4話 最強ですわよ?
「少しぶりですわね」
「あっ、先程の!」
「ええ。200円。これでいいかしら」
「はい! それでは2人分の[冒険者カード]を作らせていただきますね。こちらの待合室でお待ちください」
言われた通り待合室に入って5分くらいで受付の人がメガホンのような道具を持って入ってきた。
「こちらは冒険者カードを作るのに必要なマジックアイテムの[スキャンメガホン]です。これを一回照射することで冒険者カードに情報が記載されますよ」
「あら。楽でいいわね。わたくしたちは立っているだけでいいの?」
「はい! ではどちらからいきましょうか?」
「ではわたくしからお願いしますわ」
「カードの内容の説明は後でしますね。それでは失礼します3・2・1……パン!」
パシャっとカメラのシャッターのような音が聞こえたと同時に発光する。不思議なことに次の瞬間にはA4サイズのカードと呼ぶには少し大きい冒険者カードがでてきた。現代日本にも欲しいわね。
さてと……なになに……
≪name:アリス age:17≫
・個人Lv100
スキル・魔法
・偽装Lv100
・隠蔽工作Lv100
・吸収力Lv100
・サバイバルLv80
・飛行Lv65
・ストーキングLv20
・応急手当Lv13
・剣術Lv8
・絢爛の炎Lv4
≪特記:天性の才能の持ち主。眉目秀麗≫
随分と数値にばらつきがあって掴みにくいわね。
じっくりとわたくしがカードを眺めている間に柚子も冒険者カードを発行したようで数値に一喜一憂している様子。
「こちらで数値を登録しておきたいので教えていただけますか?」
……ちょっと個人Lv100というのが引っかかるわ。虫の知らせというやつかしら。
「みなさんどんなレベルですの?」
「だいたい一般人の成人男性で個人レベルが平均3くらいです。駆け出し冒険者ならレベル5くらいですかね。中堅どころならレベル10、上級者なら20、英雄の領域だと40レベルで現代最高レベルが55と言われています。真偽は不確かですが……」
なるほど…わたくしの個人Lvは100……その話だととんでもなく人外なLvね。これはちょっと真実を伝えるのは混乱を招きそうですわね。なら……
「わたくしのLvは12でしたわ」
「すごい! 駆け出しで2ケタレベルですか! これは大物の予感ですよ!」
「え?Lv12? アリス様本当は……ムゴゴッ!?」
口を滑らせそうになる柚子の耳元で囁く。
「いい柚子。ここで騒ぎになると自由に動けなくなるわよ。ここは慎重に周りに合わせるのよ。あなたLvは?」
「個人が65です……」
「あなたはLv9ということにしておきなさい」
「カードはどうするんですか!」
「シッ! 声が大きいわよ。カードは私が偽装するわ」
納得してない様子だけど今はもういいわ。とにかくわたくしの方で進めてしまいましょう。
「あの〜えっと……?」
「あ、悪かったわね、この子は個人Lvは9よ」
「すごい! 高Lvペアじゃないですか!」
「ふふっ」
……レベル12と9でこの驚き様。本当はLv100とLv65のペアだと言ったらどんな反応するのかしら……。
「カードを見せていただいてもよろしいですか?」
「え?え、えぇ!」
「アリス様! どうするんですか?」
「ま、任せなさい。隠蔽工作はお父様譲りでしてよ」
サッと待合室にあった紙とペンで机の下で偽装開始。自作の冒険者カードにはLvをひと回りもふた回りも下げて書いた。机があって助かったわ。堂々と目の前で偽装はいくらなんでも不可能でしたもの。
「どうぞ」
「ふむふむ……かなーり優秀なのは一目でわかりましたよ! 個人Lvだけじゃなくてスキル・魔法Lvも高水準です!」
「スキル・魔法のLvは何を意味しているのから?」
「個人のLvと同じで上限は100です。この個人Lvにスキル・魔法レベルが足されたものが発動した時の合計Lvになるんです! 例えばアリス様がこの魔法『絢爛の炎』をお使いになられたら個人の12Lvと魔法の4Lvを足した16Lvの効果が期待されます」
「ふむ」
「わかりやすくまとまった資料がありますのでお帰りになられた時お読みください」
「親切にどうも」
初めから資料で受け取っておけば良かったわね。人と話すより読む方が慣れていますし。
「本登録は1日かかってしまうので明日までカードをお預かりしてもよろしいですか?」
「えぇ。構わないわよ」
「ありがとうございます! それではまた明日お越しください」
市役所を出ると柚子がムスッとした顔をしているのを確認した。さて、どうしたものかしらね。
「何をそんなにむくれているの? 帰るわよ」
「だって……こういうのは最高Lvを出してみんなにチヤホヤされるのが王道じゃないですか!」
「どこの世界の王道かは知らないけど……。帰るわよ」
「帰るって……どこにですか?」
あら?わたくしたちの愛の巣のことを忘れたのかしら。薄情ね。
「3年暮らした我が家があるじゃない」
「えぇ……せっかく異世界に来たのにまた無人島生活ですかぁ!?」
「文句言わない。さ、飛ぶわよ。クンクン……」
うん! 女の子の香りね。もう飛行なんて予備動作なしにサラッとこなしてしまう。そういえば隠蔽しなかったら飛行はLv65でしたっけ。もっと成長の余地があるということね。
さて無人島に無事に帰ってきて柚子が晩御飯の支度をしている間にもらった資料を読む。
[冒険者手引き書]
・スキルや魔法は各Lvと個人レベルの2つの合計値が発動したスキル・魔法のLvになる。
例①:個人Lv100の者の『フレイムLv20』
例②:個人Lv80の者の『フレイムLv50』
①の合計Lvは120 ②の合計Lvは130のため②の魔法が競り勝つ。
なるほど……個人Lvだけ高いのでは負けることもあるということね。注意が必要だわ。
「アリス様ー! ご飯できましたよー!」
「ありがとう。今日は何?」
「鮭が海で釣れたので塩焼きにしました!」
鮭がこんな浅瀬で……? もう深く考えるのはやめましょ。異世界ですものね。
「それにしてもすごいですね! Lv100だなんて!もしかしたら魔王も赤子の手を捻るように倒せるんじゃないですか?」
「そうはいかないみたいよ。御覧なさい」
先ほど読んだ資料を柚子に手渡す。じっくりふむふむと呟きながら読んで……
「魔王がLv100で魔法やスキルもLv100だと厳しいってことですね?」
「そうなるわね」
はぁ。ままならないものね。ただ今日は大陸を見つけ、自分たちがどこにいるかわかっただけでも前進ですわ。
「さ、明日は早いわよ」
「そうですね。もうお休みになられますか?」
「えぇ。新しい環境に……ちょっと疲れたわ。おやすみなさい、柚子」