51話 いい雰囲気ですわよ
ユリアン、ロマン、ニコラに別れを告げ、柚子を抱きかかえて飛翔し、【アトロン島】へと帰る。疲れたわ……。【イリス】にいたのは数日だけど、全部にいべんとが詰まっていたわね。詰め込みすぎてパンクしそうよ。
でも何はともあれ【魔蛇】【魔人】を討伐することができた。残るは5人……このペースなら1年以内で日本に帰れそうね。
……なんてね。最前線を知らないからそんなことが思えるんだわ。この先に待つこの世界の本当の戦い。いったいどんなものなのかしら……。
「アリス様、今日は私が夕食を作りますね」
「いいの? ありがとう、柚子」
まぁ堅苦しいことは今は忘れて、限られた柚子との2人きりの時間を大切に過ごすこととしましょう。……そうでもしないとやってられないわ。
ようやく【アトロン島】へ到着! 疲れていると移動の時間が長く感じるわね。
「ふぅ。そういえば【白百合騎士団】にいる間はこの島に帰ってこれるのかしら」
「流石にお休みくらいはある……と信じたいですね」
人間を守るんだという正義感から休みを0にしている可能性も無くはないわね。もしそうだとしたら中央をわたくしが乗っ取って変えてやればいいのだけれどね。
「さぁーて、料理しますよ! アリス様、『ストレージボックス』をお願いします」
「えぇ。『ストレージボックス!』」
黒い渦を巻いて保存庫が出てくる。柚子が顔を突っ込んで何があるかを確認するけれど……ほとんど野菜じゃないかしら。
「なんか……偏ってますね。緑色に」
「えぇ。ロマンセレクトの野菜よ」
「んー……野菜炒めでいいですか?」
まぁ選択肢はそれくらいしかないわよね。さて、一応冒険者カードを確認しておきましょうか。
【魔人】は【魔蛇】のように光る玉を体から出さなかった。というより死体が残っていない。まぁ……元から骸骨だから死体みたいなものなのだけれど。
「……あるわね。しっかりと」
≪name:アリス age:17≫
・個人Lv100
スキル・魔法
・偽装Lv100
・隠蔽工作Lv100
・吸収力Lv100
・サバイバルLv80
・飛行Lv70
・ストーキングLv20
・応急手当Lv13
・剣術Lv8
・絢爛の炎Lv8
・スキャンLv7
・ストレージボックスLv6
・ウィンドLv4
・フレイムLv3
・ライトニングLv3
・ダークネスLv2……and more
≪特記:天性の才能の持ち主。眉目秀麗。○○≫
しっかりと特記欄に○が1つ増えている。やはり魔王軍の幹部を討伐した証みたいね。
「アリス様ー! ご飯ができましたよ」
「ありがとう。いただくわ」
野菜炒め、ご飯、お野菜の入ったお味噌汁。ヘルシーなメニューね。でも柚子の作ったものだと思ったらどんなご馳走よりも嬉しいわ!
「うん、美味しい!」
「良かった〜。異世界のお野菜も使ってみたんですけど扱いが難しくて……」
初めてだものね。当然、戸惑いもするわよ。
「明日から【白百合騎士団】の一員になるんですね……なんかまだ実感がわかないというか」
「わたくしだって同じよ。でも……運命はこうやって回り始めた。ならついていくしかないわよ」
「そうですね。どんな辛いことがあっても、アリス様となら乗り越えていけます!」
「柚子……!」
嬉しいことを言ってくれるじゃない! それになんだか……いい雰囲気だわ!
