25話 アイテムドロップですわよ
胸を突き刺された【魔蛇】は力なく地へと引きずり込まれる。地に伏してなお、【魔蛇】は蠢くそぶりを見せた。
「あぁぁ、あぁ……」
胸を刺されたから言葉になっていない。しかしわたくしたちへの恨み言だとはなんとなく理解できる。
「柚子」
「はい。『紫電:抜刀!』」
柚子の最速の刀でとどめを刺した・・・ことを確認してようやくひと息ね。
「あー、ギリギリだったわね。色々な要素が運良く絡み合って勝てた戦いでしたわ」
「アリス様の最後の一撃とサポートのおかげですよ!」
「そんなことないわ。活躍したのは柚子と、向こうの2人よ」
チラッとロマンとユリアンの方を見ると手を振って返してくれた。今までは余裕がなくて考えないようにしていたけれど、あの2人かなり可愛いわね・・・。もしかして【魔蛇】って見た目で生贄を決めていたのかしら。とも思えるわ。
負傷したロマンを抱えて街へ戻るため2人に歩み寄る。
「あ、アリス様。応急手当てまでありがとうございます」
「私からも感謝させて欲しいのです!」
「何を言うのよ。感謝するのはわたくしだわ。ありがとね、ロマン、ユリアン」
その言葉にユリアンはぱあっと、負傷中のロマンは静かに微笑んだ。
「そうだわ、せっかくみんなで倒したのだから【魔蛇】の死体でも見ていきます?」
「うっ……グロテスクなのは苦手なので私は遠慮させてもらうのです・・・」
「わ、私は見たいです! こんなに苦労したんですもん!」
「えっ!? じゃ、じゃあ私も見るのです・・・」
ユリアンがロマンの手を引いて段差を降り、【魔蛇】の元へ。
「改めて見ると大きいですね」
「よくこんなの倒せたのです・・・思い出しただけでも寒気がするのです」
まぁ全長なら10メートル近いのかしら? 相当大きな怪物ね。後ろに回り込まれて首根っこを掴まれた時にはショック死するかと思ったわ。
「さて、帰りましょうか」
と、言ったところで突然【魔蛇】の体が光り出した!
「みんな! 伏せなさい!」
全員瞬時に伏せる。・・・が、特に何も攻撃が仕掛けられたりはしない。イタチの最後っ屁というわけでもなさそうね……。
恐る恐る顔を上げて確認すると【魔蛇】の死体に一本の輝く刀が刺さっていた。
「何よ、これ……」
その刀は緑色のオーラを発している。[ムラクモ]の緑色バージョンといったところかしら?
「≪スキャン!≫」
≪神器[クサナギ]≫
クサナギ・・・確か日本神話のヤマタノオロチから出てきた刀よね。偶然にしては出来すぎているわね。明らかに【魔蛇】から出てきたんだもの。
「アリス様? それ・・・」
「どうやら神器のようよ。名前は[クサナギ]。[ムラクモ]の仲間じゃないかしら?」
これは[ムラクモ]を返す際にマジックアイテムのお店の店主さんに相談するしかなさそうね。と、思っていたら再び【魔蛇】の死体が光り出した!
