46話 魔人ですわよ
領主塔の外へと出ると、そこには地獄と呼んでも相違ない景色が広がっていた。
白骨型魔獣、スカルローたちが街中を闊歩し、破壊している。逃げ惑う街の人たち、立ち向かう冒険者、さながら戦争ね。
「アリス様、私たちも!」
「えぇ。やるわよ、みんな」
「「「はい!!!」」」
これだけの数を生み出しているということは、やはり間違いなく【魔人】か、それに匹敵する何者かによって魔力を供給されているのは間違いなさそうね。常に警戒しながら動かないと。
「ニコラ、先ほども言ったようにスカルゴールドを倒しなさい。透明な空間の歪みがあったらそこを思いっきり叩くこと。そうしたらスカルゴールドは現れるわ」
「了解なのじゃ!」
そう答え、すぐにスカルローたちの進軍してきている方向へと向かうニコラ。彼女のレベルは27だったかしら? ならそんなに心配することはないわね。むしろちょうどいいくらいのレベルじゃないかしら。
「よぉ。また会ったな」
「アルカスさんなのです!」
大きな鎌を駆使してスカルローをなぎ倒していく短く切られた銀髪の女冒険者、アルカスさんが近づいてきた。
「あら、偶然ですわね」
「まったくだ。そこにいるやつもな」
「おー! お客様ではないですかー!」
[温泉所:癒しの湯]の番台娘、クリスさんまで……。役者は揃ったということかしら?
「加勢すっぞお前ら!」
「リョウさん!」
どうやらわたくしたちの宿屋の主人、リョウさんまで駆けつけて、温泉メンバーは揃ったようね。
「『ウィンド!』」
「『紫電:一文字斬り』」
「『忍法:分裂手裏剣』」
「『忍法:辻斬り』」
わたくしたちは各自の魔法を駆使してスカルローたちの数を減らしていく。そろそろニコラもスカルゴールドを倒した頃かしら?
ならこちらから……
「みなさん、このままスカルローたちを街中にいさせては被害が甚大なものになってしまいます。領主塔の地下を利用しましょう」
「領主塔の地下を?」
アルカスさんから聞き返される。まぁ秘密の闘技場のようになっていたから、住民が知らないのも無理はないわね。
「そこにうまく誘い込むことができれば、街への被害は減らせるはず。どうです?」
「理屈はわかりましたー! でもでも、どうやってスカルローたちをその地下まで誘い込むんですか?」
うさ耳をしんなりさせてクリスさんが尋ねる。
「それは……わたくしたちが街の端からスカルローを倒して進み、逃げ場をこの塔だけに絞らせるの」
わたくし、柚子、ユリアン、ロマン、アルカスさん、クリスさん、リョウさん、ニコラの8人がいれば、8方向から追い込んでいくことが可能になる。
「事態は一刻を争いますわ。すぐに作戦を決行したいのだけれど……」
「いいぜ!」
「乗りましたー!」
「おっしゃ! やったるか!」
アルカスさん、クリスさん、リョウさんは同意してくれた。あとはニコラの帰りを待つだけね。
「お待たせしましたのじゃ!」
「遅かったじゃない。まぁいいわ。今から伝える作戦通りに動いて。わかりました?」
「う、うむ!」
よしよし、ちゃんと人前では領主然とした対応ができているわね。偉いわよ。
「まずここにいる8人で八方に散らばること。そこからこの塔に向かってスカルローたちを倒していく。ここに追い詰めたところでわたくしがなんとか地下へ追いやるわ」
そこはまだ具体的には決まっていないけれど、まぁ最終手段もありますしいいでしょう。
「アリス様……そこまでお考えだったのですか!」
「まぁ……これくらいわね。さ、すぐ行動よ! 【イリス】への被害を、最小限に抑えるわ!」
「「「はい!」」」