「それに騎士団って異世界ポイント高いですからね! ちょっと楽しみだったりするんですよ!」
「柚子の興奮するポイントがだんだんとわかるようになってきたわよ。幹部になるのもポイント高いのでしょう?」
「えへへ……王道なんですよねぇ」
ふふん♪ やっぱり柚子のことはちゃんとわかるようになってきたわ。
水浴びをして、干し草のベッドへ。
「……ここは星空も綺麗ね」
「そうですね。東京だとなかなかこんな景色にはお目にかかれないですよね」
「ねぇ柚子、わたくし……最近ここのことも好きになってきたわ。柚子との異世界生活も、ユリアンやロマンとの冒険も。柚子はどう?」
「私は最初から楽しんでいますよ。だって……隣にアリス様がいらっしゃいますからね」
お互い干し草のベッドで横になって見つめ合う。もしわたくしたちが恋仲だったら、キスのひとつでもするのでしょうね。
「ふふ……アリス様、これからも楽しくなるといいですよね」
「そうね。でも……わたくしは何としても日本を導く存在になるのよ」
「……はい。わかっています」
「その時に隣にいるのは柚子、貴女がいいわ」
これ……遠回しな告白にも聞こえなくはないですわね。ちょっと小恥ずかしくなってきましたわ。
「私も……ずっとアリス様のお隣で……」
「……柚子?」
「スゥー……スゥ……」
「まぁ……忙しかったものね、ここ最近」
スヤスヤと眠る柚子の顔に癒される。なんだか疲れが飛んでいく感じがするわ。
……起きていないわよね?
「だ、大好きよ、柚子。誰よりも」
小さく紡いだ声は【アトロン島】の空気になって消える。わたくしの愛の言葉……願わくば次は柚子が起きている時にかけられたらいいわね。
朝日が差し込む。その眩しさで強制的に目を覚まされるのがこの島唯一の難点ね。
「おはよう、柚子」
まだ隣で眠る柚子にあいさつをする。昨日の愛の言葉を思い出して体温が上がる。ちょっと恥ずかしいですわ……。
「んん……おはようございます……アリス様」
むにゃむにゃと眠たそうな顔をしながら柚子が起き上がる。これは朝ごはんはわたくしが作った方がよさそうね。
慣れた手つきで朝ごはんを作り、ササっとかきこんだら出発の時間ね。
「さぁ行くわよ柚子。準備はいいかしら?」
「はい! というか……特に持っていくようなものもありませんよね……」
「そ、そうね」
基本物は『ストレージボックス』に入れるようにしているし、忘れ物とかは発生しないわよね。
「では……飛翔!」
慣れ親しんだ【アトロン島】にしばしの別れを告げ、飛び立つ!
十数分で【イリス】の領主塔に到着。すでにメルトさんはいるわね。
「おはようございますメルトさん。いい朝ですわね」
「おはようございます!」
「……どうも。では行きましょうか」
……冷めているわね。何故かわたくしたちのことを嫌っている様子があるもの。まぁ……わたくしのやり方に不満があるのかもしれないわね。それだとこの先生きていけないわよ? だって……【白百合騎士団】すらもわたくしの傀儡になってもらうんですもの。
「それで? 【エクトル】の街へ向かうにはどうやって行くのかしら?」
「徒歩です。割と近いので。小一時間ほどで着くでしょう。……何も起こらなければですが」
「そう。なら何も起こらないことを願うだけね」
そういえばこの子、わたくしが≪スキャン≫をかけた時隠蔽工作を使っていたのよね。個人レベルと隠蔽工作のレベルをあわせて100以上になるほど育てているのかしら。
今日はメルトさんは甲冑を着ていない。もしかしたらあの甲冑に何か秘密があったのかもしれないわね。
「……≪スキャン≫」
こっそり後ろから≪スキャン≫をかける。どれどれ……
≪メルトLv33≫
やはりね。あの甲冑がわたくしの≪スキャン≫に対しても効くほどの隠蔽工作の効果があった。さらに『スリープ』を防ぐこともできる。つまり神器級である可能性が高いということ。それを五番目の幹部にまで渡せる【白百合騎士団】の兵力……少し楽しみじゃない。
「ここの細道を渡っていけば【エクトル】です。道中岩陰から魔獣が現れることもありますのでご注意を」
「えぇ。わかったわ」
さぁ……待っていなさい【白百合騎士団】。あなた達の持つ情報すべてを、奪い取ってみせるわ!
2章完結です。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。




