50話 みんな起床ですわよ
「ほら起きなさいユリアン、ロマン。ニコラも!」
眠るユリアンとロマンを揺さぶって起こそうと試みる。まったく……人が戦ったり話し合いをしている時にこの子たちは気持ちよさそうに寝て……!
「アルカスさん、クリスさん、リョウさん! 起きてくださいよぉ〜!」
なかなか起きないわね……荒っぽいけどアレで起こすしかないようね。
ユリアンのポケットから手裏剣を1つ頂戴する。さぁイメージの時間よ。手裏剣が着地した瞬間に爆発するイメージを持って……
「『忍法:爆裂手裏剣!』」
ユリアンの魔法を発動! 修行を積んできたわけではないからか思うようには飛ばず、少し手前で着地し、ドカン! と爆発した!
「うひゃあ!?」
その爆発音でようやくみんな目が覚めたようね。
「あれ……どこだ? ここ……」
リョウさんはいつから【魔人】に乗っ取られていたか聞く必要がありそうね。
「リョウさん。いつからの記憶が飛んでいますか?」
「んー……お前らが温泉に行くとか部屋から聞こえてきたからアタシも温泉に行こうと思った時からの記憶が……」
そこからなのね……。思ったより最近のことで良かったわ。
「ってあれ? 【魔人】はどこなのです!?」
「なんだか身体がダルくて重いです……」
ユリアンとロマンも状況を掴めていない様子。
「落ち着きなさい。【魔人】はわたくしと柚子で倒したわよ」
「そ、そうなのですか!? 何も力になれず申し訳ないのです……」
「でも流石です。アリス様、柚子さん!」
「えへへ〜」
ロマンの褒め言葉にデレデレの柚子。おっと、柚子を眺めている場合じゃなかったわね。アルカスさんとクリスさんが何が何だかといった様子だわ。
「……意識はハッキリとしてます?」
「……あぁ。何が何だかサッパリだが」
「何か夢を見てるみたいですー!」
2人とも事情を知らないものね。できれば知らないまま解散したいところだけれど……まぁそういうわけにもいかないわよね。
「みんな一度落ち着いてわたくしの話を聞いてもらえるかしら?」
混乱するみんなをまとめ上げ説明をする。あの骸骨騒動は【魔人】が仕組んでいたこと。【魔人】がリョウさんの身体を乗っ取ってわたくしたちに接近していたこと。【魔人】をわたくしと柚子で倒したこと。【白百合騎士団】のこと以外はすべて包み隠さずに話した。
「なるほどな……チッ。勝手にアタシの身体に住み着きやがって。家賃を払えってんだ」
そこじゃないと思うのだけれど……まぁいいわ。
「流石なのじゃ師匠! まさか本当に【魔人】を倒してしまうとは!」
「さて、これ以上話すことは何もないわ。ここで解散としましょう。ユリアン、ロマン、ニコラはここに残って頂戴」
「「「はい」」」
もうみんなの前で領主を呼び捨てにしても良さそうね。魔王軍幹部を倒した者だもの。これ以上何をしたって驚かれやしないわ。
「……最後に聞かせてもらってもいいか?」
アルカスさんが去り際に呟く。
「何ですの?」
「何者なんだ。お前達は。魔王軍の幹部を倒せる奴なんて……」
「わたくし達は……異世界人。遠い遠い世界からやってきた、日本人ですわ」
「……そうか。もういい」
納得したのか、していないのかはわからない。でもそれをどう捉えるかはアルカスさん次第ね。その上で今後の冒険者人生にどう影響するのか……ちょっとだけ楽しみかもしれないわね。
「さて、ユリアン、ロマン、それからニコラ。1つ話があります」
残った3人にわたくしと柚子から【白百合騎士団】への入団の話をしなければならない。それと、今後のこともね。
「3人は【白百合騎士団】というものを知っているかしら?」
「当然なのです! 人類最強の冒険者パーティ……いや、その規模から軍隊とまで言われるほどの集団なのです!」
「別名[救世騎士団]。あ、あの人たちが負けたら人類は終わりだと言われています。まぁ今はアリス様がいらっしゃるのでそんなことないと思いますが……」
