47話 vs魔人ですわよ①
「……何がおかしいのかしら?」
リョウさんの皮を被った【魔人】に問う。薄く不気味に笑う【魔人】はすぐにケロっとした顔を作り……
「なんでアタシが【魔人】なんだよ? 笑かすなよなぁ〜」
「そう……あくまでアナタはリョウさんだというのね?」
「ちょ、ちょっと待ってください! アリス様!」
柚子が大慌てで話を遮る。まぁ次に言うことはだいたい察しがつくわね。
「ど、どうしてリョウさんが【魔人】なんですか!?」
「まぁ……確証はないに等しいわよ。ただ……おかしいとは思わない? あれだけ自分のことを語るのが好きなリョウさんが、ひと目で冒険者とわかるわたくしたちに初めて会った時に自分も冒険者とは言わなかったなんて」
「あっ! た、たしかになのです!」
「言ってなかった……ですね!」
そう、初めてリョウさんに出会った時に自分のことをやけに詳しく語る人だと思った。でも……たしかに冒険者だとはひと言も言ってなかったわ。
「それだけでアタシが【魔人】と疑われなきゃいけねぇのか!?」
「それだけではないわよ?」
そう言いながら、わたくしはリョウさんの杖を指差す。
「……あ?」
「街に被害を出さないのが前提として戦う時、魔法主体では街を傷つけるからと、リョウさんは戦闘に参加しなかったわよね? だって"超級"アイテム持ちですもの」
「おう。それがどうした?」
「武器屋の妹がいるわよね? その武器はどちらで買われたのかしら?」
「当然妹の店さ!」
「そう……みんな、武器を構えなさい!」
その言葉にまず柚子が[ムラクモ]を抜いた。柚子も、わかったようね。
「ちょ、なんでだよ!」
「ふふ……残念だったわね、【魔人】。妹のライカさんのお店に、超級アイテムが入荷したことは一度たりともないのよ!」
「……へぇ。そうかいそうかい……」
薄く笑みを浮かべる【魔人】。
「まさか自分語りが趣味な女を依り代にしてしまうとは……こりゃ失敗じゃったのぉ……」
「えっ!」
声が……変わった。老いて枯れた男の声に。柚子が驚きの声をあげる。
「この依り代にもう用はない。儂の偵察は終わりよ! はっはっはっ!」
勢いよく笑うと【魔人】はリョウさんの身体から飛び出してきた。リョウさんの身体はすぐ横たわるけど生きてはいるみたいね。
「くるわよ!」
「さぁて……少し揉んでやるかの。魔王軍たちが警戒しておるというその実力、見せてもらおうではないか」
「……≪スキャン≫」
≪魔人Lv69≫
レベル69……! 強いわね。
「みんな警戒を! 【魔蛇】より強敵よ!」
アルカスさん、クリスさん、ニコラは何が何だかという様子。甲冑姿のノメドは驚くことも警戒することもしない。【魔蛇】と戦った経験を持つわたくし、柚子、ユリアン、ロマンだけがこの後に待ち受ける命の奪い合いに警戒を強めていた。
「さてさてまずは礼からかの。儂は【魔人】」
悠長に自己紹介を始める【魔人】。どうやらこの中での圧倒的強者と勘違いしているようね。
「魔王軍幹部にして魔法王を務めるものじゃ」
黒いモヤが晴れていく……その姿がだんだんと明らかになっていく。……この姿は!
「ひっ……!」
ロマンが悲鳴をあげるのも無理はない。なぜなら【魔人】の姿は……
「怖いか小娘。この骸の儂が」
骸骨そのものだから。スカルローのようなチープな見た目ではなく、まさしく骸の王。圧倒的恐怖を振りまいていた。
「……『フレイム!』」
小手調べよ! ロクでもないことをされる前に、こちらから攻めてやるわ!
