40話 ロマンと対談ですわよ
「はぁ。疲れたわ」
まさか普通に大剣で斬ろうとしただけでは無理だったなんてね。咄嗟に強化を思いついたから良かったけれどあと1秒思いつくのが遅かったらと思うとゾッとするわ。
「アリス様ー!!」
「ゆ、柚子!?」
柚子がわたくしに抱きついてきた! まずいわ! にやけ顔を抑えなくてはならないじゃない!
「ど、どうしたのよ……」
「だって! あのまま爆発してたらと思うと心配で心配で……」
柚子なりに心配してくれていたのね。それは嬉しいけれど……。
「わたくしにかかればどうということもないわよ。なぜならわたくし、天才ですもの」
そう、わたくしには不可能なんてない。……だから柚子を落とすことだって可能なはずだわ!
「「あ、アリス様……」」
申し訳なさそうにユリアンとロマンが近づいてくる。2人ともボロボロ。特にユリアンなんて力を使い果たしたのかフラフラと足元がおぼつかない。
「そんなに怯えることないわよ。あなた達はよく戦ったわ。レベル差がある相手にも臆さず、責任をなすりつけ合うこともなく、双子で協力して戦った。結果的には負けだけれど、今回の戦いは賞賛に値するべきよ」
そう、本当にこの2人はよく頑張ったわ。
「どう? マグマ蜘蛛にもかなりダメージを与えたユリアンはレベル上がっているんじゃないかしら?」
「ほ、本当だ! レベル11になっているのです!」
「あ、ありがとう……ユリアン」
ロマンがユリアンにお礼を言う。……なぜここでお礼なのかしら。
不思議そうな表情を察したのか、ロマンが説明をしてくれる。
「私たち2人はスキル『一連托生』で与えたダメージは均等化されるんです。だから私もレベル11になりました」
ロマンが冒険者カードを見せてくる。本当ね、レベル11と表示されているわ。
「なるほど……どこまでいっても運命を共にする双子ね。そういうのいいと思うわよ」
そう言うと2人の表情は少し柔らかくなった。良かったわ。
「さ、下山しましょうか。まだまだ油断しちゃダメよ。下山するまでがクエストですわ!」
「「「はい!!!」」」
下山道中では魔獣1匹と戦闘し、ロマンと柚子で対応。ロマンがたくさんダメージを与えたのと魔獣のレベルが24だったこともあり2人はまたしてもレベルアップ。下山した時には12となっていた。
下山したままの足で冒険者組合に向かう。といってもヘトヘトのユリアンを連れて行くのは酷だからと柚子と一緒に先に宿に帰らせた。
「はい。マグマ蜘蛛、討伐完了ですわ」
クエスト用紙と冒険者カード(偽装済)を提示する。
「確認いたします……はい、確かに。それでは報酬金の70万円です」
70万円をスッと差し出してきた。現金を生でホイと出されるのはまだ抵抗があるわね……。
「ありがとう。51万円は金庫で預かってもらえるかしら?」
「はい。かしこまりました」
「アリス様? なぜ51万円を?」
ロマンが不思議そうに尋ねてきた。
「今金庫に249万円あるからよ。300万円にしておけば計算も楽でしょう?」
「だ、確かに!」
残った19万円はわたくしがお財布に入れる。帰りに食材でも買って行きましょうか。ユリアンに精のつくものを食べてもらいましょう。
そうだ……「ロマン・ユリアンに柚子の気を聞いてもらう作戦」を今伝えるべきじゃない? ユリアンはいないけれど柚子がいない時なんて滅多にないわ。今がチャンスね……。
「ねぇロマン、こっそりわたくしたちだけでお茶でもどうかしら?」
「い、いいんですか? 私なんかに……」
「いいのよ。それにユリアンと柚子ってお茶するイメージ無いでしょう? きっとバレても文句は言われないわよ」
思案するロマン……。きっとユリアンに黙って楽しんでいいのかの葛藤があるのね。でも恩人たるわたくしからの誘いを無下にするわけにもいかない……といったところかしら。我ながら意地悪なことしているわね。
「じゃあ……少しだけ……」
ロマンが迷いながらも行く決断をした。となるといい感じのお店が必要ね。そうね……
「あそこのお店はどうかしら」
