44話 推理ですわね
「≪スキャン!≫」
白い球体から出てきた、黄金の骸骨型魔獣にすかさずスキャンをかける。
≪スカルゴールドLv20≫
レベル20……そこまで強くはないけれどレベル9の白骨魔獣たちを大量に生み出せるのだから相当厄介な相手ね。それに周りに被害を出さないように戦うには難しい相手だわ。
「さて……わたくしの腕の見せ所ね」
普通に戦ってしまっては温泉街に被害が少なからず出る。それは避けたいわ。弁償と言われても金欠の身ですし。ただ先ほど大剣で軽く斬った時わかったように、手を抜いて倒せるほど弱い相手でもない。絶妙な力加減で倒す必要があるということね……。
「面倒なことだこと」
「ヌルゥゥ……」
黄金の骸骨型魔獣は呻きながらわたくしの様子を伺っている。わたくしからは動けないわね……。まったく、街にも気を使わないといけないなんて、心底面倒だわ。
「ヌルォォ!」
我慢の限界が来たのか、勝算があるのか、突然黄金の骸骨が動き出し、わたくしに向かってきた。
「好都合よ、せりゃあ!」
「ヌ!?」
日本で習っていた護身術の一種。骸骨をがっちりと掴み、投げ飛ばす。
「ヌッッ!」
「それは呻きかしら? それとも断末魔?」
「ヌゥゥ……」
地面に叩きつけられてもなお、戦う意思を示してくるスカルゴールド。
「ヌン!」
淡い水色に光り輝いたかと思ったらいきなりスカルロー達が生み出された。なるほど、そうやって魔法で生み出していたのね。ただ……レベル20でここまで生み出せるのかしら。わたくしの読みでは……。
「ヌッ!!!」
スカルローが投げた骨の一部が飛んできた。そんな攻撃も仕掛けてくるのね。
「危ないですわね」
危なげなく回避。まぁ、レベル9だなんてこんなものでしょう。ただ……バックにいるであろう存在に警戒しないといけないわね。
「『ライトニング!』」
レベル9のスカルローたちを相手しているほど暇ではないわ。雷を分岐させるイメージを持って、放つ!
「「「ヌッア!」」」
謎の断末魔をあげ、焦げ尽きるスカルローたち。さぁ、あとは大元、スカルゴールドのみよ。
「覚悟はいいわね?」
とは言うものの、レベル20のスカルゴールドに決定打を与えるほどの攻撃を放てば温泉街にも被害が及ぶ。内心どうすればいいのか珍しく焦っているのよ?
「ヌッ!!!」
「えっ!?」
驚愕の声が漏れる。なぜなら……
「……何をなされているのかしら?」
甲冑を着た冒険者、名前は確か……ノメドさんでしたっけ? 彼が、スカルゴールドを双剣で切り裂いたのだ。
「……」
わたくしの問いに、甲冑を着た冒険者は答えない。ただわたくしを見つめ、一度あざ笑うかのように顎を上げた。そして振り向き、去ろうとする。
「お待ちなさい。人の獲物を奪っておいて、何も言わずに去ろうというの? ずいぶん礼儀がなっていないわね」
「………」
その言葉にも、彼は何も答えるそぶりをみせずにそのまま去っていった。……何なのかしら。まったく。
「アリス様ー!」
向こうの方から柚子の声が……ってかなり遠いのによく通る声ね。一応手を振って安全を知らせましょうか。
みんなと合流すると満足気な表情を浮かべているものが多いのに気がつく。雑魚狩りとは言え、たくさんの魔獣を倒して温泉街を救ったのだから嬉しいのは当然ね。
「どけどけどけい!! アリス様ー! お怪我は無いですのじゃ?」
「……ニコラ?」
この街の領主、ニコラが走ってわたくしに飛びついてきた。
「骸骨で溢れとるというから妾が飛んできたのじゃ! でも……流石は我が師匠なのじゃ! すべて倒してくださるとは!」
あぁ……そういえば不本意ながら弟子にしたんでしたっけ。
「あのね、街中では貴女は領主然とした態度をとって頂戴。わたくしが怪しまれるでしょうが」
