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39話 vsマグマ蜘蛛ですわよ

「※#@$€!!」


 もはや叫び声すらあげることを許されなくなったボルケーノモンキーたち。マグマ蜘蛛の白い糸に口元も塞がれているから。残酷な真似を……。


「すぐに開放してあげるわ。『ウィンド!』」


 足元から疾風が生まれ、私の身体を渦巻いていく。スカートがめくれるのよねこれ……。いや、今は気にしている場合じゃないわ。渦巻く風を手に集め、放出!


「※#@$€!?」


 暴風に押され、切られ、猿型の魔獣たちは息絶える。せめて安らかに眠りなさい。


「流石です! アリス様!」


「えぇ。ありがとう」


 柚子の言葉にしっかり返答する。さて、そろそろユリアンとロマンに気がついて欲しいのだけれど……どうかしらね。


「……妙なのです」


「う、うん。私もそう思った」


 心配いらなかったわね。2人とも優秀だわ。


「どうして今になって魔獣を放ってきたのでしょうか……まだまだ洞窟は続いているのに……」


「それに、さっきから数分おきに顔に糸がかかるのです。まるで監視されているかのように……」


 2人が手をアゴにやって考える。そうよ、考えなさい。そろそろ答えが見えてくるわ。


「そ、それだよ! きっとマグマ蜘蛛は私たちを監視しているんだよ!」


「だとしたら……上なのです! 『忍法:分裂手裏剣!』」


 分身する手裏剣を上へ投げつけるユリアン。さぁ、マグマ蜘蛛との戦いが始まるわね。


「キュイィィ!」


 手裏剣が刺さったのか上からはうめき声が聞こえてきた。


「伏せなさい!」


「へ?」


 ドンッ! と黒い塊が地面に落ちてきた。やがて黒い塊は足を伸ばし、その身体を大きく見せる。8つある足の丸みを帯びた関節部分が赤く燃えだした。これが……


「マグマ蜘蛛……!」


 柚子が驚愕の声をあげる。見た目だけなら今まで戦ってきたどんな魔獣よりも強そうね……。


「落ち着きなさい。まずは周りを見て状況把握よ!」


 洞窟内の中ではわりと開けている場所ではある。多少無茶や戦闘をしても崩落してくることはなさそうね。


「≪スキャン≫」


≪マグマ蜘蛛Lv33≫


 レベル33……ほとんど大蛇と変わらないじゃない! やっぱり報酬金はなんとなくのイメージで設定しているわね! ……いや、もしかしたら【アイン】の方が雑に決めているのかもしれないけれど……。


 ユリアンとロマンを見る。相手はレベル33……。レベル10の2人には明らかに荷が重い。でも……【魔蛇】も、【魔人】も、これから戦う全ての敵がこのマグマ蜘蛛よりはるかに格上。ここで甘えさせたらいざ本番で危険になるのは2人自身……。ここは心を鬼にするべきね。


「ユリアン、ロマン。行きなさい。危なくなったらわたくしと柚子が出るわ」


「ま、待ってくださいアリス様!」


 叫んだのは柚子。まぁ……内容は聞かなくてもわかるわ。


「何かしら?」


「危険すぎると思います! せめて私も一緒に……」


「わたくし達について来くるならこれくらいの危険は当たり前に潜んでいるのよ。本気で魔王を倒すわたくし達について来るということを甘くみてもらっては困るわ」


 そう、この先ずっと危険は存在する。毎回毎回わたくしと柚子が助けていたらユリアンとロマンは一生成長はしないし、わたくし達がカバーできないほど強い敵が現れるかもしれない。そうなった時に自分たちでもどうにかできるように2人には強くなってもらわないと困る。


「できるわね? ユリアン、ロマン?」


「「は、はい……」」


 肯定するものの、自信がないのがひしひしと伝わって来る。


「安心なさい。いざとなったらすぐにわたくしが駆けつけるから」


 何度もいうこの台詞。これが安心材料になるかはわからないけれど、言わないよりはマシね。


「ギュイェ!」


 マグマ蜘蛛は狙いを定めたかのように叫んだ。親切に待っていてくれたのかしら? それともこちらから攻めるまで下手に動かない気でいるのかしら?


「い、行くのですよ、ロマン」


「う、うん。頑張ろうね、ユリアン」


 2人は手を握って戦いを決意する。柚子はわたくしの説得を諦めたように一歩下がってわたくしの隣にきた。


「アリス様……少しでも何かあったら……」


「えぇ。任せるわよ」


 ……本当に妹のように可愛がっているようね。喜ばしいことだけれど、やっぱり少し妬いてしまうわ。


「行くのです!『忍法:爆裂手裏剣!』」


 刺さると爆発する手裏剣をマグマ蜘蛛へ向かって投げつける。が、


「キュルルィ!」


 8本ある足のうちの前2本で叩き落とす。地面で爆発した手裏剣ではダメージは与えることができない様子。


「ギュアァ!」


 マグマ蜘蛛が白い何かを吐き出した。おそらく……糸ね。


「ろ、ロマン!」


「う、うん! 『忍法:乱切り』」


 短剣を抜いて素早く腕を振り向かい来る糸を切り落とす。やるじゃない!