「な、何なのよもう!」
今度現れたのは真珠のような玉。様子を伺っているとゆっくりとわたくしに近づいてきた。特に敵意は感じないわね。玉に敵意があるのかはわからないけれど・・・。
わたくしの目の高さで浮遊する玉はやがて高度を落とし、わたくしのポケットの方へ侵入しようとする。
「な、なんですの!?」
「アリス様、もしかして冒険者カードじゃないですか?」
「冒険者カードですって? これでいいかしら」
ポケットから冒険者カードを取り出し、広げる。すると玉は満足したかのように一度ぴょんと跳ねてから冒険者カードに吸い込まれていった。
「な、何なの・・・?」
冒険者カードには
≪name:アリス age:17≫
・個人Lv100
スキル・魔法
・偽装Lv100
・隠蔽工作Lv100
・吸収力Lv100
・サバイバルLv80
・飛行Lv69
・ストーキングLv20
・応急手当Lv13
・剣術Lv8
・絢爛の炎Lv8
・スキャンLv5
・ストレージボックスLv3
・ウィンドLv1
・フレイムLv1
・ライトニングLv1
・ダークネスLv1
≪特記:天性の才能の持ち主。眉目秀麗。○≫
と記載されている。特記の欄に白い○が一つ追加されているわね。何なのかしらこれ。
「もしかして・・・魔王の幹部を倒した称号・・・とかですかね?」
「何にせよ断定は出来ないわ。さて、流石にもう何も起こらないでしょう。【アイン】へ帰りましょう?」
ユリアンと柚子は徒歩で一旦帰路につかせ、手負いのロマンはわたくしが抱えて飛んで行くことに。すんすん……うん。この子もいい香りだわ。とても奴隷商人のアジトにいたとは思えないわね。
「かかりつけ医はいるかしら?」
「あっ はい。冒険者組合を南にいったところにある小さな青い屋根の病院です。でもこの時間に開いているかどうか・・・」
確かにそうね。今はおそらく23時前後。かなり遅い時間だわ。
その病院についてもやはり灯は消えている。まぁ一晩くらいでは命に別状はないでしょうけどやっぱり気になるわね。
「ごめんください! 開けてくれませんか?」
「ドアをコンコンと叩く。すると中から物音が!」
「なんだねこんな時間に……ん? ロマン君ではないか!」
初老の男性がドアを開けて身を乗り出したと思ったらすぐにロマンに気がついたわね。
「先生! お久しぶりです。実は負傷してしまって」
「そうかい。まぁ診察時間外だが診せてみなさい。それで君は?」
「わたくしは付き添いです。どうです? 症状は」
「かなり強い衝撃を受けたようだな。でも応急手当てが良かったのかかなり回復している。数日の間でいつものように戦えるようになるだろう」
「本当ですか! やったぁ!」
「あぁ。じゃあ塗り薬と骨に良い栄養剤を出しておくから毎日飲むように。お大事にな」
「先生ありがとうございます」
「夜分にどうも」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
・・・この世界に来てロクな男に出会った記憶がないけれどあの人はいい人そうね。なんか安心感があったわ。
「泊まる宿とかあるの?」
「あっ いえ・・・。奴隷として売られてしまったので……」
「そう。じゃあ今日はわたくしたちの住む島で寝泊まりなさい」
「いいんですか!?」
「えぇ。隙を作ってくれたお礼よ」
「そんな……お礼をするのは命を助けられた私たちのすることなのに……」
「気にしないことよ。さ、島まで飛ぶわよ?」
「はい!」
ロマンを抱えて飛翔! 赤い髪ってすごく綺麗に映えるのね。日本に帰ったら私も一度染めてみようかしら。
ロマンを島に上陸させたら次は柚子とユリアンを迎えに飛ぶ。大忙しね。今日だけで『飛行』の魔法のレベルが上がりそうだわ。
「よっと、これで揃ったわね」
「ありがとうございます!」
最後の柚子を島へ送り、焚き火を4人で囲む。
「お腹も空いているでしょう? 少し遅くはなったけれど夕食としましょうか」
「はい!」
「やったーなのです!」
「あ、ありがとうございます。感謝してもしきれません」
今日のメニューはとっておきのお肉を串焼きにしていただくこととしましょう。お味噌汁とかも作りたいけれど時間もかかりますし、異世界人の2人の舌に合うかわからないしね。
「明日はマジックアイテムのお店と領主の館へ向かうわよ。一応領主だけには【魔蛇】討伐の報告も必要でしょうしね」
「はい!」
柚子と明日の予定を確認していると・・・
「あの…アリス様って何者なんですか?」
「私も気になっていたのです!」
「わたくし? わたくしはそうね・・・」
こういう時返答に困るわね。日本という言葉が通じませんし。なら・・・
「わたくしは将来、世界最高の国を率いる人間よ」
今のわたくしを表すのは、この言葉しかないわね。