「は、はい。申し訳ないのじゃ!」
まったく……。まぁ領主として現場に急行する点、【アイン】の領主よりよほどマシなのは認めましょう。あの領主だと一番に逃げそうね……。
「それじゃあ妾は仕事があるから帰るのじゃ! 皆の者、よく【イリス】の宝、温泉街を守ってくれた! あとで報酬を遣わすぞ!」
あら、太っ腹じゃない。やっぱり全体的に【アイン】よりいい街ね、ここは。
そう言い終わったニコラは満足した様子で領主室がある塔へ帰っていった。
「さて……柚子、ユリアン、ロマン。帰るわよ。アルカスさん、クリスさん、ご機嫌よう」
「「「はーーい」」」
「あぁ。またいつかな」
「またのお越しをお待ちしてまーす!」
さてと……これから向かうのは宿じゃない。わたくしたちの楽園、【アトロン島】。
「みんな、飛ぶわよ」
「へ? お宿じゃなくてですか?」
「たまにはわたくしの料理を食べていきなさいな。美味しい野菜も、ロマンと買ったことだしね」
「お、お肉も食べたいのです!」
「はいはい。ちゃんとストックしてあるわよ」
よほど不安だったのかユリアンの表情がかなり柔らかくなった。対してロマンはそんなユリアンに少し不満を持っている様子。複雑ね……。
一人一人【アトロン島】へ運んでいく。やっぱり手間がかかるわねこの作業。早急に誰かが『飛行』を覚えてくれたら楽なのだけれど。
ようやく全員を島へ送ることができた。すっごく時間がかかったわよもう。まぁそれはいいわ。本題に入りましょう。
「さて……どうして宿でなくこの島に戻ってきたか、わかるわね?」
「はい」
「「えっ」」
……「はい」と答えたのは柚子。驚いた様子なのはユリアンとロマン。まぁ仕方ないわね。わたくしと行動を共にして日が浅いですし。
「なら柚子、2人に説明してあげなさい」
「はい! きっとだけどね、【魔人】がもう私たちに接触して来ているんじゃないかってことを、アリス様が伝えるために他人の目がないこの島へ帰ったんじゃないか……と私は思っているんですけど、合ってます?」
「完ぺきよ柚子。流石ね」
「えへへ……それほどでも……」
謙遜しきれていないわね……顔がにやけすぎだわ。まぁそれはいいでしょう。
「つ、つまり、今回温泉にいたメンバーの中に【魔人】がいた可能性があるってことですか?」
ロマンが鋭い質問をする。
「そうね。わたくしは今回の骸骨の親玉、スカルゴールドに出会ったのだけれどレベル20であれだけの白骨魔獣を生み出し続けていたの。そんなの不可能じゃないかしら。ユリアンみたく、途中で力尽きることなく永遠に召喚し続けるなんてね。おそらく……魔力的なものをスカルゴールドに供給していた者がいるはず。それが【魔人】だとわたくしは踏んでいるわ」
わたくし達の力を試すという意味でやった行動というなら説明がつきますしね。
「ということは……近くで私たちを見ていた人なのですか? えっと……アルカスさん、クリスさん」
「それから、甲冑を着たノメドという人も候補よ」
でも、わたくしの中でかなり怪しむには十分な要素を持っている者がいる。でも……決定打になるものはまだないわ。慎重にいかないとね。
「まぁ今考えても頭打ちだわ。とりあえずご飯を食べましょう」
「「「はーーい」」」
ロマンに勧められた野菜を炒めながら、ふと違和感に気づく。まさか……ね。いや……可能性から捨てきれないわ。
「アリス様? 焦げちゃいますよ?」
「ハッ! あ、危なかったわ……」
野菜を焦がしてダメにしてしまったらロマンがどれだけ怒るか……。想像しただけで怖いわね。ただ……見えてきたわよ、【魔人】。どうやら上手く隠れているつもりかもしれないけれど、そうはいかないわ。なぜならわたくし、天才ですからね。




