53話 騎士団本部ですわよ
しばらく谷底の道を歩いたらようやく【エクトル】の街へたどり着いた。
「ようこそ。ここが人類と魔王軍との戦争の最前線であり、我々【白百合騎士団】の拠点となる【エクトル】です」
【エクトル】の街は……【イリス】の街と比べて暗い。実際の光度の話ではなく雰囲気が、の話。まぁ……最前線なのだから仕方ないのでしょうけど。
「一般人も住んでいるのね」
「もちろんです。最前線を支える街であって、ここで戦っているわけではありませんから。……たまにここに魔獣を送ってくることもありますが」
まぁそれは【白百合騎士団】が倒しているのでしょう。街の人たちは騎士団を信じきっているのか、不安そうな顔をしているものは少ない。
「ではご案内します。こちらに【白百合騎士団】の本拠地がありますので」
言われるがままメルトさんについていく。するとしばらくして大きな白い建築物が見えてきた。あれかしら? どこか既視感があるのだけど、何でしょう。
「アリス様、なんだか学校みたいですね」
「確かに。そんな雰囲気があるわ!」
そう、わたくしと柚子が一緒に通っていた学校、[お伽話小学校]に似ているのよ! 白を基調としているところとかね!
「さぁ、どうぞ中へ」
メルトさんに促され、中へ。ずいぶん現代的な建物ね……。
「お帰りなさい! メルト様」
ロビーにいた小さな女の子がメルトさんに駆け寄る。
「ただいま。ちゃんと留守は守っていてくれた?」
「はい! もちろんでございます!」
「あら、思ったより早かったわね」
続々と人が出てくるわね……と思ったら目を惹く白い髪……ルカさんね。
「ふ、副団長!」
メルトさんはルカさんが出てくるたびに驚いている。ということは普段はそう易々と出てくる人ではないのね。
「こんにちはアリスさん、柚子さん。こちらで入団の手続きを……」
「仮の、ですわね?」
「……食えない人ですね」
人のこと言えたものではないでしょう。一体その微笑の先に何を考えているのやら。
「ではこちらで仮の入団手続きをさせていただきます。期間は今日より4ヶ月。よろしいですね?」
「えぇ。間違いありませんわ」
「というか副団長! こんな所にいてもよろしいのですか?」
「大丈夫よ。今戦場にはエデンがいるもの」
「だ、団長自ら……?」
団長……エデンさんというのね。
「さぁ、早く仮入団をして戦場に出ましょうか。幹部を目指されるのなら戦場で戦果を挙げてもらわないとですし」
「……それが幹部になる条件ですか?」
「えぇ。一定以上の戦果と、幹部との直接決闘による勝利、団長・副団長による認証を得て初めて席が置かれます」
「うひゃあ……遠い道ですね……」
複雑な道を用意したものね……。でもそれが決まりだというのならさっさと戦果を挙げて決闘を申し込むことにしましょう。
手続きには時間はかからずスムーズに行えた。メインで動いてくださったのが副団長のルカさんだから、とういうのも要因としてありそうですわね。
「はい。これで2人とも正式な【白百合騎士団】の一員です」
「服装とかに縛りはないのね」
「はい! 一応用意はありますけど自由です。幹部になればそれ相応の節度ある服装が求められますが……お2人は大丈夫ですね」
その「大丈夫」の言葉には幹部になってもその服装で大丈夫という意味と、貴女達では幹部になれないから大丈夫という2つの意味がこもっている気がするわね。
「さて、戦場とやらに連れて行ってもらおうかしら?」
「えぇ。こちらへどうぞ」
「えっ! もう戦いですか……」
珍しく柚子がしょんぼりとしているわね。どうしたのかしら。
「不服なの?」
「あっ その……もっと新しい街って楽しいことをするイメージだったので……」
あぁ……そういえば【イリス】ではお昼ご飯を食べるところから始まりましたわね。
「仕方ないでしょう。最前線にきてしまったのだもの」
「それなら楽しい方からやりますか?」
「へ?」
ルカさんから謎の提案を受ける。
「お2人のお部屋のご紹介からしましょうか? 戦闘後にご紹介しようかと思いましたけど、今からでもいいですよ?」
ルカさんがニコニコしながら甘言を吐く。幹部に就かせるのを少しでも遅らせたい意識が見えるわね。
「まぁ戦場に焦って行くこともないでしょう。お部屋から紹介してもらおうかしら」
それなら逆に乗ってやるわ。わたくし、実は負けず嫌いなのよ?