「無駄じゃ。『デスマジック』」
「なっ!?」
わたくしの炎が【魔人】の放出した黒いモヤに呑まれて消え去った。
「魔法で儂の右に出る者は1人も……いや、1人おったか。まぁ細かいことはよい。それよりだ……この戦いにふさわしくない者を除外せねばならんな。小さい羽虫も群れれば邪魔じゃからの」
「……何をする気なのかしら?」
「こうするのじゃ!」
【魔人】の白い骨で構成された腕が高く上がる。
「『スリープ』」
薄い水色の波動が一気に駆け抜けていった。……何も起こらなかったけれど……
「あれ……眠い……のです……」
「あ、あれ……寝ちゃダメなのに……」
「ユリアン! ロマン!」
2人が崩れ落ちて眠りについてしまう。
「チッ……なんだっ、コレ!」
「逆らえない……ううっ!」
「すまないのじゃ……師匠!」
バタバタとアルカスさん、クリスさん、ニコラさんが倒れていく。
「……」
そして遅れてノメドまで。まさか今の魔法……。
「一定のレベルに満たぬものを眠らせた、ということかしら?」
「ほおぉ……よく見抜いたではないか小娘」
「み、みんな……」
「安心しなさい。眠っているだけよ」
「ぬっはっはーはっ!」
【魔人】は何が面白いのか高らかに笑う。
「これは面白い。レベル40以上が2人か……。いやはや長生きしてみるものじゃ」
レベル40未満の者を眠らせた、ということね。なるほど……むしろ……
「むしろ好都合だわ。わたくしの全力をお見せできるのだもの」
「……ほう。なかなか肝のすわった小娘よの」
「柚子、力を貸してちょうだい」
「はい! もちろんです!」
[ムラクモ]を握る柚子の手に力がこもる。さぁ……魔王軍幹部2人目、討伐開始ですわよ!
「『フレイム!』」
「ふん。学習せぬ娘よ。『デスマジック』……なにっ!」
黒いモヤを貫通してわたくしの炎が【魔人】に襲いかかる。
「馬鹿な! ありえん!」
「気、抜いている場合かしら?」
「なぬっ!?」
怯んでいる間に当然柚子が突っ込んでいる。
「『紫電:一文字斬り!』」.
「くっ、『マジックシールド!』」
刀と盾がぶつかった瞬間、紫色のオーラが闘技場に波動状に広がる。
「ぐぬぬ……!」
「くっ……小娘ぇ!」
刀と盾で攻防を繰り広げる柚子と【魔人】。この勝負……柚子の勝ちね。
「力を貸して! [ムラクモ!]」
声に応えるように[ムラクモ]は放出した紫色のオーラを集め、刀身を紫色に染め上げた。
「はあぁっ!!!」
「ぬあっ!?」
盾を破った柚子。いいわよ! わたくしも……
「『ライトニング!』」
すかさず魔法を放つ。刀と魔法、同時に対応を求められた【魔人】は……
「甘いわ! 『ダークネスダイブ』」
「えっ!」
黒いモヤの中に潜り込んで攻撃を回避した。すり抜けた柚子が着地し、わたくしの横へ。
「……手強いわね。【魔蛇】よりも」
「そうですね。残念ながら……」
でも今のモヤに隠れる魔法はさっきも使っていないところを見るとかなり魔力を消耗するものだとわかるわね。
「ふむ……あの魔王様にレベルを授けられ、有望な青田を潰すだけが任務の蛇と同じに思われていたのなら不愉快不愉快……」
あら。どうやら魔王軍幹部たちは仲はよくないようね。
「1つ問うわ。あなた……いままで何人の人間を殺してきたの?」
「面白いことを聞くな、小娘」
【魔人】は両手の細い白骨の指をすべて広げ……
「これの100倍からは面倒で数えて居らぬわ」
「……そう」
さぁて……どう倒してやろうかしら。『絢爛の炎』で一撃なのだろうけど、あいにくここは地下。あんな高威力の魔法を放ったら崩落は免れないし、【イリス】の街にも被害が出てしまうかもしれないわね。だからといって中途半端な魔法で倒せる相手ではない……。
「やはりここはこれかしら? 『ストレージボックス!』」
闇色の渦を召喚し、手を突っ込む。当然取り出すのは漆黒の大剣。
「ほう……小娘、それで儂を斬るつもりか」
「えぇ。よく見ておきなさい。あなたを斬る、凶器となるものよ」
「必要ないのぉ。儂を殺せるのは魔王様のみじゃ」
【魔人】は指を広げ、柚子は[ムラクモ]に再度力を込め、わたくしは漆黒の大剣を構える。決着を、つけようじゃない!




