58話 施設を利用しますわよ
「まさか……本当に【魔龍】を倒してしまうだなんて……」
エデンさんは驚きを隠せない様子。
「やっぱり幹部への挑戦権を得るのは無し、というのはNGですわよ?」
「……わかっています。もちろん、挑戦権を与えましょう」
入団して2日。ずいぶん駆け足で登ってきたけれど長い道のりに感じたわね。
「……今日のところはこれで撤退しましょうか。おそらく指揮官を無くした魔王軍は5日ほど積極的に動くことは無いと思います。そこで、明日から幹部試験を始めましょう。よろしいですね?」
「えぇ。構いませんわ。今日はどうするの? まだ半日以上残っているけれど」
「施設のトレーニングルームを使われたりリラクゼーションを受けていただいたり、お部屋で自由に過ごされていても構いません。念のため監視を置いておきますが、きっと今日中に戦闘が起こることはないでしょう」
ふむ……自由に過ごせと言われると悩むものね。まぁとりあえず……
「柚子、お昼ご飯を食べに行きましょうか」
「はい!」
【白百合騎士団】の食堂にはいつも人で溢れている。ほぼ女性ばっかりの【白百合騎士団】だけれど戦う乙女たち。並んでいる料理は基本的にお肉が中心ですわ。
「美味しいですよね〜〜ここの料理」
「そうね。ビュッフェ形式だからといって食べ過ぎないようにね、柚子」
「ふぁ、ふぁい!」
……口いっぱいに食べ物を入れながら答えても説得力ないわね。なんかリスみたいで可愛いわ。こういう可愛さもあるのね……。
「……アリス様は野菜が多いですね」
「え?……そういえばそうね」
野菜というとロマンの顔が思い浮かび、次にユリアンの顔も思い浮かぶ。元気に仲良くやっているかしら。……ってまだ2日しか経っていないのだからそう変わるものではないでしょうけど。
ロマンとの約束、帰ったら果たさないといけないわね。どうやってユリアンに気持ちを聞けばいいのかしら。あの元気っ子にまず話を聞くところから難しいのだけれど。まぁ……この4ヶ月で精神的にも強く、大人になってくれることを願うしかないわね。
そういえば【魔龍】を倒したのだから"アレ"はどうなったのかしら。
ポケットに入っている冒険者カードを取り出し、特記欄を見る。【魔蛇】、【魔人】を倒した時と同じように特記欄には○が一つ増えていた。
確か後は【魔導士】、【魔女】、【魔弾】、【魔蟲】の4体でしたっけ。まだ半分……先は遠いわね。
「それにしてもあの一撃は凄かったですね! 私興奮しちゃいましたよ!」
「そうなの? 柚子のことだから【魔龍】とも刀で語り合いたいとか言うと思っていたわ」
「いや〜。流石に腕6本ある人と刀では語り合えないですねぇ……」
まぁ当然よね。6本の刀に一本で挑むだなんて普通に考えたら自殺行為もいいところだわ。
「さて、この後はどうする? トレーニングルームとやらに行くか、リラクゼーションを受けるか、部屋に戻るか。好きに選んでいいわよ」
「ん〜……トレーニングで軽く汗を流して、シャワーを浴びてからリラクゼーションを受けに行きませんか?」
「いいとこ取りというわけね。いいわよ」
というわけで【白百合騎士団】の施設の一つ、トレーニングルームへ。あら、見知った顔がいるじゃない。
「こんにちは。メルトさん」
「……こんにちは」
あんまりわたくし達のことが気に入ってないのはまだ変わらずの様子のメルトさん。正義感は強いからか、かなりハードな筋力トレーニングを行なっている。あんまり筋肉モリモリな人は好きではないけれど、女性がつける筋肉は悪くないわね……むしろ有りよ。
「何かオススメの機材はあるかしら?」
見たところ日本と遜色ないくらいの装置が揃っている……と思う。あんまりトレーニングジムには詳しくないから下手なこと言えないけれどね。