お部屋は別館に用意されているみたい。まさに学校のような渡り廊下を歩いてちょっとのところでルカさんが足を止める。
「相部屋でもよろしかったですか? もしご希望があれば別室に……」
「相部屋でお願いします!!!」
「は、はい……」
しまった。つい大声になってしまいましたわ。はしたないことをしてしまったわね。
ガチャっと部屋のドアを開けるとなかなかいい雰囲気のお部屋が。なんというか……庶民の方が泊まるホテルのようですわ。こちらも白を基調としたお部屋。白が好きなのね。誰の趣味なのかしら……。
「ではお部屋の確認をなさってください。何かあったらまた30分後にお迎えにあがるのでその時に。では」
一礼をしてルカさんが部屋から出て行く。さて……ようやく柚子と2人きりね。
「何かお部屋に不備はあるかしら?」
「うーーん、無さそうですよ?」
たしかに見る限り特に不備は感じない。本当にホテルの部屋のよう……まぁテレビとかはありませんけど。
「あ、ベットふかふかですよ♪」
柚子がベットにダイブしてもふもふしている。……可愛い。え……何この生き物。尊すぎる……。
「アリス様もどーぞ? ふっかふかですよ!」
「そ、そう……? じゃあ失礼するわね」
おお! たしかにふわふわなベットだわ! 日本にいた頃を思い出せるわね。まさか異世界に来てこのふわふわが味わえるだなんても思ってもいなかったわ。
というか……今気がついたけどダブルのベットがお部屋に1つしかないのね。これは不備……ではないわ! 柚子は気がついていないようですし、わたくしも知らないフリをしましょう。
ということは当然、寝るときは同じこのベットで寝るのよね? ……もう結婚したも同然じゃない! ふふ……にやけが止まらないですわ。
「……アリス様? 何か楽しいことでもありました?」
「えっ!? な、なんでも無いわよ?」
いけないいけない。そんなすぐわかるほど顔に出ていたのね。はしたないわよ、アリス。
「そういえばご飯とかどうするでしょうね」
「さっきロビーで食堂が見えたわよ? 社食みたいなスタイルなんじゃないかしら」
ほへーという様子の柚子。やっぱり異世界に来てから柚子の注意力が少し下がってるわよね……。これはちょっと問題だわ。警戒力を上げるようにわたくしが導かなくては。
柚子と軽く雑談をしていたら部屋のドアが3回ノックされ、ルカさんが入ってくる。
「失礼します。不備等ありませんでした?」
「え、えぇ。問題無かったわよ?」
ベットが1つなこと以外わね。……もしかして本当に不備なのではなくて恋仲だと思われているのかしら? だとしたら恥ずかしいわね。
「さて……これから戦場C地区というところへ向かいます」
「C地区……区分けをしているのね」
「はい。A〜Eまで。一番戦闘が激しいのがA地区、この【白百合騎士団】の本部があるここがE地区になってます」
ということはそこそこの戦いを覚悟しておく必要があるようね。柚子は……いい表情だわ。
「では、向かいます。C地区以上には稀に魔王軍幹部が現れることもあるので、注意してください」
それなら話は早い……いや、これまでの【魔蛇】と【魔人】は冒険者の芽を摘むための幹部。これから戦うのは一流と戦っている幹部というわけだから、恐らく強さも跳ね上がっている。……一筋縄ではいかないのは間違いないわね。




