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5話 ブチ切れですわよ?

「ご機嫌よう」


 昨日訪れた市役所へ柚子と共に再訪する。受付の人は昨日と同じ人ですわね。


「お待ちしておりました、アリス様、柚子様。こちらカードのお返しと【アイン冒険者組合】への招待状となっております。組合ではクエストを合法的に受けることができるので安全ですよ」


「親切にありがとう。その組合へはどこへ行けばいいのかしら?」


「この役場の隣ですよ。その……もしかしてアリス様って貴族の方だったりします?」


「違いましてよ」


 正確には「貴族の方」を顎で使う者ですわね。


「そ、そうでしたか! お召し物がお綺麗だったのでつい……も、もちろん容姿もたいへんお可愛いらしいですが!」


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」


「……アリスさまー! 鼻の下がお伸びですよぉ?」


 あらわたくしったら。はしたなかったわね。


「でもお気をつけてくださいね。一応公的機関なので大声では言えませんが……やんちゃな男どもが多いので……」


「大丈夫よ。わたくしはそれなりに強いのでしょう?そんな男がいたらもぎってやるわ」


「そ、そうですか! では決まりの言葉を読ませていただきますね。『この世界を救う貴女の旅路に光あるよう』……お気をつけて!」


「えぇ。ありがとう」


 ただ一つ勘違いをしているわね。あくまで魔王とやらを倒すのはわたくしと柚子のため。この世界がどうなることは二の次ですわ。


 役場を出て隣の建物が組合でしたわね。


「……これは」


「……組合というより」


 酒場。ですわね。魔王城から最も離れた街だからこそストイックな人は少ないのでしょうね。


 そんな組合の受付ことビールカウンターに偽装した冒険者カードを持っていく。長かったわね……ようやくスタート地点ですわ。


「お受け取りします……ってLv12!? 二桁の新人じゃないですか!」


 あら……公的機関なのに役場から話をもらっている訳ではないのね。もっと連携を強化しないと後手に回る時が来そうですけど……。


「何!? 二桁だと!」

「おいおい! ビッグネームじゃねぇか!」

「もう『パーティー』には入ってるのか? そうじゃねぇなら俺らのところに!」

「あっ!ズリィ! 可愛い子だからって調子乗んな!」


 はぁ……外野がうるさいわね。もうちょっと可愛い子を出して欲しいわね。筋肉・筋肉・一つ飛ばして・筋肉じゃないの。むさ苦しいったらありゃしないわ。


「ところで今『パーティー』と聞こえましたけど何かしら?」


「パーティーというのは冒険者同士でチームを組むことです。アリス様は柚子様とパーティーを?」


「えぇ。そうなるわね」


 一刻も早く生涯のパーティーとしたいところですわ。あらやだうまいことを言ってしまいましたわね。


「この街では一番のパーティーということになるのかしら?」


「いえ。一番は領主様のご子息のパーティーですね」


「領主……なるほどね。柚子、いつものを頼めるかしら」


「ハッ! お任せください」


 柚子が冒険者組合から出て行く。それを確認したらすぐに話を元に戻す。


「その方のLvはいくつなのかしら」


「驚かないでくださいよ? なんと……Lv22なんです!まだ18歳ですから将来性もあって……それにイケメンで……」


 22……大したことはないのね。


「どうやらオレの噂で盛り上がっているようではないか。受付嬢さん?」


「ハ、ハーランド様♡」


 なるほど……他の冒険者とは明らかに服装・装飾が違う……これがさっきの話で聞いた領主の息子ね。眩しいくらいの金髪マッシュヘアが癪ですわね。


「ふむ……風の噂によると君は2ケタLvだそうじゃないか! そしてその美貌……私に劣らぬ美しい金髪!貴族顔負けのドレス! マーーーベラス!!!」


 うるさいわね……わたくしを『君』呼ばわりとはいい度胸じゃない。


「合格だ。私のパーティーに入りたまえ」


 酒場の男どもの反応は「おぉ〜!」という歓声と「チッ」という舌打ちに二分された。領主の人気は高いわけではないようね。


「あら? 聞き間違いかしら随分と礼儀のなってない言葉が聞こえたわね」


 わたくしの言葉で組合にピシッ! という亀裂音が鳴り響く。


「……もう一度言おう。私のパーティーに入りたまえ」


「もう一度言うわね。礼儀がなってないと言っているのよ。わたくしをパーティーに誘いたいなら領地の一つや二つ差し出すのがスジではなくて?」


