエデンさんってどこか似ていますよね。髪型とか、話し方とか!」
柚子がルカさんとエデンさんの共通点について言及した。その共通点がルカさんもエデンさんも油断できないところに繋がるのでしょうね。
「そうですか? それなら光栄ですね」
「あ〜! もしかしてルカさんってエデンさんのこと、好きだったりするんですかぁ?」
柚子が茶化すようにガールズトークを切り込んでいった。やるわねこの子……。
「はい」
「「えっ?」」
「好きですよ。エデンのこと。愛しています」
「あっ、そ、そうですか……」
自分で聞いたくせに答えられると照れてしまって顔を赤くする柚子。可愛いけれど……何よそれ。
「そういう柚子さんはどうなんですか?」
「……へ?」
ま、まさか! ここで柚子の気持ちを聞こうというの!?
「柚子さんはどうなんですか? アリスさんのこと、お好きじゃないんですか?」
ゴクリ……ロマン、ごめんなさいね。一足先にわたくしの方が目的を達成してしまいそうだわ。でも安心なさい、貴女との約束、何が何でも絶対に守りますからね。