「それで? その【白百合騎士団】がどうしたのじゃ?」
ふぅん……知名度はそこそこ高いようね。それにしても世界を救う騎士団……。大ごとじゃないの。
「わたくしと柚子はその騎士団から入団しないかと誘われたの」
「え、えっー!?」
「いやでも……普通かも。だってアリス様と柚子さん、とんでもなく強いし」
「師匠なら【白百合騎士団】くらい1人で壊滅できるのであろう?」
「……それはわからないわよ」
あの副団長のルカさん、相当の実力者。ということはそれを超える団長は……。
「本題に戻すわね」
「ちょ、ちょっと待って欲しいのです! まさかアリス様、入団するとかおっしゃるつもりなんじゃ……」
「ふふっ。よくわかったじゃない。入団することにしたわよ」
「え、ええっ!? あの……そうしたら私たちはこれからどうしたら……」
モジモジと言いにくそうなロマン。ちょっとその仕草可愛いわね。
「安心なさい。入団すると言っても4ヶ月のみよ。わたくしたちの持っていない情報を彼女たちはたくさん持っている。その情報を根こそぎ奪い取って帰って来るつもりよ」
「き、期限付きということですよね? よかったぁ……」
わたくしは行動を共にすると決めて数日でバイバイさようならお元気で。とする人に見えるのかしら……。ちょっとショックだわ。
「というわけで、ニコラ。あなたに修行をつけます」
「む! お任せくださいなのじゃ! して、内容は?」
「内容は、わたくし達が戻ってくる4ヶ月後までにユリアンとロマンを一流の冒険者に育てあげることよ。いいわね?」
「……ほへ?」
固まってしまったニコラ。そんなに驚きだったかしら。
「何を固まっているのよ。そんなに難しい言葉を使った覚えはないのだけれど……」
「そ、そうじゃないのじゃ! なぜ妾がこのガキ達の修行を!?」
「が、ガキとはなんなのですか!」
「ゆ、ユリアン! 落ち着いて!」
混乱するニコラと、怒れるユリアンとそれを止めるロマン。なんだかここ3人でもなんだかんだ上手くやれるパーティになりそうね……。
「わたくしが貴女に大事なユリアンとロマンを預けるのに理由はちゃんとあるわよ。まず貴女は自分では気がついていないようだけど、人を導く才能がある。時々雑だけれどね。そしてもう一つ。貴女は純粋に強い。その上まだまだ向上意欲がある。師匠にはぴったりだわ」
ちょっと褒めすぎたかしら。これで調子に乗られると面倒なのだけれど……。
「し、師匠……よし! そういうことなら承るのじゃ! こやつらを一人前の冒険者に育て上げてみせるのじゃ」
「えぇ。よろしくね」
「わ、私は嫌なのです! アリス様について行きたいのです!」
「わ、私もです……!」
ユリアンとロマンは年相応に反対する。その気持ちもわからなくはないわ。でも……
「いい? ユリアン、ロマン。これからわたくしに付いてくるということはもっともっと危険があるということよ。今日みたいに強制的に意識を失うこともあるかもしれない。それに対抗するには強くなるしかないの。わかるわね?」
「「は、はい……」」
「ニコラは所々雑だけれど、わたくしが選んだ最高の師匠役よ。わたくしが信じたニコラを信じて、4ヶ月間己を磨きなさい。いいわね?」
「「……はい!!」」
「いい返事よ。じゃあわたくし達は明日の朝【エクトル】の街へ向かうわ。ここで解散としましょう。じゃあ4ヶ月後、楽しみにしているわよ、3人とも」
「うぅ……ユリアンちゃん、ロマンちゃん、元気でね……!」
柚子……全然喋らないと思ったら泣くのを我慢していたのね。
「アリス様達も頑張ってくださいなのです!」
「最前線なので……気をつけて!」
「えぇ。あ、そうだロマン……」
わたくしの口をロマンの耳元へ近づける。
「例の取り引きは4ヶ月後までのお預けね、覚えておくから安心なさい」
「は、はい!」
よろしい。さ、今日は【アトロン島】に帰って、ゆっくりしましょう。明日から忙しくなるでしょうしね。