「決定打を……『忍法:爆・分裂手裏剣』」


 2つに分かれた爆発する手裏剣がマグマ蜘蛛に襲いかかる。そんな組み合わせもできるのね。便利な魔法じゃない。


「ギュイィ……」


 片方は落とせどもう片方は直撃する。右前足に刺さった手裏剣は爆発し、足を消滅させた。


「やったのです!」


「でも……まだだよ、ユリアン」


 そう、足を1本失ったというのにマグマ蜘蛛はバランスを崩す様子すらない。


 ユリアンが先制してロマンが追撃。これが基本スタイルの2人。ロマンの方が一歩引いて冷静に状況判断が出来ているわね。逆だったら今ユリアンが突っ込んでいたかもしれないわね。


「こうなったら……"奥義"を出すのです」


「だ、ダメだよ! もし失敗したら……」


「このままじゃ体力持たないのです! 私の体力じゃ爆・分裂手裏剣はあと2回しか打てないのです!」


「……な、ならいいよ。ユリアンを信じるから」


「任せて欲しいのです!」


 決まったようね。それにしても奥義、気になることを言うじゃない。となりの柚子もそわそわしだしたわ。


「やってやるのです……『奥義:潜影手裏剣!』」


 わたくしには普通に手裏剣を投げただけに見えた。でもマグマ蜘蛛にあたる直前で手裏剣は消え去る。


「な、何?」


 柚子も何が起こったかわかっていない様子。柚子が叫んだ瞬間、洞窟内にあるすべての影から手裏剣が生まれてきた。もちろん、わたくしや柚子の影からも。


「いっけぇ!!!」


「ギュイイイイイッ!!!」


 迫り来る無数の手裏剣にマグマ蜘蛛は手も足も出ない様子。しかし……


 ドンッ! とマグマ蜘蛛は思いっきり爆発した。


「なっ! 爆裂要素は含んでいないのです!」


 驚くユリアン。爆風で手裏剣は押し返され、影に戻っていく。


「そ、そんな……嘘なのです!」


 なるほどね……自爆による爆風で手裏剣を返した、と。それでいて本体は無事だからマグマ蜘蛛にとっては何の痛手でもないということね。足を1本失っただけ。まだ6本も足は残っている。


「う、うわぁぁぁぁ!」


「ロマン! やめなさい!」


 無謀にもロマンが突っ込んでいった。


「柚子!」


「はい!」


 言われるより前に柚子が動いている。機動力ではわたくしより柚子の方が優れている。頼んだわよ……。


「『奥義:乱輝斬り!』」


 ロマンの短剣に反射する光がたしかに乱れてたくさんに見える。それほど早く斬っているのはわかるけど……


「なっ……か、硬い!」


 本体に傷は一切ついていなかった。またしてもマグマ蜘蛛は足を光らせる。また自爆するつもり!? まずい、ロマンが!


「ロマンちゃん!」


 ドンッ! ともう一度爆発する。間一髪ロマンを救った柚子を確認して、わたくしが動く。


「良くやったわユリアン、ロマン、それから柚子。あとは任せなさい。『ストレージボックス』」


 取り出すのはもちろん巨大な黒い大剣。これなら本体も斬れるでしょう。


「ギュイイイイイッ!!!」


 マグマ蜘蛛はわたくしを敵とみなし襲いかかって来る。上等よ、やってやろうじゃない。


「ギュイァァ!」


「はぁあ!」


 ガキン!とマグマ蜘蛛本体に大剣を当てる。が、斬れない。この大剣をもってしても。


「嘘でしょう!?」


 マグマ蜘蛛の足が一斉に光り出す。まさか……すべての足を自爆させる気!?


「生意気な! 『ライトニング!』」


 黒い大剣に雷を走らせる。切れ味は抜群よ!


「はぁあああ!!!」


 思いっきり振りかぶってマグマ蜘蛛へ! わたくしの魔法で強化した大剣はスパン! とマグマ蜘蛛の本体を斬り裂いた。同時に光っていた足は光を失い……やがて完全に火が消えた。マグマ蜘蛛、これにて討伐ね。

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― 新着の感想 ―
[一言] マグマ蜘蛛は、自爆が厄介でしたね。ロマンちゃんとユリアンちゃんは、マグマ蜘蛛を倒せなかったけど、自分たちより格上の存在相手に、途中まで戦えてたから、二人にとっては進歩だと思います。ロマンちゃ…
2020/09/21 10:08 退会済み
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