それぞれ方角を決め、散らばる。わたくしは北から塔を目指すことに。とまぁ、あたかも【イリス】に被害が及ばないことを1番に考えているように見せたけれど、実はそうではない。本当の目的は、あの中にいるであろう【魔人】を地下に幽閉すること。地下でならどれだけわたくしが力を使っても人目につくことはないですしね。
そろそろ出発しますか……。
「『ウィンド!』」
「ヌッ……!」
風に飛ばされていくスカルローたち。今の目的には最適な魔法ね。
続々と魔法で中央の塔へと集めていく。作戦は成功したようで徐々に街の人たちも窓から様子を伺うようになってきた。まぁ……救えたことに関しては悪い気はしないわね。
スカルローたちを誘導すること数十分。ついに塔までたどり着いた。
まだ誰もいないわね。あらかじめ数を減らしてしまいましょうか。
「『ライトニング!』」
「ヌオオッ!!」
雷で骨を打ち砕いていく。そんな作業をしている間にみんなが到着し始めた。
「よし。それじゃあ地下闘技場へスカルローたちを落とすわよ」
「でもどうやって……」
イメージするのは、スカルゴールドが使っていた透明になり、無干渉になる魔法。あれをレベル100のわたくしが全力でやれば……
「いくわよ! 『ワールドクリア』」
わたくしたちと、スカルローたちを囲んで透明化する。わたくしのイメージで作り上げた魔法は、地面すら干渉させなくなる。つまり重力だけがかかり……地面をすり抜けるということ!
「「「なっ!?」」」
地面をすり抜けたあとはすぐに魔法を解除。そうしないとこの星の真ん中まで落ちてしまいますからね。
「うへっ!」
「痛っ!」
まぁ……初めて使った魔法だったから少し強引な結果にはなってしまったけれど、無事地下闘技場へスカルローたちを転移させることができたわ。
「あなた達のボスの透明化を一度見ておかなかったら思いつかなかったしイメージもできなかったわ。礼を言うわね」
「ヌ、ヌゥゥ……」
わたくしの煽りにもしっかり反応を示すスカルロー達。意外にも知力はそこそこあるのね。
「さて、スカルローを倒しきるわよ!」
「「「「「はい!!」」」」」
「「おう!」」
全員の返事とともに戦闘再開。追い込まれて集められたスカルローたちに抵抗する手段はなく、ただただ狩り尽くされるだけだった。
「親玉のスカルゴールドすらもういないのかしら? だとしたら拍子抜けね!」
わたくしも漆黒の大剣を振り回してスカルローたちをバラバラにしていく。
蹂躙とも言える戦闘は約30分ほどで決着を迎えた。
「最後の1体なのです! えいっ!」
「ヌゥオ!」
ユリアンの手裏剣でとどめを刺された最後のスカルローもバラバラに砕け散った。
「いや〜お疲れ様です! 流石の名案でした、アリス様!」
「ふん、よしなさい。大したことでもないわよ。それと、[ムラクモ]はまだ抜いておきなさい」
「……はい!」
わたくしの言いたいことを察したのか、柚子は聞き返すことをしない。
「いつまでそこにいる気なのかしら? 名前は確か……ノメドさんでしたっけ?」
闘技場入り口の岩陰。そこにいたのは……甲冑姿の冒険者、ノメド。
「い、いつからそこに!?」
「というか誰なのじゃコイツは」
「それより、今の戦闘に手を貸さずにずっとそこでこそこそしてやがったのか?」
ロマン、ニコラ、アルカスさんがそれぞれの反応をノメドに示す。
「………」
どれだけの質問を受けても無反応。面倒ね。
「あ、アリス様……もしかしてアイツが……!」
「そう、【魔人】の正体は甲冑姿の冒険者、ノメド……じゃないわよ」
「えっ……」
「そうよね? 先程からずいぶん他人事のように話を聞いているだけの……リョウさん? いえ……そろそろ本当の姿を見せたらどうなの? 【魔人】さん?」
わたくしの言葉にリョウさん……いや【魔人】は
「ふっふっふっ……」
不敵な笑みで返すだけだった。
明日の更新はお休みさせていただきます。ごめんなさい!