「ランニングマシンでもどうですか?」
「ならそうさせていただくわ。柚子はどうするの?」
「私もご一緒します!」
というわけで柚子と一緒にランニングマシンで運動をすることに。人並み程度にはトレーニングをしてきたけれどもう3年も前の話ですし、どうなるかさっぱりわからないわね。
機械が魔法の電力で動き出し、それと同時に走り始める。
「結構気持ちいいですね、アリス様!」
「そうね。こういう軽いランニングはいい汗をかけるわ」
たまにはこうして走らないとね。といっても【アトロン島】までは飛ぶしか移動手段がないのだけれど。【アトロン島】にランニングコースでも作ろうかしら。
いい汗をかいた後にメルトさんにお先に失礼しますと告げ、隣接するシャワー室へ。身体に絡んでいた汗が流れていくと心地よさを感じる。
「さて、リラクゼーション室とやらに行きましょうか」
「はい! 楽しみですね〜♪」
……と思っていたのだけれどリラクゼーション室の前にはかなりの行列が。人気なのね。
「どうします? やめますか?」
「う〜〜ん……」
気分がもうリラクゼーションの気分になってしまったのよね……。
「もしよろしければご予約されてまたお越しください」
店員さんにシステムを説明していただけた。これはありがたいわね。じゃあ予約してから一度お部屋に戻りましょう。
部屋に戻ると柚子がすぐにベットにダイブした。戦場帰りは疲れるものね。仕方ないわ。
「アリス様は何コースにしました?」
「わたくしは頭と耳のリラクゼーションコースよ。柚子は?」
「私は肩のマッサージコースです。大きいと凝るんですよね〜」
……それはわたくしに対する嫌味かしら? そんなに嫌なら取ってあげるわよ? でも取ってしまったら揉む時の楽しみが減ってしまうわね……やっぱりそのままにしてあげましょう。
「耳のリラクゼーションって何をするんでしょうね」
「マッサージとか……耳かきとかかしら?」
「あっ、そんな感じですか」
「どんなのを想像していたのよ……」
そういうと柚子は恥ずかしそうにモジモジしながら……
「な、舐めたりするのかなぁ〜と……」
なかなかハイレベルなことを言ってきた。耳を……舐める? 知らない世界ね。と思って柚子の耳を凝視してみる。ショートカットだから耳が出ていて見えやすい。……いや、これは舐めたくなるのもわからなくはないわ。でもちょっぴりエッチね。いけないいけない、はしたないわよ、アリス。
「もしよろしかったら私がいつでもやりますよ?」
「えっ!? 貴女舐められるの?」
「えっ! い、いや……そっちじゃなく、耳かきやマッサージの方です!」
「あ、あぁ……そっちね」
ビックリしたわ……いやもちろん舐めてもいいというのなら柚子に舐めて欲しいけれど。
「というか耳かきなら今からお願いしようかしら。何もお手入れせずにリラクゼーションに行くのは失礼かもしれないしね」
「わかりました! お任せください!」
というわけで柚子の膝枕を再び味わえることに。やっぱりわたくし、天才ですわね。こういうところでも頭が良く回りますわ。
「じゃあ失礼しまーす……ってあれ?」
「ど、どうしたの?」
まさか……そんなに汚かったかしら?
「い、いえ。まったく耳垢がないのでビックリしました。反対向きになってもらえますか?」
「えぇ」
ゴロンと転がって向きを変える。
「……アリス様、耳かき必要ないんじゃあ……」
「え? そちらの耳にもないの?」
まさか……運命レベルで垢とかを消してくれる体なのかしら。だとしたら……まぁさすがわたくしね。汚いところなんてないということよ。
「あ、リラクゼーションの時間ですね。行きましょうか」
「え、えぇ!」
多少戸惑いはあるけれど綺麗なのはいいことよね。うん。