外観だけしかわからないけれど白を基調とした清潔感のあるカフェという印象。でも高級感が溢れすぎることはなく、ほどよい状態で保てている。今のわたくしたちにはちょうどいいんじゃないかしら。
「は、はい。アリス様について行きます!」
特にロマンからも反対はないからあそこでいいわね。
店内に入ってみると予想通りちょうどいい空間だった。適度な客数、適度な会話の音量。まさに"ちょうどいい"ね。
「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」
「ええ。ありがとう」
普通の女店員さんに案内され着席。さて、何を飲みましょうかね……。
「ロマンは決まったかしら?」
「わ、私はただのアイスコーヒーを」
それはいいわね。休火山とはいえ暑かったですし、わたくしもアイスコーヒーにしようかしら。
「バニラアイスもどうかしら?」
「じゃ、じゃあお願いします」
遠慮しがちなロマンも甘いものは好きなのか注文を躊躇う様子はない。ユリアンほどとは言わなくとももう少しグイグイ来てもいいのだけれどね。わたくしが圧をかけすぎなのかしら。
「すみません。アイスコーヒー2つとバイラアイスを2つ。よろしくお願いしますわ」
「はい。かしこまりました」
注文を受けてすぐ立ち去る店員。まぁこれくらいの温度がちょうどいいわね。たまにサービスが旺盛すぎるお店もあるけれどお話しするために来店したのならこれがベストだわ。お店側もそれをわかってやっているからこそのこの客入りなのでしょうね。
数分でアイスコーヒーとバニラアイスが届いた。さて、ここから作戦決行ね。ただ……そのためにはわたくしが柚子を好いていることをロマンに告白する必要があるのよね……。正直それはちょっと恥ずかしい……。遠回しにいきましょうか。
「ロマン、突然だけれど、ロマンには好きな人とかいるのかしら?」
「へっ!? ゲホッ、ゲホッ」
あらタイミングが悪かったかしら……驚かしてアイスコーヒーでむせてしまったようね。
まぁロマンにそんな様子はありませんし、「ない」の一言で終わるでしょう。そのあとやんわりとわたくしの柚子への気持ちを伝えれば……
「わ、わかっちゃいますか?」
「……へ?」
「アリス様はすごいお方です……恋愛面でも天才なのですね」
尊敬の眼差しを向けてくるロマン。これは予想外だったわ。
「でも……いつ私がユリアンを双子としてでなく、それ以上に好きだと気がつかれたのですか?」
え!? ロマンが好きな人ってユリアンなの!? 何それすっごく面白い話じゃない!
「ふっ……初めて会った時からお見通しに決まっているじゃない」
まっっったく気がつかなかったけれどまぁ知ったかぶりをしましょう。下手に否定したら面白い話も聞けなくなりそうですし。
それにしてもこれ双子百合というやつよね。いいじゃない……! なんだかわたくし興奮してきましたわ。
「流石ですアリス様……!」
「ふ、ふん! こんなの何でもないわよ!」
嘘ですけどね。とことん恋愛には疎いと今思い知ったわ。
「アリス様はどうやって柚子さんに想いを伝えているんですか?」
「そうね、私は……へっ?」
しれっとしているロマン。今この子……わたくしの核心を突いたのよ!?
「な、なぜわたくしが柚子のことを好きだと……」
「そ、それはバレバレですよ! 誰でも見ていたらわかると思います。柚子さん以外……」
そんなバカな……完ぺきに隠しているつもりでしたのに……!
「そ、そう……。あと勘違いしているようだけれど想いは伝えれてないわよ。柚子の気持ち、知らないもの」
ようやく話の本題に入れそうね……。
「そこでなのだけれど、ロマン。貴女に柚子の気持ちを探って欲しいのよ。お願いできるかしら」
「へっ!? わ、私がですか……?」
「えぇ。そうよ」
さぁ……どうかしら。受けてくれたら嬉しいけれど、ロマンは奥手ですし……。
「わかりました。でも取り引きです。私が柚子さんからバレないように聞き出す代わりに、アリス様にはユリアンの気持ちを探ってください」
「……へ?」
弱気なロマンとは思えぬ、強気な取り引きを持ち出してきたことに驚いて情けない声をあげてしまった。