 シーーンと酒場が静まりかえる。何かを察知したのかそそくさと酒場を後にするものもでてきた。


「ふっ……ふっはっはっはっ! 女の分際で無礼な奴だ!ユリアン、ロマン! あの生意気な口を塞いでしまえ!」


「「ハッ!」」


 どこから現れたのか二人の若い女の子が短剣を持って襲いかかってきた。


「ハッ! その2人はLv9だ! Lv12の貴様でも1人では勝ち目はあるまい!」


「……卑怯者ね」


 襲いかかってくる2人の少女の裏に回り込み首筋を優しく、丁寧に叩く。


「「あぅ……」」


「ふぅ。座って休んでいなさい」


「な、なにぃ!?」


 気を失った2人を酒場の椅子に座らせる。さて……前座は終わりですわね。


「貴様ぁ!」


「卑怯な男ね。『女の分際』なんて言葉を使っておいていざ襲わせるのは自分よりレベルも歳も下の少女だなんて。Lv22が聞いて呆れますわ」


「黙れぇ!!!『フレイム!』」


 バカ……! 木造建築の組合で炎を出してどうなるかくらいわかるでしょうに!


「ふん!」


 本当のLvが100なわたくしなら素手で魔法を消すくらい簡単ですわね。でも……目立つのはあまりよろしくないわ……一撃で仕留めましょう。


「くそ!『フレイム!』『フレイム!』『フレ……』く、来るなぁあ!!」


「くらいなさい!『乙女のビンタ!』」


「ぐはぁっ!!!」


 かなり力はセーブしたつもりでしたが……15mくらい吹っ飛ばしてしまいましたわね。うっかりですわ。


「き、貴様ぁ! 領主の息子であるオレを殴るなど……!逮捕だ! 警ら隊! あの女を捕らえろ!」


 あら……まだ意識があったの? タフですわね。さすがLv22とでも言っておきましょうか?


 領主の息子の声に応じて警ら隊がワラワラと集まってきた。


「ふっはっはっはっ! 貴様は終わりだ! 一生独房で暮らすがいい! ハッハッハッハッ!」


 本当に無様で惨めな男ね。顔だけいいのが面白いわ。男の顔なんて興味ないけど。


 そんなことを考えているうちに警ら隊がわたくしを取り囲むように並ぶ。……まだなの?


「お待たせいたしました! アリス様」


「遅いわよ。柚子。鈍ったのではなくて?」


「も、申し訳ありません!」


「いいのよ。遅くても結果的にタイミングはバッチリだわ」


「お、おい! 貴様ら! 何をしている! さっさとその女を捕まえんか!」


 領主の息子が何を叫んでも警ら隊は動かない。むしろわたくしを護るように囲い込む。


「な、なんなのだ……何なのだ貴様はぁ!」


「ふっ……それが知りたいのなら」


 堂々と歩いて近づき、領主の息子に耳打ちする。


「あなたのだーいすきな後ろ盾のパパに聞いてみることね」


 トンッと首すじに手刀を入れる。その瞬間領主の息子は崩れ落ちた。


「連れて行きなさい」


「「「ハッ!」」」


 警ら隊が領主の息子を連れて行ったところを見届けて…まだお昼ですけど疲れましたわね。


「帰りましょう柚子」


「はい!」


 少し早めの帰宅とした。……いや帰島と言うべきかしら?





「で?どうだったの?」


「そうですね……領主はすぐに隷属させられましたが警ら隊で時間がかかってしまいました」


 これはわたくしたち御陵院家で行われている通常業務。身を置いた場所に政治組織があれば傀儡とする。ですわ。異世界でもうまくいったみたいね。これであの【アイン】の街では好き勝手できますわ。


「そう。大変だったでしょう?今日は私がご飯を作るわ」


「いいんですか?やったー♪」


 今日のメニューはサソリの丸焼きとイワシの煮付けと山菜のサラダ。なかなか豪華なメニューですわよ?


「それにしても……あの領主の息子ってあの街ではかなりの強さみたいですよ?」


「そうらしいわね。Lvも22と悪くありませんもの」


 性格はクズですけどね。


「明日は何をしましょうか……」


「はいはい! 二日目か三日目は大体資金調達って相場が決まってますよ?」


「資金なら【アイン】のお金を頂戴すればいいじゃない」


「もう! アリス様はロマンがありませんね」


 なっ!? ロマン……そう、柚子はロマンがいいのね


「お金は自分で稼ぐものですわ。明日は資金調達のためにクエストとやらに出ましょう」


「わーーい!」


 子どものようにはしゃぐ柚子……可愛いわね……と眺めている間に夜は深まっていった。

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